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脱退(にげちゃった)

「どうして戦士さん……吸血鬼マスク……いやえっと、ウラセさん? ……が、お兄ちゃんとお友達になってるんです?」


 そうお兄ちゃんに聞いてみた所、


「友達じゃねェよクソチビ」


 と、怖い顔の吸血鬼さんから横やりが入りました。

 名前はウラセさんらしいです。さっき教えて貰いました。

 前世の記憶によると、最初から用意してあるデフォルトネームですね。


「で、でも前に『友人の吸血鬼マスク』ってお兄ちゃんが」

「あァ!?」

「ひぅぅ……」


 睨まれて、私は怯みます。

 もうヤダこの吸血鬼さん。

 タチの悪いチンピラですよ。 


「ちょっと! 小さい女の子を苛めるのはやめなさいよ、最低男!」


 手足胴体を縛られ地面に転がっている僧侶さんが、抗議してくれました。

 どっちが味方なんだか分かりません。


 ともかく、私の質問にお兄ちゃんが答えてくれました。


「ウラセが吸血鬼になった時、たまたま一緒に行動していてな。行く場所も金も無いと言うので雇った……ええと、詳しい事は後でフォ郎にでも話させよう。俺は説明が下手だ」

「フォローさんも関わっているんですか……」


 まあ、さほど意外ではありませんけどね。

 吸血鬼マスクなんて明らかにフォローさんのセンスですし。


「それに、どうしてお兄ちゃん達はこの島に来たんですか?」


 私の二つ目の質問に、お兄ちゃんは少し戸惑います。

 説明して良いものかどうなのか迷っているみたいです。

 でも私が「お兄ちゃん?」と少し強めに問いかけると、観念したように喋り出しました。


「この人間だ」


 お兄ちゃんは、ジタバタしている僧侶さんを見下ろしました。


「ウラセが人間だった頃から通じている情報屋に頼んで、勇者の動向を追っていたんだ」

「勇者さんのどーこーを? お兄ちゃんが?」

「ああ。勇者を見つけ出して、俺たちが倒してしまおうと思ってな」

「ええぇ!?」


 最近なんかコソコソやってるなあとは思っていたのですが。

 そんな危ない事をやってたんですか!


「勇者はわんわん洞窟の秘宝を狙っているからな。再び洞窟を襲う準備のため、修行や資金稼ぎもしていると聞いた。ならばヤツの準備が整う前に、こちらから倒しに行くのが得策だろう」

「そ、それはそうですけどぉ……そんな危険な……」


 いえ、特殊なボスキャラであるお兄ちゃんの実力なら、あまり危険ではないのかもしれませんけど。

 というか倒して貰うのがベストかも?


「うーん……と、とにかく私にも相談して欲しかったですぅ……」

「すまない、心配かけたくなかったのでな」


 そう言ってお兄ちゃんは、私の頭に手を置きました。

 また子供扱いされちゃってます。


「そういう経緯で、あの町だ」


 お兄ちゃんが海の向こうを指差しました。

 その方角に顔を向けると、港町が小さく見えます。

 人間さん達が住んでいる町です。


「あの町に、勇者達が今日訪れるはずだという情報が入った。俺は耳と尻尾、ウラセは牙を隠し、人間のフリをして町に潜入したのだが……情報がズレていた。来ていたのは勇者の仲間が一人だけ。しかも今日でなく昨日」


「っていうか何よその情報屋って! なんで私があの町に行くのがバレてんの!? ストーカー!? キモッ! キモッ! 身の危険を感じるんだけどどうなってんのよ。プライバシーの侵害って奴でしょ!」

「うるせぇよクソ女」


 騒ぎ立てる僧侶さんを一旦スルーし、お兄ちゃんは話を続けます。


「勇者本人では無かったとはいえ、勇者の仲間には違いない。捕らえて情報を聞き出せると考えた。そこでこの女の行き先について聞き込みをすると、小舟でこの島へ渡ったと知った」

「聞き込み!? 警察でもないのにそんな事をやったら、立派なストーカー行為よお兄さん! なんでストーカーばっかりなのよ、この世には! 変質者よ! 変質者!」

「そこで俺も泳いでこの島へ来たんだ」


 分かりました。そういう経緯があったのですね。

 でも、


「な、何故船では無く、わざわざ泳いで来たんですかぁ……?」

「そっちの方が早いからだ」

「なるほどぉ……いや……そう、かなぁ……?」


 我が兄ながら脳筋な考え方です。


「ふんっ、なーによ何よ何よお。それで私を捕まえて拷問して、爪剥がしたり、骨を一本一本折ったり、目玉くり抜いたり、舌引っこ抜いたり、臓器取り出したりしようってわけ?」

「ひぇぅっ……そんな事するんですかぁ?」


 僧侶さんはふてくされたように、エグい事を言っています。

 私が怯えてお兄ちゃんを見ると、否定するわけでも無く、「それも止む無し」という顔。


 ちょっとちょっと、怖いですよ。

 モンスターだから当然なのかもしれませんけど。


「テメェが勇者の居場所をさっさと吐かねえつもりならよぉ、そんな拷問をやる必要も、出ぇてくるかもなァ~?」


 ウラセさんが、悪そうな顔で牙を見せ笑います。

 しかし僧侶さんも勇者さんの仲間。選ばれし者。

 脅迫に怯える様子も無く、毅然とした態度で、


「あっそ。じゃあ話す」


 と一言。



 ……あれ?



「……そんなあっさりと話すのか? 抵抗しないのか?」


 お兄ちゃんが、拍子抜けしたような顔で確認しました。

 しかし僧侶さんの返事は変わらず、


「話す。痛いのヤだもん」


 話しちゃうそうです。


「なんだァ。根性ねぇヤツだなぁ」

「……根性? 逃げ出したあんたが良く言うわね」


 しかし話してくれるのなら好都合

 というか、さっきも散々私に勇者さんの情報を話してくれていましたしね。


「大体あんたさあ、『一緒に勇者様を説得しよう』って言ってたクセに」

「言ってねぇよ」

「一人だけさっさと逃げてさあ! もうホント最低のゲス野郎ねあんた。自分の言った事にくらい責任持ちなさいよ」

「言ってねぇっつってんだろォ」


 私も勇者さんを見つけ出したいと思っていましたし、これで事態が進展する……


「言ったわよ! 絶対言った! 言った言った言った!」

「言ってねェ!」

「言った言った言った言った言った言った言った言った言った言った言った言ったあ!」


 ……口喧嘩が始まってしまいました。


「あ、あのぉ。お二人とも落ち着いてくださいぃぃ……」

「そうだ。落ち着け」

「大体よぉ、あんなイカレた勇者の元で、あれ以上働けるワケねぇだろ普通よぉ!」


 私とお兄ちゃんが口を挟みましたが、無視されちゃいました。


「イカレてるですって!? そりゃ勇者様はいつも何言ってんのか分かんないしさ! 町で困っている人を助ける事もあれば、急に住居不法侵入したり、泥棒したり、通行人にケンカ売ったり! 戦争引き起こそうがお構いなしにエルフの里を襲おうとしたりさ! イカレてるよ、うんイカレてる!」

「だろぉ。あんなのと一緒に行動すんのは無理だってぇの」


 勇者さんが言われたい放題です。

 酔っぱらい達が作ったキャラなので、その時のイベントイベントで性質が変わっちゃうのです。

 一本筋の通ったキャラクターってヤツでは無かったかもしれません。

 ごめんなさい。それは前世の私達のせいですね。


「でも、そんな勇者様でも、勇者なのよ、勇者! 勇者ってのは、世のため人のために動いているの! 偉人なの!」


 僧侶さんは、その強気な性格を体現したような吊り上がった目で、ウラセさんを睨みつけます。


「そんな勇者様の力になれ。大変名誉な事だ。って、私は教団のお偉いさんに言われてんのよ! そりゃお偉いさんって言っても、信者を金持ってくるマシンくらいにしか思ってないし。セクハラも日常茶飯事、それも年端も無い少年少女相手に! もうホント最低よね。もはや教義もソラで言えない奴らばっかり! でも、私は……」


 ぺらぺらと早口で喋っていた僧侶さんが、急に俯き、少し小声になりました。


「私は、勇者様に……勇者様が……勇者様の……私……」


 そうか。

 色々と不満だらけみたいですけど。

 僧侶さんはきっと持ち前の正義感から、勇者さんについて行く覚悟を決めているのですね。


 うん、敵ながらアッパレな志。

 私の中の美奈子さんも、製作者として鼻が高いと思って……




「私も勇者様から逃げ出したかったのに!」




 え?



「なんであんただけ逃げてんのよ! 相談してよ! 仲間でしょ!? 相談してくれれば私も一緒に逃げたのに! あんた一人だけ逃げ出したせいで、私まで『逃げ出さないだろうな?』って教団の連中から釘刺されるようになったのよ! ここに来る間もずっと監視されてたし! なんで私はこんなにストーカーに縁があるのかしら。美人で優秀だから仕方ないけど! でもね、へへーん! わざわざボートに乗って尾行を振り切ってやったけどね! ざまあみろだわあのハゲども!」


 結局僧侶さんも、逃げたかったらしいです。

 そんなに勇者さんの仲間ってのは過酷だったのですか……

 まあ、前世の私達よっぱらいが作ったキャラですしね……申し訳ない。


「あんただけ逃げて、モンスターになっちゃって! プロレスラーにもなっちゃって! ミィちゃん達と楽しそうにしちゃってさあ! あーあー良いわね、良い御身分だわねこのロリコン野郎! 何よ、私だって……私だって……」


「じゃあテメェも逃げりゃ良いじゃねェか」


「……ん?」


 突然のウラセさんの言葉に、僧侶さんが虚を突かれたように静かになります。


「協力的に勇者の情報を明け渡すってんなら、俺らもテメェをいつまでも拘束しねェさ。解放された後、勇者のトコにも教団ってトコにも戻らねえで、そのまま逃げちまえば良いだろ」

「…………うん。そうね。そうかも?」


 僧侶さんが、納得したように頷きました。


 その時、どこからともなく、


『デロデロデロデロデンデデン』


 と、不吉な音楽が。

 そして、


『ゆうしゃは なかまを うしなった!』


 と、謎の声が。


「……なんだ、今の音は? 誰が喋った」

「ああ、良く知らねえけど。俺が勇者のトコから逃げ出した時もあんな音がしてたなァ」


 当然私は知っています。

 ゲーム中、勇者さんの仲間が脱退した時に流れるナレーションです。


 でも、それを言うと変な子扱いされるだろうから、


「なんなんでしょうねぇ……あはははハ」


 と笑って知らないフリをしました。

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