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酔っ払って作ったクソゲーの最弱ザコキャラな私  作者: くまのき
魔法使(えな)いミィちゃんとニワトリの秘宝編
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海を越え(びよんどざしー)

「か、観光だ……」


 私の「どうしてここに?」という問いに、お兄ちゃんが狼狽えながらそう答えました。

 出張という事は知っているので、「どんな仕事があってここに来たのですか?」って意味で聞いたつもりだったのですが、トンチンカンな答えが帰って来ました。

 そして何故か、私と目を合わせてくれません。


「……お仕事で出張じゃなかったんですか?」

「あっ、ああ。そうだ。仕事だ。仕事のついでに観光とか……だな、うん」


 目が泳いでいます。

 海の近くだからって目を泳がせなくても。


 怪しい。

 何か隠してます。

 お兄ちゃんは隠し事が苦手で、すぐ顔に出るのです。

 その分かりやすさ、さすが私と血が繋がっているだけの事はあります。まったく自慢になりませんが。


 お兄ちゃんは助けを求めるような目で、隣の吸血鬼マスクさんを見ました。

 しかし吸血鬼マスクさんは、明後日の方向を見て知らんぷり。

 このレスラー風の男性もまた、私と目を合わせたくないようです。


 な、何故……私、何か嫌われるような事しちゃいましたか?


「急いでんだ。俺ァ先に行ってるからなぁ、クッキー」


 そう言って吸血鬼マスクさんはスタスタと、港町出口の方へ歩いて行っちゃいました。

 お兄ちゃんは心細げに子犬のような眼差しで、マスクさんの後姿を眺めています。

 狼なんですからしっかりしてください。私が言うのもなんですけど。


 その後もお兄ちゃんはまごまごしていましたが、暫く考えた末、


「すまない、仕事内容についてはミィにも言えないんだ」


 と言いました。

 私もそう言われると、これ以上追及できません。

 お兄ちゃんのお仕事は気になりますけど、どうしても知っておかないといけない事ではありませんからね。


 私が「そうなんだ。わかりました」と言うと、お兄ちゃんはホッとした顔を見せました。


「ところでミィも仕事か?」

「はぁ、あっ、いえ、そのぉ……」


 今度は、私が狼狽える番となりました。

 よくよく考えてみると私、お仕事を抜け出してここに来ています。

 まさかお兄ちゃんに「サボって遊びに来たの。えっへへへへぇ~」なんて言えません。

 怒られちゃうかもしれないです。「職務放棄するなんて悪い子だ!」なーんて言われて。


 いやいや。モンスターなのですし、「悪い子だ」って事では怒られないかも?

 うーん、その辺のさじ加減が難しいんですよね、私達モンスターの倫理観って。

 ただ単に、その時のご機嫌次第って事なのですが。


 いや、でも更によくよく考えてみると、そもそもここへは魔法を使えるようになるため来たのです。

 魔王軍四天王の私にとって、戦力強化は立派なお仕事の一環なのでは?

 うん、そうだ。

 そうに決まっている。そうに決めました。


「そ、そうですね。私もお仕事です。えっへへへへぇ~……内容は言えませんけど」


 嘘を付いちゃいました。

 モンスターだから嘘を付いても許されますよね……?


 いや違った、これはお仕事に関係ある行動だって決めたばかりでした。

 嘘じゃないデス!

 お仕事デス!


「……もしや、この近くにある、人間が住む港町に行く気か?」


 お兄ちゃんは私の目を見て、心配そうな表情で言いました。


「え? いえ、違いますよ。そんな怖そうな所行けないですよぉ」

「そうかそれなら良いんだ」


 お兄ちゃんは私の頭をポンポンと軽く叩いた後、


「ミィも仕事頑張れよ。そうだ、そう言えば俺が頼まれたお土産は、地元のお菓子と人魚ジャーキーだったな。ちゃんと買っておくから、ミィは無駄遣いするなよ」


 と言って、謎の吸血鬼マスクさんの後を追って駆け出しました。

 ちなみにお菓子を頼んだのは私、人魚ジャーキーを頼んだのはヨシエちゃんです。

 人魚ジャーキーは出来れば人魚の肉が良いけど、売って無かったらスルメとかでも良いそうです。


 そんな食べたらお手軽に不老不死になれそうな商品は多分存在しないでしょうから、スルメを買うと思います。




―――――



 そして私達は、目的地である例の小島へと行きました。

 私はドラゴンさんの背に乗って、そしてトサカさんは自分の羽で、海を越えます。

 港から飛び立ち三十分も経たない内に、島の海岸付近上空へと辿り着きました。


 きめ細かい砂が波で湿り、そこに太陽の光が反射し、ガラスのようにキラキラ光っています。

 普通は宝石のようにと言うのでしょうけど、私あんまり宝石見た事無いので……



「おおぶぅぅへはぁぁぁあ」



 突如私は珍妙な叫びを上げ、砂浜に突っ込みました。


 カニのモンスターが掘ったのでしょうか、私の顔程もある大きな穴があり。

 その穴に、それはもう見事にずっぽりと頭が突き刺さり、腰の辺りまで埋まっちゃいました。

 地面から足だけ突き出ている状況です。まるで畑に生えた大根の葉みたいな。


 初めて見る砂浜に犬……じゃなくて狼の本能が顔を出し、私ははしゃぎ過ぎてドラゴンさんの背中から落下しちゃったのです。


 はしゃいだとは言っても飛んだり跳ねたりしたわけでは無く、ただ身を乗り出し下を覗き込んでいただけですけどね。

 それでもいつも消極的で、ママから「もっとキビキビ動きなさい!」と叱られ続けている私にしては、かなりはしゃいだ方です。

 高い所にいるという恐怖も忘れちゃってましたし。


「クエッ」


 トサカさんが私の足を咥えて、砂浜から引き抜いてくれました。


「ぶっへえええ」


 引き抜かれた際に、口や鼻に大量の砂が入り、私は奇怪な叫び声を上げました。

 この叫び声を聞いた動物は死ぬ……事はないのですが、トサカさんはちょっと驚いたみたいです。

 バサバサと翼をはためかせホバリングするトサカさんに、私は「ありがとうごじゃいましゅ」とお礼を言います。

 口の中の砂のせいで、マトモに発音出来ませんでした。


 ともかく、無事に島の海岸へ上陸出来ました。


「コッケエエエエエエエエ!」


 トサカさんが大きく一鳴き。長旅を終えた喜びの雄叫びでしょうか?

 ドラゴンさんは砂浜のど真ん中で、早々にお昼寝を開始しています。

 私はまず、砂でじゃりじゃりしてる口の中を海水ですすぎ、


「うわああああ辛いいいいいいい」


 悶絶しました。


 海の水はしょっぱい。

 知っていたのに、「そうは言っても、そこまでじゃないでしょ~?」と完全に舐めていました。

 私がバカでした。ごめんなさい海の神様よ。なーむー。


 と、私が悔い改めて地平線の彼方の神様にお祈りをしていると、がやがやと騒がしい声が聞こえてきました。

 海岸から島内地へ上がったすぐに、漁村が見えます。その漁村から聞こえるようです。

 何か事件でしょうか?


 私は自慢のオオカミ耳を澄ましました。

 私の聴力は普通の人狼より無いのですが、スライムさんとか人間さんとかよりは多少良いのです。


「トサカ様ー! トサカ様が御光臨されたぞー!」

「コケークワパッパッパッパッパ」

「クォッケパッパー」

「トサカ様ー! ありがたやー!」

「おい、貢物じゃー! 酒じゃ魚じゃー!」

「コーコッコッコッコ、こけー!」


 大勢の人の声と、大勢のニワトリの声が、こちらに向かって来ています。

 人……人です。そう、人間です。

 人型のモンスターではない、あれは正真正銘の人間。

 人間と、ニワトリです。

 ニワトリは、普通サイズの家畜用ニワトリのようです。


 人間さんとニワトリさん達が、走ってこちらへ近づいているのです。



「クォォッケーーェェェエエエ!」



 トサカさんが、いつもに増して大きな声で鳴きました。

 既に砂浜まで降りて来ていた人間さん達は、一斉に座り込み、地面におでこを擦りつけながら平伏しています。

 ありがたきお言葉ーとか言ってます。


「え……えぇぇ……!?」


 何故、人間が?

 何故、ニワトリが?


 私の頭の中は、ハテナマークで一杯になってしまいました。

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