表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
酔っ払って作ったクソゲーの最弱ザコキャラな私  作者: くまのき
魔法使(えな)いミィちゃんとニワトリの秘宝編
105/138

わた雲(ふわふわ)

「たかいーこわいーたっすけてぇぇぇー……」


 大ニワトリのトサカさんに後ろ襟を咥えられたまま、私は上空高くを飛んでいます。

 襟を引っ張られているため、首を絞められた状態なのですが、カチカチな私は一応平気です。


 しかし地面が遠い。

 ただでさえ魔王様のお城は上空数百メートルにあるのに、トサカさんったらそれより高く飛んでいます。

 空高い。高い。高いよ。高怖い。


 あぁぁ……更に上昇し、雲を突き抜けました。わた雲の上です。

 私のおぼろげな記憶によると、


「ミィちゃん。わた雲は下層雲って言ってね、地上から一キロメートルから二キロメートルくらいの比較的低地にあるんだよ。低地と言っても充分高いけどね。でさ、わた雲ってわた飴みたいでしょ。オジサンは昔わた雲をわた飴に変換する機械を作ってさ、ミィちゃんみたいな食いしん坊モンスター達のお菓子にして、軍の野戦食費を減らそうって計画したのさ。だけど飴を空高くに作っても、ほとんどのモンスターが食べられなくてあまり意味が無かったんだ。あと砂みたいな味がした」


 って、博士さんが昔、窓から空を眺めながらぶつぶつ言ってました。

 お仕事が忙しくて疲れているみたいでした。


 博士さんの精神状態はどうでも良いのです。

 とにかくここは、上空一キロメートル以上って事です。


 まあ木々や建物が虫のように小さくなってしまった地上を見るよりは、わた雲を見ていた方が幾分恐怖は薄れるのですが……いや嘘です強がりました。やっぱ雲の上の方が怖いです。


 わた雲ふわふわ柔らかそう。飴みたいで美味しそう。うふふん。

 なんてメルヘンチックな事を言う余裕もありません。


「ヤぁぁぁぁ……たっけてぇぇぇ……」


 私は喉から振り絞るように、擦れた声で叫びます。

 呼んでも誰も助けに来ない事は分かっているのですが、何かしら声を出していないと気絶しそうなのです。

 ちなみに『たっけて』とは助けてと高っけえの二つの意味を込めた……いややっぱり良いです。


 それでなくとも、襟を掴まれただけの不安定な格好。

 服が破れてしまったら、そのまま上空千メートルからの落下です。

 恐ろしすぎます。

 防御力には自信があるので落下の衝撃では死なないかもしれませんが、肉体は平気でも精神的ショックで多分死んじゃいますよ。



 しかし実は良く考えると、私の服が破れる心配は無いんですよね。

 今までも燃やされたり、雷に打たれたり、デカいロボットに踏まれたり、怪力フードファイターに殴られたりしましたけど、私の身体同様に服も無事でした。

 防御力は、身に着けている衣服にまで適用されているのです。

 なんて、冷静に考える余裕は、今の私には無いのですけど。



 送迎用ドラゴンさんの背に乗って空を飛ぶ事には、結構慣れてきていました。

 でもこんな、鳥の餌になっちゃったネズミさんみたいな恰好で飛ぶのは初めてです。

 ああ、ドラゴンさんの大きな背中が恋しい……



「ミィ。一体どこに行く気なんだい」



 ついに幻聴まで発症です。

 ドラゴンさんの声が聞こえてきました。


「私はあんたを送り迎えする事で飯を食ってんだ。勝手に魔王城の外に行かれたら困るんだけどね」

「……ど、ドラゴンさん……本物?」

「本物も偽物もあるかい」


 声がした方を見ると、幻聴ではありませんでした。

 トサカさんの横を、送迎用のドラゴンさんが並んで飛んでいたのです。

 どうやら私が空に飛び立ったのを見て、追って来てくれたみたいです。


「クィークックック」


 ドラゴンさんを見て、トサカさんが声を上げました。

 私の服を咥えているので、クチバシを閉じたまま喉だけでの発声です。


 これでもかってくらいに巨大なニワトリのトサカさんですが、並ぶとさすがにドラゴンさんの方が一回りも二回りも、いや五回りくらい大きいですね。


 トサカさんは少し上昇し、ドラゴンさんの背中にくっつくように併走。

 クチバシから、私の服を離しました。


「あうっ」


 私はドラゴンさんの背中に無事着地。

 固い鱗に、尻持ちを付いちゃいました。


「おかえり」

「た、ただいまです。はい」


 ドラゴンさんと、何だか変なご挨拶。

 トサカさんは「あー重かったぜ。やっと口が自由になった」とでも言いたげに、クチバシをパクパク動かして整理体操中です。


「どうする。城に帰るかい?」

「コッケー!」


 ドラゴンさんの言葉に、トサカさんが抗議の鳴き声を上げました。

 元はと言えばトサカさんは、私が魔法を使えるようにするために、どこかへ連れて行ってくれようとしているのです。


「いえ、このままトサカさんに付いて行ってください」


 と私がお願いすると、ドラゴンさんは「分かったよ」と承諾してくれました。

 トサカさんも張り切るように前を先導します。


「あ、でもすみませぇんトサカさーん! もうちょっと、低空飛行してくださぁぁい!」


 空高すぎて風の音がうるさいせいか、目的地近くになるまで、その願いは届きませんでした。




―――――



「わあぁ、海です! 海ですよ海。海。海だぁぁぁ」

「落ち着きなミィ」


 トサカさんがやっと低空飛行になった時、すなわち目的地が近づいた時、目の前に海が広がっていました。

 実は私は、実際に海を見るのはこれが初めてです。

 しかも高い所から、遠くまで眺められます。

 なんとも良い景色。


 すぐ近くには大きな港町。大小色んな船があって面白いです。

 もっと向こう、陸続きで離れた海岸にも船が並んでいます。ここよりもちょっと小さな港町ですね。


「コケッケケケ、クェックェッコケコーッケ。コッココッコココ」

「……え?」


 トサカさんが急に、長台詞を喋りました。

 しかしニワトリ語が分からない私は、首を傾げるばかりです。

 私が困っていると、ドラゴンさんが言いました。


「こっちの大きな方がモンスターの港町、あっちに小さく見えるのは人間の港町だから危険。って言ってるよこのニワトリは」

「なるほどぉ」


 地域案内してくれていたようです。

 意外と面倒見が良いのですね、トサカさん。


「っていうかドラゴンさん、ニワトリ語分かるんですか?」

「語学留学してたからね」


 一体どこに留学すればニワトリの言葉が分かるのでしょうか。

 聞いてみようとしましたが、トサカさんが


「コッケエェエエエ」


 と大声で鳴いたので、タイミングを失いました。

 モンスターの港町に向けて着陸準備を始めたようです。

 ドラゴンさんもそれに続きます。



 広場に着陸しました。

 この広場は大きな体を持つモンスターの休憩所になっているようで、周りには別のドラゴンさんや巨大な鳥さん、巨人さんなんかの姿が見えます。

 少し先には、客船に輸送船や連絡船、小さなボート等が止まっている長い桟橋。そしてその前には飲食店やお土産屋さんがたくさん並んでいます。


「この港が目的地ですか?」

「コケッ」


 トサカさんは首を左右に振ります。

 どうやら違うようです。


「コッケケコココ」

「海の向こう、あの小島に用があるってさ」


 トサカさんが羽を向けた海の先を見ると、言われた通り島がありました。

 島にも小さな桟橋があり、小さな船が何艇か止まっています。

 漁村って奴ですかね。


「クエコッコ」

「この町に降りたのは、腹が減ったからだってさ。あっちの島に行くとロクな食い物が無いらしい」

「へえ、確かにこの町なら美味しそうなものが沢山ありそうですね」


 さっき焼きそばをあげたばかりですが、トサカさんの大きな体には、ここまで飛ぶための燃料としては足りなかったようです。


 ちょうど近くに屋台があります。

 体が大きいモンスター用らしく、巨大クレープや巨大たこ焼き、巨大さつま揚げが売られています。

 漁港のさつま揚げは美味しそうですね。


 トサカさんは屋台の前まで歩き、羽の中からガマ口のお財布を取り出しました。

 クチバシと足と羽を器用に使いお金を取り出して、イカ入りとタコ入りの巨大さつま揚げ二本を羽で指定します。

 屋台店員の鬼さんは少し驚きながらも、お金を受け取り商品を渡しました。

 トサカさんはガツガツと美味しそうに食べます。


 一旦私はドラゴンさんの背中から降りて、トサカさんの様子を見ていました。

 私も食べたくなってきました。桟橋前に並んでいる建物に行けば、普通サイズのさつま揚げがありますかね?

 なんて思って、桟橋の方を見ていると、


「……あれ? お兄ちゃん?」


 見慣れた姿を発見しました。

 お兄ちゃんらしき背の高い人狼が、誰かと一緒に歩いています。

 そう言えば港町に出張すると言っていましたが、この町だったのですか。

 凄い偶然です。


「お兄ちゃん? おーい、お兄ちゃんですかぁ?」


 私は大声……は恥ずかしくて出せませんでしたが、ちょっと声を張って呼びかけてみました。

 耳の良いお兄ちゃんなら気付いてくれるはず。


「……ミィ? ミィか!? 何故ここに?」


 お兄ちゃんは気付いたようで、こちらを振り向きました。


 隣にいるお方は、何故か慌てた様子でしゃがみ込み、手荷物を漁り始めます。

 そして再び立ち上がったその顔には、プロレスラーのマスクを被っていました。


「おいクッキー……なァんでアイツがいるんだよォ……!?」

「すまんな。俺にも分からん」


 あれはお兄ちゃんのお友達、謎の吸血鬼マスクさんですね。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ