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酔っ払って作ったクソゲーの最弱ザコキャラな私  作者: くまのき
魔法使(えな)いミィちゃんとニワトリの秘宝編
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名古屋種(なごやこーちん)

 大ニワトリ帝国領地内、小高い丘にそびえ立つ大聖堂。

 茶色の巨大ニワトリ、つまりトサカさんの姿を描いたステンドグラスが壁一面に輝き、神妙で妖艶な光が注ぎ込んでいます。ニワトリの絵なのに。

 ここは、ゲーム内で勇者さんとトサカさんが戦う因縁の場所なのです。


 ステンドグラス前の広いスペースに大量の藁が敷いてあり、それを座布団代わりにして、私とトサカさんはペタンと座っています。

 そこに、ニワトリ帽を被った総務大臣、兼文部科学……ええと長いので元長老さんと呼びます。

 とにかく元長老さんが私達の前にやって来て、両手を掲げて叫びます。


「おおトサカ様。御神饌(しんせん)奉納致しまするー」


 すると村民の皆さんが「こけっこけっ」と言いながら、たくさんのお米や塩、お魚、果物、野菜にお水やお酒を持ってきました。

 八脚の木台と、神様への供物とかを置く前左右に穴のあいた白木製のアレ……あの台に乗せて並べています。

 ちなみに後で聞いた話では、あの台は三方と書いてさんぼうって呼ぶらしいですけど。まあいいや。


「この果物とか、食べても良いんですよね……?」


 私は目の前に置かれた葡萄とマスカットの盛り合わせを見て、唾を飲み込みます。

 緊張しているわけではありません。単純にお腹が空いて唾液が分泌されたのです。

 しかしトサカさんが「クエッ」と鳴いて、首を左右に振りました。

 食べたらいけないみたいです。何故!?


「うぅ……」


 目の前に美味しそうなフルーツがあって、村民さん達も「どうぞどうぞ」と言っているのに。

 食べちゃダメって、罰ゲームですか。何かの精神鍛錬ですか。

 毒でも入って……は無いですよね。歓迎されているんだし。


 そうか、今考えるとトサカさんはこの「食べ物がたくさんあるけど、食べられない」って状況になる事を知っていたから、事前にさつま揚げを食べていたのですね。

 ああ、やっぱり私もさっき屋台で何か買うべきでした。


 後悔しながらお腹を鳴らしている私の前に、人間の女の子がやって来ました。私と同い年くらいでしょうか。

 葡萄の乗った台を少し横にどけて、代わりに女の子自身がそこに座り、ペコリと頭を下げてきました。私もつられて頭を下げます。

 女の子は手に持っていた赤い頭巾を被り、仰向けに寝ころびました。

 そして目をギュッと固く閉じ、手をお腹の上で組み、恐怖に歪んだ顔で「どうぞ」と一言。


「……え? なんなんですか? 何がどうぞ?」

「この娘は狼様の好物、赤ずきんでございますじゃ。どうぞそのまま頭からガブリと一気に。醤油や味噌はどうしますかな?」


 元長老さんが、そう答えました。


「……えええぇぇ……た、食べません。そんなの食べませんんん!」

「おや、赤ずきんの祖母の方でしたか。しかしあいすみません、その子の祖母は既に他界しており」

「違いますぅぅ! 人間は食べないんです! 最近の人狼は、ヒト科ヒト属の生物を食べないのですぅ!」


 大昔ならともかく、今は人間さんよりもっと美味しいし、安定して供給される食品がたくさんあるのです。

 まあ広い世界、どこか探せばまだ人を食べる人狼も存在するかもしれませんが……

 少なくとも私は知りませんし、そもそもゲーム中にもいませんでした。


「では七匹の子ヤギですかな? あっ三匹の子豚? 申し訳ございませんじゃ、どちらも今切れておりましてのう」


 ははあ分かりました。この人間さん達は馬鹿なのですね。

 私が拒否した事で、哀れな赤ずきんちゃんさんはホッとした顔になって去っていきました。


「コケッコケケケケ」

「むむむっ……なるほど、承知いたしましたトサカ様!」


 フルーツと聖堂出口へ走る女の子を交互に眺めていた私の隣で、トサカさんが元長老さんに何やら伝えました。

 元長老さんは返事をした後、村民の皆さんの方へと振り向きます。


「皆の物! トサカ様はご満足されたとの事、皆で撤下神饌てっかしんせんをありがたく頂戴するのじゃ! 御下がりの儀ィー!」

「おおお~ありがたやーありがたやー」


 村人さん達は、さっき並べたばかりのお供え物達を、早くも片付け始めました。

 もちろん「こけっこけっ」と言いながら。


「ああ、葡萄がぁリンゴがぁ鯛がぁアトランティックサーモンがぁぁ……」


 私は、次々と運び出される食べ物達を、名残惜しい目で見つめました。

 皆テキパキと行動し、大聖堂の中はあっという間にすっからかん。

 食べ物を見せられて、すぐに片付けられて、結局ただ私のお腹が空いただけでした。


「では狼様、こちらを」

「はい? はぁ、どうも」


 元長老さんは、被っていたニワトリ帽を何故か私に預け、村の皆さん全員を連れて出て行きました。

 大聖堂は、私とトサカさんの二人だけになります。


「コッケ」


 トサカさんは、私の手にあるニワトリ帽を羽で差しました。

 被れと言う事でしょうか?

 そうか、この帽子はニワトリ語が分かるようになる魔法のアイテムでしたっけ。


 私は前髪を少し掻き上げ、ニワトリ帽を被りました。

 実は、この帽子ちょっと可愛いなと思っていましたので、わりと嬉しい。


「……えーと、被りましたけど」

『おお、それで俺の言葉分かるようになったがや』


 テレパシーと言うのでしょうか。

 トサカさんが「コケッ」と鳴くと同時に、私の頭の中に言葉の意図が流れ込んで来ました。


「あっ、はい。やっぱり名古屋訛りが混じっているのですね」


 トサカさんは名古屋コーチンなのです。


『さっきはごめんねぇ。葡萄食べたかったがんねぇ? けどが、ニワトリ洗脳術はアミニズムの考えを踏襲してるもんで、魔法や薬なんかは使わんで風習や話術を利用したオーガニック的な……』


 何だかイメージと違って難しい事をベラベラと喋っています。

 に、ニワトリなのに……


『……つまり、神様はお供え物を食っちゃあかんのだに。あくまでも撤下神饌、つまり神様に一旦お供えして御利益ごりやくが宿った食事を、人間達自身が食べる事によってよ』

「はぁ。何となく分かりましたぁ……色々と考えておられるのですね」


 ニワトリさんなのにぃー……。


 正直に言いましょう。

 ニワトリであるトサカさんは、魔王軍の中でもあまり頭が宜しくない組である。なーんて、私は勝手に位置付けていました。

 でも話を聞いていると、喋れないだけで頭良いじゃないですか!


 すると必然的に、幹部で一番のおバカさんは……私……という事になってしまいました。


「あ、でも待ってくださいよ。お供え物は後で人間さん達が食べるものって事は……さ、さっきの赤ずきんちゃんさんは……もしや今頃……!?」


 私は恐ろしい想像をしてしまい、ガクガクと震えます。


『大丈夫だがや。ややこやしかったねぇ。ミィちゃんは神様じゃないって伝えてたから、赤ずきんは神饌とは別て。お客さんに出すお茶菓子だわ』

「な、なるほどぉ……」


 一応安心しました。

 お供え物では無いのならば、赤ずきんちゃんは今頃、親元に返されたと思います。

 しかし、お茶菓子感覚で子供を出されても困ります。


「トサカさんは、魔王様の命令で大ニワトリ帝国を作ったのですか?」


 ついでだからと、質問してみました。

 大ニワトリ帝国を建国した理由は、美奈子さんも特に考えていませんでしたので。

 私の前世が適当でごめんなさいです。


『いんやちょっと違うんだわぁ。そもそも俺は魔王の手下じゃにゃーて、協力関係って奴でよ。俺は俺で別に世界征服しようって思っとるんだがね』

「えっ。手下じゃない!?」


 なんと、元製作者の私でさえ知らない新事実です。



 ……いや、どうだったかな?



「なんで大ニワトリのトサカは、魔王軍を裏切って勇者の仲間になっちゃうのかー? どう思うよちーちゃーんヌー」


 って感じで、居酒屋で酔って適当な設定を作ったような気もするような……しないような……

 酔っ払い過ぎてて覚えていません。



『人間もモンスターも全部ニワトリの配下にしてよ、世界を大ニワトリ帝国として統一すんのが夢なんだがぁ。でもまあ手始めに人間をどうにかせんとよぉと思って、モンスターと一時休戦して魔王の手伝いしとるんだで』

「そうだったのですか……」


 完全に味方ってワケではなかったのですね。

 まあトサカさんは正確にはモンスターではなく、あくまでも巨大なニワトリさんって設定ですもんね。


『ほんでも、最近は魔王がやる気にゃーてよ。鬼も悪魔もロボまでおるだに人間なんて簡単に支配出来るんだが、ちゃっとせろって文句言っても曖昧な態度でねぇ。俺も痺れ切らして、先にモンスターの方を倒しまっても良いかななんて思っとったんだわ』


 トサカさんが裏切ることは予定通りではあるのですが、魔王様への不満が招いていたようです。

 っていうか、魔王様ってやる気無いのですか?


『けどが、ミィちゃんが美味しいお菓子くれっから我慢しとったんだで』

「そ、それはどうも……」


 頭は良いけどやっぱりニワトリさんでした。

 私のお菓子で餌付け大作戦は、予想以上に効果を上げていたようです。

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