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因縁の戦い(まかせた)

「どうしてあんたがここにいるのよ! どうしてプロレスラーのフリしてたのよ! どうしてモンスターと一緒にいるのよ! どうして私を捕まえようとすんのよ! どうしてそんな悪人面なのよ!」


「……うっせぇなクソ女」


 驚きの余りお喋りになる僧侶さん。いや元々お喋りでしたけど。

 そして正体がバレちゃって、つい足を止めてしまった謎の吸血鬼マスク……戦士さん。


 私も、急な事態に理解が追い付きません。


 どうして、お兄ちゃんと戦士さんが一緒に行動していたのですか?

 しかもいつの間に吸血鬼に?

 こんな展開、ゲームには無かったですよぉ!


「あー! しかもその牙、あんた吸血鬼になったの!? ばっか、ホント馬鹿! 馬鹿ねあんた馬鹿! 信じられない!」

「あーうっせぇうぜぇ」

「吸血鬼になったから人狼達と一緒に行動してんの!? ミィちゃんの家来になったの!? ミィちゃん組に入ったっての!?」


 ミィちゃん組って……吸血鬼マスクさんを部下にした覚えは無いし、そんな組を作った覚えもありません。


「なんだぁ? 俺があんなクソチビの家来だとォ!? ざけんな、んなワケねぇだろ!」


 言い争いを始めてしましました。

 それを見て、どうしたら良いのか分からずオロオロしだした巨大狼のお兄ちゃん。


 はっ。今です。僧侶さんを捕らえるチャンスですよ!


「お、お兄ちゃん。今の内に僧侶さんを捕まえるんですよぉ」


 私は、小声でお兄ちゃんに呼びかけました。

 お兄ちゃんは耳が良いので、遠く離れた声も聞こえるのです。


「一度人型に戻れば、殺しちゃう事無く捕縛出来ると思います」


 そんなアドバイスにお兄ちゃんは無言で頷き、巨体に似合わぬ忍び足で僧侶さんの後ろへ回り込み、人型に戻りました。

 そして僧侶さんを羽交い締めにしようと、近づき……


「ちょっと、ミィちゃんのお兄さん! レディに触って何しようってのよ、変態なの!? 痴漢なの!? 性犯罪者なの!? 訴える準備はすぐ出来るんだからね!」

「ぬぅっ……」


 即バレちゃいました。

 僧侶さんはお兄ちゃんの方を振り向き、またもや光の魔法を放ちます。

 お兄ちゃんは魔法を避けながらも、突然の変態呼ばわりに冷や汗をかきました。


「変態じゃない。ただお前を捕まえようと」

「ここは私とウラセの因縁の対決として、お兄さんは手を出さないのが普通でしょ! 常識無いの!?」

「そ、そうなのか……?」


 お兄ちゃんは考え込むように顎に手を当て、固まります。

 相手のペースにハマっちゃってますよ、お兄ちゃん!


「ちっ……おいクッキー、俺からも頼むわ。ここは俺に任せて、お前は黙って見てろ」


 戦士さんはそう言って、縄をお兄ちゃんに投げて渡しました。

 お兄ちゃんはそれを受け取ります。


「……任せろ、だと? 勇者の仲間を捕まえるチャンスなんだぞ」

「あァ分かってんよォ。それでも俺にやらせて欲しいっつってんの」


 戦士さんは僧侶さんを睨みつけました。


「仲間と思ったことはねえけどよぉ、一応元仲間って事になってんだ。俺がケリ付けねぇとなァ」

「……分かった。お前に任せる」


 お兄ちゃんは地面に腰を落とし、胡坐をかいて腕を組みます。

 ええ!?

 戦士さんをずいぶんと信頼しているようですが、元勇者さんの仲間だった人ですよ。

 任せちゃって大丈夫なんですか!?


「へえ。あんたにしては男らしい決断じゃないの」


 お兄ちゃんの戦意が無くなったのを確認し、僧侶さんは戦士さんの方を振り向きました。


 ああ、ホントにタイマンが始まっちゃいます。

 二人掛かり、いや私も入れた三人掛かりでやれば確実なのにぃ!

 でもこうなったら仕方ない、せめて……


「む、むむ無傷でええ! お願いしますぅぅ!」


 私の叫びに、戦士さんは苦笑します。


「だってよォ。クソガキが言ってっけど、無傷は無理だろォなぁ。縄もクッキーに渡しちまったしよォ、どっちかが戦闘不能になるまでのデスマッチってヤツだァ。まあ死なない程度に殺してやんよォ」

「私もタダで捕まる程安い女じゃないの」


 僧侶さんは意を決した顔で、杖を握り直しました。


「だなぁ。お高い聖職者サマだもんなァ」

「相変わらず人を小馬鹿にした口調ね。いいわ、私があんたを……」


 僧侶さんは、杖を持った右手を振り上げ、左手の人差し指と中指を顔の前で立てました。

 振り付け付きの詠唱ってヤツです。

 高位の魔法を放つ気でしょうか……?


 僧侶さんの髪の毛が逆立ち、体から金色のオーラ。

 対峙する戦士さんは緊張した面持ちで、腰を低く構えます。


 これは……何か分かりませんが、とても凄そうな魔法が……!?



「私が! 吸血鬼モンスターになっちゃったあんたを!」



 僧侶さんは叫びました。


 集中しています。


 高度な魔法を練り上げるための集中。

 確実に戦士さんに当てるための集中。


 全神経を極限状態まで高め、戦士さんに向けているのです。



「あんたを! 倒してあげるわぁぁあ!」



 ……つまり後ろはガラ開き。隙だらけ。



「覚悟しなきゃああっ!?」



 悲鳴。



 カッコ良い顔でカッコ良いキメ台詞を言いかけた途中で、悲鳴を上げました。


 結局、魔法を放つ事も無く。


「な、なななな、なな、何すんのよ! ミィちゃんのお兄さん!」

「見れば分かるだろう。お前を捕まえている」


 お兄ちゃんが急にスッと立ち上がり、僧侶さんを背後から縄で縛り上げたのです。


「くっくく……あーっはっはっは! おめぇは相変わらず甘めぇ女だなァ!」


 戦士さんが腹を抱えて笑っています。

 お兄ちゃんはそのままぐるぐると僧侶さんを縄でふんじばり、手足が動かないようにしちゃいました。

 地面に転がる僧侶さん。


「何よ何でよ何なのよ! お兄さん、さっきは『うむ分かった任せる』とか言ってたクセに!」

「すまんな、嘘だ」


 念入りに縄をキツく絞めながら、お兄ちゃんがそっけなく言いました。

 そして戦士さんが、楽しそうな顔で近づきます。


「油断させる作戦に決まってんだろォ! 挟み撃ちの場合、片一方に意識集中させて、もう片方が背後から襲うのは基本中の基本だってなァ?」

「むっきいいいいい! 悔しいいいいいいい! アホおおおお! 死ね馬鹿野郎馬鹿馬鹿馬鹿バカあああああ!」

「精々悔しがれ。だいたい俺が正々堂々戦うわけねぇだろ、ばぁ~~~かァ」

「うわあああムカツクムカツクムカツクうううううぅぅぅうううう!」


 私もしばらく呆気にとられていましたが。

 はたと気付いて三人の元へ近づきました。


「お兄ちゃん」

「ミィ。頼まれた通り、無傷で捕まえたぞ」


 お兄ちゃんは笑顔で言いました。



 しかし、戦士さんが吸血鬼になって、お兄ちゃんと一緒に行動しているってだけで驚きなのに。

 あんなコンビプレイを取得していたとは……


 しかもあの素直なお兄ちゃんが、騙し討ちなんて高等なテクニックを……



「お兄さんもお兄さんよ! 不器用だけど熱血漢キャラって感じの佇まいしてたクセに! 騙して不意打ちするなんて卑怯よ卑怯! 男として大切なモノとかなんかそういうアレ的なモノあるでしょ!?」


 手足を縛られてもなお地面でジタバタあがき続ける僧侶さん。


「俺はモンスターだから、別に不意打ちが卑怯だとは思わないが……」


 お兄ちゃんは苦笑しながらそう言って、


「それに俺の大切なモノは、ミィだけだ」


 私の頭を撫でました。


「シスコン……」

「シスコンだなァ」

「は、恥ずかしいですお兄ちゃん……」

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