表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
酔っ払って作ったクソゲーの最弱ザコキャラな私  作者: くまのき
魔法使(えな)いミィちゃんとニワトリの秘宝編
111/138

信頼(たよれる)

 フサオさんは私を羽交い締めにしたまま、倒れたモンスターさん二人組に目線を向け、口を開きました。


「こっから先は、そいつら信者には見せられねーような事をしようと思ってまして、ちょっと眠って貰ったんですよ~。後で洗脳のし直しだぞ団十郎」

「分かっておりますぞ、アニキ」


 獺団十郎さんが手をパンパンと叩き、私とフサオさんに近づきながら言いました。

 フサオさんの事をアニキと呼んでいます。

 何故? どういう事? 獺団十郎さんがリーダーじゃないんですか?

 確かに、フサオさんの方が歳は上っぽいですが……


「……そうか、どこかで見た事あったと思っていたがお前は」


 ヴァンデ様が、フサオさんの顔を見て言います。


「化け猫にしては規格外の体躯、そして銀色のたてがみ。以前、化け猫の町の駐屯地で見たぞ。元魔王軍の兵士だな。数か月前に早期退職したと聞いていたが……確か名前は……」


 記憶を探るように、顎に手を置きます。


「猫吉だったか」

「へぇ、ボンボンのお坊ちゃまなクセに、下級兵士だったあっしの事まで覚えてくれてたんですねー。でも今はフサオって芸名でさぁ」


 ネコキチ……?

 ふ、フサオって名前は嘘だったんですか!?

 それに元魔王軍って……大企業にお勤めなさっていたのでは?


 ああーっ!

 もしかして、あのコマーシャルも全部嘘だったのですか!


「そ、そんなぁ……じゃあ痴呆症になった奥さん……キンメダイさんは……?」

金目鯛キンメダイなんて気の毒な名前のメス猫、いるわけねーだろー!」

「ああー! やっぱりそうだったんですかぁー!」


 私も変な名前だなとは思っていたんです。

 でもでもでもでもぉ!

 他人の名前にツッコミを入れるのは失礼かなと思って、スルーしてたのにぃ!


 ふ、ふーん!

 いいですもん!

 不幸な家族はいなかった、メデタシメデタシ! って思う事にしますもんだ!


「それで、軍を抜けた後に宗教を始めたのか? さっきミィに掛けていた幻術を利用して……おおかた、幸福感を無駄に増強させる類のものか」

「その通りでさぁ。幻術に加え、それっぽい教祖を立ててね。ちょうど昔からの弟分でね、顔だけはそれっぽく偉そうなカワウソがいましてねえ。コイツのことですが」

「どうも、某は獺団十郎と申す。以後お見知りおきを」


 獺団十郎さんはぺこりとお辞儀をし、茶化すように言いました。

 私が人質になっているせいで、ヴァンデ様の前でも余裕しゃくしゃくなようです。

 うーん、私にそんな人質としての価値があるとは思えませんが……


「だが、体が大きいだけの老猫でしかないお前が、そんな高等な幻術を使えるとは思えないな。貴様、除隊前に何かアイテムでも盗んだか」

「さすがお坊ちゃま、半分正解で。でも心外だにゃあ、軍から盗んだのではないですよ、拾ったのです。だからヴァンデ様も知らないアイテム。それがどんなものかって事まで教える義理はありませんけどね。それよりも、コチラもお坊ちゃまに聞きたい事がありましてねえ」


 なんてヴァンデ様と猫吉さんが喋っている間、私はバレないようにそろ~っと左手を動かしてみました。

 猫吉さんは大きな右手で私の胴と右腕を抑え込み、大きな左手を私の首に突き付けています。

 となると一応、私の左腕は自由。


 非力な私は、巨大な猫吉さんを振り払う事はできませんが、この自由な左手を使って何か打開策は無い物か……?


「このニワトリ国家。どうやってこんな大勢の人間を、こうも完璧に洗脳しているのかー? あっしらもの信者も増え続けてましてね。そいつらをここの人間達みたいに、思うがままにコントロールしてみたいのでさぁ」


 その猫吉さんの言葉に、元長老さんが反論します。


「洗脳などされておらんわい! 我々大ニワトリ帝国国民は古くから」

「コケッ!」

「人間と鳥は黙ってろ! 食うぞ!」


 猫吉さんは獅子や虎のような迫力で叫びました。

 元長老さんと、その周りの人間さん、そして小さなニワトリさん達は恐怖で口をつぐみます。


 ……ついでに、私も怖くてすくみました。


「で、どうなんですかいヴァンデさ~ま~?」


 そして猫吉さんは、再び軽い口調に戻りました。

 ヴァンデ様は猫吉さんの恫喝にも表情を崩さず、冷静に答えます。


「知らんな。私はこの村の件についてはノータッチだ。そもそも今日初めてここに赴いたし、初めて実態を知った」

「……へぇ、そんな余裕な態度で良いのですかねー?」


 猫吉さんは、左手の爪を私の首筋に近づけました。

 爪先が当たり、私の肌が軽くへこみます。


「ほーら、もうちょっと力を入れたら、このお嬢ちゃんの首がカッ切れて、血の海になっちゃいますよー?」


 脅迫する猫吉さん。

 ニヤニヤ笑っている獺団十郎さん。


 しかし、ヴァンデ様もそのお顔に軽く笑みを作り……



「貴様ごときが、ミィを傷付けられるはずがない」



 ハッキリと、そうおっしゃられました。


「はあ? あっしがちょっとこの左手に力を入れるだけで、もうこの人狼の首は……」


 猫吉さんが何か言ってますが、その内容は私の頭に入って来ませんでした。



 ヴァンデ様が、私の事を信頼してくれているのです。

 しかも笑って。

 ただその事が嬉しくて。

 そうだ、これが……


 幸せ?



 チリンと、猫吉さんの首の鈴が鳴りました。


「すず」


 私は、ポツリと呟きます。


 その言葉に、猫吉さんの腕が強張りました。

 私はそれには構わず、左腕を挙げます。


 首筋に巨大な爪が突き立てられ……そのまま無傷で跳ね返しました。


「なっ、痛あっ!?」


 鉄のような私の肌に生爪を押し付けた事で、逆に猫吉さんにダメージが入ってしまったようです。

 羽交い締めにしていた腕の力が弱ります。


 私は左手で、猫吉さんの首の鈴を掴みました。

 猫吉さんは慌てたように、後ろに下がりながら、私を突き飛ばそうとして……


 ぶちりと、首輪から鈴が取れました。


「幻覚。鈴……そうです。私知ってますよ」


 猫吉さんは私が手にしている鈴を見て、目を見開き、襲い掛かって来ました。

 しかし私は足に力を入れ、周りの皆さんからは『ワープ』に見える動きで、素早く後ろに下がります。

 猫吉さんの猫パンチは空を切りました。


「指パッチンもダンスもインチキでぇぇ、ほ、本当はこの鈴で幻覚を出してたんですよね!」


 私はヴァンデ様の後ろに隠れるように逃げながら、そう叫びました。


「ガキぃぃい……!」

「あ、アニキ~!」


 猫吉さんと獺団十郎さんの顔色が変わりました。

 やはり図星だったようです。


「ミィ、よくやった」

「えっ。えっへへへへー。むふふふ」


 ヴァンデ様が褒めてくれました。

 私は顔がふにゃふにゃに……はっいけない。気を引き締めて!

 まだ猫吉さん達をやっつけたわけではありませんよ。


「馬鹿にしやがって、ガキどもー!」


 ほら、猫吉さんたらザ・悪役みたいな台詞を元気に言ってます。

 私とヴァンデ様は、身構えました。


「軍師だか四天王だか知らんが、良い気になってんなー!」


 猫吉さんの体がモコモコと膨れ上がっています。

 身体能力アップ系の術を使ったのでしょうか?

 ただでさえ巨体だったのが、更に巨大な……もう比喩で無く本当にライオンになっちゃいました。


「ふん。化け猫でなく化け風船だったのか?」

「黙れガキ。もういい、小細工せずにぶっ殺してやりまさぁ! あっしはお坊ちゃんのようなエリート様が大っ嫌いなんでね、いつか殺してやろうって思ってたんですよー!」

「うひー、アニキ! かっこいいですぞー!」


 巨大になった猫吉さん。

 二足歩行も捨て、四足歩行となりゆっくりとこちらに近づいてきます。

 私はヴァンデ様の影に隠れ……い、いや、それじゃダメです。


「わ、わわわわ私が相手ですよぉぉぉぉ……!」


 そう叫びながら、一歩前に出ました。


「……ミィ?」

「わわわ私、ヴァンデ様をお守りするっててて」


 こ、怖いです。ライオン怖い。

 私の防御力なら大丈夫、死にはしない。

 でも、怖いものは怖いのですよ!


「約束、やくそくしましたからぁ」


 そうだ。イローニさんと約束したんです。


 こんなライオンさんにヴァンデ様が負けるとは思いません。

 今ここで、私が出しゃばって守る必要は無いかもしれません。


 それでも、私がヴァンデ様をお守りしないといけないのです。


「面白い。さっきはどうやって爪を弾いたのか知らねーですがね……今のあっしは、さっきの数十倍のパワーをぉぉ!」



 ガリッ。と。



 小気味良い音がしました。

 猫吉さんが私に攻撃した音ではありません。

 ヴァンデ様が猫吉さんに攻撃したわけでもありません。

 勿論、私でも、村人さん達でも無い。



「クエっ」



 巨大化した猫吉さんより、更に巨大なニワトリさん。

 トサカさんです。


「クックエェ~」


 トサカさんが、猫吉さんの頭をガブリと咥えています。


「おぶぶぶなやなああにゃああああごぉ」


 首から上をすっぽりとクチバシに挟まれ、猫吉さんはもがいています。

 さすがのライオンさんも、巨大ニワトリさんには勝てないらしく……


「あ、アニキー!」


 獺団十郎さんが、トサカさんの足元でわめいています。

 しかし戦いを挑む勇気まではないようです。

 そこにヴァンデ様がスタスタと近づき、手を伸ばします。

 カワウソさんは、


「ひゅぅー」


 と気の抜けたような呼吸を一回して、眠っちゃいました。




―――――



「あっぶ、ああぶううう」


 これは猫吉さんの呻き声。

 トサカさんが、猫吉さんの足を咥え、海すれすれを飛んでいるのです。

 たまに石切りのように水面に当たる猫吉さん。


 最初は「やめろー!」とか「殺すぞー!」とか威勢が良かったのですが、どんどん元気が無くなって「あぶあぶ」言うだけになっちゃいました。


「ああやって、獲物を弱らせておられるのじゃよ」


 と教えてくれたのは、元長老さんです。

 獲物って……食べる気なのでしょうか?


「猫吉達は城に連れて行く。もうすぐ護送用の兵士が来る。コマーシャルを打つほどの宗教団体、軍で利用できるかもしれないからな。鈴での幻覚を利用していただけではあったが……」


 ヴァンデ様が言いました。

 とりあえず食べられる事は無いようです。良かったですね猫さん達。

 ちなみに獺団十郎さんとその他二名の勧誘員は、気絶したまま縄で縛られています。


「鈴と言えばミィ。どうしてあの鈴が幻覚用のアイテムだと知っていた?」

「えっ。あ、はい。それはそのぉ……」


 知っていた理由。

 案の定、前世の記憶です。



 あれは勇者さん達が、私の故郷にあるわんわん洞窟のイベント……つまり私の死亡イベントをこなした直後のお話です。

 わんわん洞窟の秘宝を奪い、お金持ちの依頼主から報酬を貰う勇者さん。

 そして次なる高収入の依頼を受けます。


 それは化け猫ダンジョン奥深くに住む怪物、巨大猫のおヒゲを奪い取る事。


 化け猫ダンジョンとは、化け猫の町すぐ近くにあるダンジョンです。

 そして巨大猫とは、私が以前化け猫の町カジノで戦った、あの巨大猫さんと同じ種族。

 化け猫族では無く猫。超巨大な猫です。


「ほら、私の実家の猫。アホみたいに可愛いでしょ?」


 と、ちーちゃんさんが自慢しながら持ってきた猫の写真を、そのままパソコンに取り込んでグラフィックに転用した敵。

 ニワトリのモンスターではなくただの巨大ニワトリであるトサカさんと、似たような種族です。


 ともかく、その化け猫ダンジョン内で手に入るアイテムこそが、今回猫吉さんが使っていた『幻覚みせちゃう鈴』なのです。


 普通に戦っても倒せない巨大猫さんの首に、その鈴を付ける。

 すると猫さんはずっと笑いっぱなしになるので、皆でボコりましょう!

 というボス戦イベントですね。

 ちなみに鈴はそのボス戦で壊れます。



 きっと私がわんわん洞窟で生き残った事で、勇者さんは化け猫ダンジョンには行かなかったのでしょう。

 歴史、というかゲームのストーリーが変わり、鈴も壊れないままダンジョン内の宝箱に。

 そしてその後、偶然鈴を手に入れてしまった猫吉さんが、その力を利用して宗教を作った。


 ……って所でしょうね、多分。



 しかし、「前世で知ってましたの、うふふふ」なんて痛い説明は出来ませんよね。変な子だって思われちゃう。


「て、テレビで見ました。民放です」

「そうか」


 ヴァンデ様はそれ以上追及しませんでした。

 ふう、無事に誤魔化せましたよ。


「あらためて狼様、そして狼様の上司のお方。今日はあの化け猫達から大ニワトリ帝国を救ってくださり、ありがとうございますじゃ」


 元長老さんはそう言って、ニワトリ帽を被った頭を深々と下げました。

 それに続き、村民さん達も頭を下げます。

 そして小さな白きニワトリさん達も、「クワパパパ」と多分お礼を言っています。


「あっ、いえ。えへへへ、そんな大したことはぁ……」


 まさか人間さん達に感謝されるとは思っていませんでした。

 私はニヤけながら頭を掻きます。


「コッケエエエエ!」


 海の上で、トサカさんが叫びました。

 クチバシから猫吉さんが離れ、海に潜り「がぼがぼ」と溺れ、またすぐに足を咥えられ宙に浮きます。


「トサカ様も言っておられますじゃ。『ミィちゃんは大ニワトリ帝国の守り神だがね!』と」


 名古屋訛りなその言葉に、私は村人の皆さんと一緒に笑います。


「ミィ」


 笑っている私の肩を、ヴァンデ様が軽く掴みました。


「さっきは、俺を守ろうとしてくれて、感謝している……これからも、頼りにして良いか?」


 そう言って、ちょっと照れるように目線を逸らし……


「はははい! た、頼りにしちゃってくだひゃい!」


 私の方はちょっと所か盛大に照れ、顔を真っ赤にして返事をしたのでした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ