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勢いで誤魔化す(やぶれかぶれ)

 なまえを にゅうりょくして ください。

 →デフォルトネーム



「私の名前はソリョ。ソリョよ。そう言えば今まで名乗って無かったわよね? 改めてよろしくねミィちゃん」


 縛られ横たわっている僧侶さんが、顔の半分を砂地の地面にくっ付けながら、今更な自己紹介をしてくれました。


 ソリョとは、ゲーム内で僧侶さんのデフォルトとして用意してある名前ですね。

 由来はまあ、本当にそのまんま『僧侶』を縮めただけという、捻りの無いものです。


「……自己紹介して頂く直前に、何かまた変な声が聞こえましたけど……」

「気にしないで。勇者様の仲間になった時から、自己紹介するたび聞こえるようになったのよ。勇者様の加護? いやむしろ呪い? これいつまで付いて回るのかしら?」


 なんとも難儀な御加護ですね。


「そう言えばもう勇者様の仲間じゃないんだし、『様』って付ける必要も無いわよね。勇者? 勇者のヤツ? 勇者のカス野郎? サイコ野郎? 盗人野郎? 変態野郎?」


 よほど不満が溜まっていたのか、堰を切ったように勇者さんの悪口を言いだす僧侶さん。

 そんな姿を見て、私はある事を思い出しました。


「あ、あのぉ。実はヴァンデ様もこの島にいらっしゃってですね……」


 ソリョさんを捕虜にするというのなら。

 ヴァンデ様に報告して、魔王城の捕虜収容搭に入る手筈を整えて貰うと良いかも。

 という考えを、皆に説明しました。


 兄ちゃんは腕を組み、考えます。


「そうか、そうだな。この人間をどこに幽閉するかまでは考えていなかったが……俺達が勇者の情報を聞き出した後は、魔王城に引き渡すのが筋かもしれん……」

「ええー!?」


 お兄ちゃんの台詞を聞いた僧侶さんは、顔色を変えて再びジタバタし始めました。


「ヤーん! ヤダヤダヤダヤダ魔王城で捕虜になるなんて無理無理ヤダあー! ヤダヤダ無理無理ヤダ無理ヤダヤダ無理ヤダヤダヤダ」


 子供のように半泣きで駄々をこねています。

 でも分かりますよ。怖いですよね魔王城は。

 私も未だに時々怖いです。

 血まみれのおじさんとかが歩いてるし。


「でもですね、お城にはさっき言ってた、テレビやシャワー付きの捕虜個室もありますよ」

「えっ。ホント?」


 一番良い部屋は、人間の王族である侯爵おじさんが入室していますが。

 以前ちらりと見せて貰った二番目に良い部屋も、中々なホテル並の設備があったはずです。


 私の言葉でソリョさんはピタリと泣き止み、暫く考えるように唸っていましたが、


「うう~ん、でもやっぱヤダー! 魔王城は嫌! 断る! もう勇者の情報教えてやんないかんね!」


 と、やはり拒否します。

 しれっと勇者さんへの様付けもやめてます。


「おいふざけんなよォ、クソ女ぁ! さっき教えるっつっただろォ!?」

「あんたもさっき『すぐ解放する』つったじゃん! 嘘付き! 嘘付き嘘付き嘘付き! ガリ男! 変態ロリコン吸血鬼!」


 また口喧嘩が……


 お兄ちゃんは、眉間にしわを寄せ深く考えています。

 そして私を見て、


「すまんなミィ。この人間はまずわんわん洞窟に連れて行きたい……ヴァンデ様への報告は、待っていてくれないか?」


 申し訳なさそうな顔で、そう言いました。


「ええ? 待つって……」

「というか、出来れば秘密にしておいて欲しい。ずっと」

「ええぇ!?」


 お兄ちゃんが、私に頭を下げています。

 今まで、『私がお兄ちゃんに何かを頼む』事は、たくさんありました。

 でも、『お兄ちゃんが私に何かを頼む』なんてほとんどありませんでした。

 っていうか初めてかも?


「お、お兄ちゃん頭を上げて……で、でもぉ……ヴァンデ様に嘘付くだなんてぇ……」

「嘘は付かなくて良い。ただ、黙っているだけで良いんだ。頼むミィ」

「うぅ……」


 お兄ちゃんにここまで頼まれると、私も断りづらいです。

 小さい頃から……今も小さいと言うツッコミは無しで……ともかく小さい頃から、何度も助けて貰っていますし。

 私もお兄ちゃんの事、大好きだし……

 

「わ、わかりました。私に任せといてくださいぃ……」

「いえーい! サンキューミィちゃん。ふぅ~助かったよ魔王城に行かなくて済んでさ! さっすがミィちゃん、心の友だよ!」


 ソリョさんが安心したようにハシャいでいます。

 いつの間にか心の友になっていますし。

 さっきは研究対象とか言ってたのに。


 でも、地方の一ダンジョンであるわんわん洞窟で捕虜になるよりも、規律の行き届いた魔王城で捕虜になった方が安全な気はするんですけどね。

 まあそこは気持ちの問題ですか。

 

「お兄さんとアホ吸血鬼もヨロシクね! 私、炊事も洗濯もそこそこ得意よ。女子力高い系僧侶として有名なんだから。どこで有名かって? それは私の心の中で」

「炊事洗濯って……テメェ、捕虜を勘違いしてねぇかぁ?」

「ところでわんわん洞窟って、シャワーあるの?」




―――――



「ふう……どうしよう……」


 ニワトリ大聖堂に戻る途中、つい大きな溜め息が出ちゃいました。



 先程のやり取りの後、お兄ちゃんが言いました。


「俺達は一旦この人間を連れ帰る。そしてすぐさま『勇者が今いる場所』をこの女から聞き出し、そこへ出撃する」

「聞き出すも何も、すぐ教えてあげるけど。勇者の野郎は反モンスター同盟って胡散臭い奴らと一緒に、人里離れた研究所で何か怪しい事やってるわよ」

「ではその研究所への地図でも描いて貰おうか」

「オッケ~ぃ」


 ソリョさんは既にぺらぺらと情報を喋っています。


 しかし……勇者さんを倒しに行くのなら、私も一緒に行きたいです。

 私はお兄ちゃんの目を見て、その気持ちを伝えます。


「い、一緒に私も……」

「駄目だ」


 お兄ちゃんは、申し出を最後まで聞く事無く即答しました。


「良いじゃねぇか。そのクソチビなら勇者に勝てるだろうしよォ」

「そうねえ。多分ミィちゃんは勇者のヤツより強いわよね」


 元勇者の仲間二人組は、そう言って私に太鼓判を押してくれます。

 でも、


「俺も勇者より強い」


 お兄ちゃんはそう言って、巨大な狼に変身しました。


「……まぁ、それもそうなんだけどよォ」

「そうねえ。さっき戦った感じでは多分勇者のあんちくしょうでもお兄さんには勝てないわね」


 元勇者の仲間二人組は、そう言ってお兄ちゃんにも太鼓判を押しちゃいました。


「ガウッ」


 ここは俺に任せて、ミィは四天王の仕事を頑張れ。

 お兄ちゃんは狼語でそう言って、元勇者さんのお仲間コンビを背中に乗せ、再び海を泳いで行っちゃいました。



 確かにお兄ちゃんの実力を考えると、おそらく勇者さんを倒してくれるでしょう。


 私が勇者さん打倒を決意した理由は、エルフと人間の戦争を止めるため。

 お兄ちゃんがここで勇者さんを倒してくれれば、その目的も達成されます。


 でもそんな危険な戦いへ向かう兄の姿を、ただ黙って見ているだけだなんて。

 私には出来ません。


 それにお兄ちゃんとウラセさんだけよりも、私も一緒に戦った方がもっと安全に勝てるはず。


 そうだ。

 博士さんに頼んで、小鳥さんロボとかでお兄ちゃんを追跡してもらい、勇者さんとの戦闘に私も乱入してしまいましょう!

 となると、まずはヴァンデ様にお願いしないといけません。

 お願いするには、さっきの出来事を説明して……

 ああでも、ソリョさんの事は秘密にしたまま、大事なポイントだけを説明……


 ……ど、どうやって説明しよう?



「はあー……どうしよう……」


 というわけで、私は困り果て、溜息をついていたのです。


「ええい、こうなったら勢いで細かい所は誤魔化してしまいましょう!」


 なんてやぶれかぶれ戦法を思いつきましたが、私の性格上それは無理があるでしょうね。


「お兄ちゃんが勇者さんの居場所を突き止めて、今向かっています! でもオッチョコチョイさんだから私に場所を教える前に行っちゃいました! 博士さんのメカで追跡プリーズ!」


 と早口で言っても、「で、どうしてお前の兄は勇者の居場所を知ったのだ?」と聞かれたらオドオドしちゃって、怪しまれて、誤魔化しきれないかも……


 しかしもうやぶれかぶれ戦法しか無いのです。

 時間も無いのです。

 私は覚悟を決め、「お兄ちゃんが勇者さんの居場所を~」と呟き台詞を練習しながら、大聖堂への道を早足気味に進みます。


「あ! ヴァンデ様大変ですぅ! 大変なんですぅぅぅ」


 ヴァンデ様とトサカさんは、大聖堂前の広場に出ていました。

 聖堂の中は藁の匂いがちょっとキツかったですからね。

 きっと気分転換でしょう。


「ミィ? どうしたそんなに慌てて……」


 ヴァンデ様がこちらに気付き、振り向きました。

 もうちょっと近づいて、練習通りの台詞を言おう……と考えた、その時。



 ドンッという、大地が震える音。



 突如、空から何者かが降って来て、私とヴァンデ様達の間に立ちました。



 私は何が起きたのかすぐに理解することが出来ず、呆然として立ち止まってしまいましたが、


「……!? ミィ、離れろ!」


 というヴァンデ様の叫び声でハッと気付き、半歩後ろに下がって、体勢を整えました。



『ほう。確かに異常なまでに大きなニワトリがいますね。それに、あれは魔王軍の軍師の少年……おやおや、例の人狼の子供までいますよ。これも計算通りですか?』


 空から現れた人物の肩に、ちょこんと乗っている小鳥さん。

 その小鳥さんが、言葉を発しました。

 良く見ると機械です。

 博士さんが作った小鳥さんロボットとそっくり。


 小鳥さんから聞こえる声……何度か聞いた覚えがあります。


 ……そうだ、この声は。

 博士さんの元助手で、元スパイ。

 反モンスター同盟の技術開発部長、サイサクさんの声です。



 そしてその小鳥さんロボを肩に乗せている、空から現れた人物……



 ゆうしゃ「

 はい

 →いいえ

 」



「勇者……さん!?」

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