倒します(かっこいいせりふ)
兵士モンスター達は、次々に出撃して行きます。
残りは、あと少し。
「さーて……」
魔王様はお城の屋根を見上げ、睨みつけました。
私とヴァンデ様もつられて顔を上げます。
城門部分の上部、あまり高くない部分の屋根。
でも、特に変わった所は無いです。
魔王様は一体、何を睨んでいるのでしょうか……?
そして、ついに最後の兵士部隊が、スー様ミズノちゃんと共に出撃しました。
妖精さん達も、急いで博士さんの開発室へ帰ります。
今この外庭にいるのは、魔王様、ヴァンデ様、そして私だけ。
……いや、もう一人いました。
魔王様の視線の先、屋根の上。
兵士達が全員出撃するのを待っていたかのように、唐突に姿を見せました。
「虫よけ魔法だねー。自分よりレベルが低いモンスターから見えなくなる。つまり戦闘回避の魔法だけど……私でもほとんど見えなかったよ。勇者レベルMAXは伊達じゃないねー」
魔王様が説明してくれました。
虫よけ魔法で姿を隠していたのは、勿論、勇者さんです。
青い鎧に、『受』の兜。
軍手、安全靴、釘バット。
それに肩には、小鳥さんロボットまで乗せて。
そんな見た目悪趣味なダッサい格好で、屋根の上に立っています。
「さてさて、作戦ターイムだよー二人とも」
魔王様は勇者さんを睨みつけながら言いました。
「実は私もスネキック使えるんだけどさー、勇者には効かないんだよね。完全に無駄行動になっちゃう。アホの和田君が考えた、ラスボス戦での素敵アホギミックさー」
和田さん云々の下りで、ヴァンデ様は「え? 誰の事?」と言わんばかりの疑問顔になりました。
が、今はそれを聞き返す暇は無いと判断したのか、スルーします。
「でもミィちゃんのクリスタルレインボーなら効くはずなのだよー。効果は一緒だけど、厳密には別の技だからねー」
「なるほどぉ……そうかもしれません」
システム面の話です。
スネキックは、『相手を即死させる』という『技』の事。
そして私のクリスタルレインボーは、『会心の一撃が決まると、強制的に相手が即死』という『スキル』。
ゲーム製作チームは、便宜的にこの即死スキルもスネキックと呼んでいましたが、細かい事を言うと全く別のシステムなのです。
「ミィちゃんの技が決まれば、勇者は死んでゲームオーバー……でも、ゲームオーバーはこの世界の終わりじゃないんだー。ヤツはいくらでもリトライ出来る。死んでも所持金が半分になるだけで、教会なり実家なりに戻れるからねー」
勇者さんが屋根から飛び降りました。
釘バットを大地に突き刺すように着地し、巨大な地鳴りがします。
「でも今回は所持金だけじゃ済まさないよ。殺した後に装備、アイテム、勿論所持金も、全部ぜーんぶ剥ぎ取ってやるのさー。勇者が何度でも生き返る限り、根本的解決にはならないけど……とりあえず時間稼ぎにはなるからねー」
勇者さんが、地面から釘バットを抜きます。
「ヴァンデ君はバフ魔法と回復魔法を掛け続けて、ミィちゃんをサポート! ミィちゃんは既に防御力MAXで『防御力を上げる』系の魔法は無意味なんで、『ダメージを半減』系の魔法で補助してあげてー!」
「了解っ……!」
魔王様の命令に、ヴァンデ様はすぐさま私に魔法をかけてくれました。
「私も同じ事しながら、たまにミィちゃんを回復するよー! そしてミィちゃん、とにかく頑張ってクリスタルレインボー!」
「は、はいい!」
駆け出す勇者さん。
同時に私も駆け出します。
「ミィ、死ぬなよ……!」
背中に、ヴァンデ様の声援と魔力を感じます。
カチカチな私の体が、更にカチカチになった……ような気がする。
でも心は熱いです。
「い、行きますよぉぉ勇者さぁぁんん」
私は叫んで気合いを入れながら、勇者さんに突撃しました。
勇者さんもそれに呼応するように、右手の釘バットを振り上げ、そして左手に雷の魔法を発生させ……
私の背後、ヴァンデ様達に向けて発射しました。
「うああっ! そ、そっちじゃないですぅぅ!」
慌てて雷の軌道上に回り込み、魔法を体で受け止めました。
雷魔法の直撃を受けても、私は無傷です。
魔法攻撃力は、装備の影響をさほど受けないためでしょうか。
最強装備な勇者さんレベルMAXが相手でも、私の魔法防御力が上回っているようですね。
それに魔王様達が、バフ魔法を掛け続けてくれていますし。
「私と戦ってるのに、なんでヴァンデ様達を狙うんですかぁ!」
怒って抗議します。
しかし勇者さんは無言で首をかしげました。
あちらからすると一対三の戦いなので、まずはサポート要員を潰すと言う正統戦法なのでしょうね。
「でも、私怒りましたよぉ!」
勇者さんの冷静な行動に対し、いつもの私なら怯える所ですが。
魔王様のバフ魔法のおかげでしょうか、それともヴァンデ様が後ろにいる安心感から?
今日の私は強気なのですよ!
私は足に力を入れ、勇者さんに近づきます。
勇者さんはレベルMAXでも、素早さのステータスはMAXではありません。
装備している最強武具も、攻撃力と防御力特化で素早さを上げる効果はありませんし。
つまり、私の方が素早いのです。多分。
勇者さんが釘バットを振り上げているので、先程のようにバットでガードされる事もありません。
私はすんなりと勇者さんの足を蹴ることが出来ました。
一発。
二発。
三発。
「ひゃっ」
四発目は不発です。
勇者さんが反撃の釘バットフルスイングをしたため、私は慌てて避け、一旦距離を取ります。
普段なら今ので数十発は蹴れるのですが、さすが勇者さんレベルMAXは抜群の反応速度です。
でも。
「いいよーミィちゃん。押してる押してるー! さっすがー最速だよー!」
魔王様の声。
そうですよ。
やっぱり私の方が速い!
攻撃力は無いですけどね……
「ここまで来てもらったのに、すみません勇者さん」
私は目前の敵を指差し、言いました。
「私、あなたを倒します!」
わあ、かっこいい!
珍しく噛まずに台詞が決まりました。
勇者さんも悔しそうな表情を浮かべ……てはいません。
いつものように何を考えているのか分からない顔で、懐からごそごそと何かを取り出し、
ゆうしゃ「
→どうぐ
」
私に見せつけました。
「……な、なんですかソレ?」
勇者さんの手にあるのは、お守りのようです。
それも何個も重ねて持っています。
「えーと……『道連れのお守り』……」
「えー!?」
私がお守りに書いてある文字を読み上げると、魔王様が驚きの声を上げました。
勇者さんはお守りを早々に懐に戻します。
道連れのお守り。
あれは確か……
「ミィちゃん、中止ー! 作戦中止ー! あのお守りはー!」
私も前世の記憶を掘り起こし、お守りについて思い出しました。
あれは、武器ガチャで手に入るレアアイテム。
排出率は低いですが、最高レアの武具よりは多少高い確率で入手できます。
武具全種コンプリートする程ガチャを回した勇者さん。
道連れのお守りを沢山持っていても、不思議ではないって事ですね。
そして、あのアイテムの効果は……
「自分を倒した相手を、道連れに殺しちゃうアイテムだからさー! クリスタルレインボー撃ったらダメー!」