表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
100/138

二号ライダー(ごとうちひーろー)

「起きなさい。起きるのですミィ」


 お布団の中でぬくぬくと深い眠りについていた私は、突然の呼び声に起こされました。

 毛布を頭まで被り、目を閉じたまま……



 ……こんな展開、以前ありましたね。



 私は布団から頭を出し、目を開きました。

 眼鏡をかけた女性が立っています。

 お部屋は真っ暗なのに、何故か鮮明にお顔が見えます。


「……ちーちゃんさん」

「誰ですかそれは……? 私です。女の神様こと女神様ですよ」


 見た目は完全に、私の前世でお友達だったちーちゃんさん。

 でも違うらしいです。

 神様らしいです。


 袖口が広い白のセーターに、タイトなチェック柄のスカート。

 神様よりも女子大生って感じの服装ですけど。

 相変わらずダボッとした、ゆったりコーデがお好きなようです。


「ミィよ。その後、仮面狼マンの調子はどうですか?」

「か、仮面狼……?」

「あっいけねっ間違えた。こほん。オオカミライダーの調子はどうですか? 秘密結社ピョッキャーは壊滅出来ましたか?」


 自分が言い出しっぺのクセに、何故名前を間違えたのですか。

 私は女神様のやる気を疑いつつも、返事をしました。


「調子も何も、あれから一度も変身出来ないんですけどぉ」

「なるほどそう来ましたか。まあそうでしょうね、前回のはただの夢でしたから。夢オチ」


 知ってます。

 女神様がそれ言っちゃうんですか。

 っていうか、今この状況もどうせまた夢ですよね。


「あのぉ、どうせ夢ならもっと楽しい夢見たいので。ケーキの夢とか。女神様、帰ってくれませんか?」


 そう言って私は再び毛布を頭まで被ろうとしました。

 しかし女神様は布団を無理矢理引っぺがし、私が次の夢へ旅立つ事を阻止します。


「無駄ですよ。話を聞いてくれるまで、神様パワーで安眠妨害します」


 女神様は布団をバサバサと旗のように振り、私の気を削ぎます。

 神様パワーってのは随分と力技なのですね。


「それに今日は夢ではありませんよ。本当のお得情報を持ってきました」

「……ホントに夢じゃないんですか?」

「嘘です。夢です」

「お休みなさい」

「ああ、待つのですミィよ! 寝るな! 雪山で寝たら死にますよ!」


 毛布無しで眠ってしまおうとする私を、女神様はビンタで起こそうとします。

 ここは雪山じゃなくて、私の家ですけどね。


「もー、なんなんですかぁ」

「ほらベッドから出て。二本の足でしっかりと床に立って。今月のスペシャルお得情報コーナー、はっじまるよーん」


 女神様はどこからともなく取り出した『マジお得』と書いたフリップを右手で掲げ、これまたどこからともなく出現した紐付き小太鼓を首から下げ左手で乱打。そして口に咥えた小さなラッパをうるさく鳴らします。

 ご近所迷惑ですね。

 どうせ夢だから良いですけど。


 女神様はラッパをペッと口から落とし、お得情報コーナーを開始しました。


「ミィよ。非力でチビで小生意気で最近またちょっと太ったけど、なんだかんだそこそこ頑張っていないワケでも無いあなたに、神様ボーナスを授けます」

「太っ……!?」


 今回もまた罵倒されました。

 しかし夢の中で怒ってもしょうがないので、一旦スルーします。


「神様ボーナス。それは超々強くなれる術です」

「またですか?」

「はい。パッパと行きましょう。詳しい説明は省略です」


 女神様は、フリップと小太鼓を床に置きました。


「今回は変身ポーズは無しです。非常に残念ですが、我慢してくださいね」

「あっいえ。別にあまり残念ではないです」

「ではこの変身ベルトをどうぞ」


 なんだかゴテゴテした装飾付きのベルトを頂きました。

 その装飾は留め金(バックル)というにはあまりにもゴツくて、お腹が全部隠れちゃう程の大きさです。

 ひまわりの種みたいな楕円形のデザインで、真ん中には赤くて半透明で真ん丸な玉。まるで目みたい。


「その装飾は留め金(バックル)ではありませんよ。留め金(バックル)は背中部分に別にあります」

「はぁ、背中に留め具があるんですか。赤ちゃんの抱っこ紐みたいですね」


 私は女神様に手伝って貰い、変身ベルトを装着しました。

 そしてスタンドミラーの前に立ってみます。

 イヤイヤながら仕方なく付けてみたベルトですが……


「どうです。カッコイイでしょう?」

「……か、かっこいいです!」


 実際に付けてみると中々良いじゃないですか。

 正義のヒーローっぽいですよ!

 私は目を輝かせました。

 ありがとう神様!


「よかって事よ」


 あ、今勝手に私の心読みましたね。


「今回の変身方法は簡単です。そのベルトのバックルに、このカードを当てながら『変ッ身ッ!』と叫ぶだけです」


 女神様はそう説明しながら、一枚のカードをくれました。

 赤い紙片に、影のように真っ黒な狼のイラストが描かれています。


「バックルに当てるのですね。えっと、背中の……」

「ああいえ、違います。背中の留め金(バックル)ではありません。お腹の目ん玉みたいなその大きなバックルに当てるのです」

「え……ええと、バックル? でもさっきこのお腹部分の装飾はバックルじゃない、背中のがバックルだって、女神様自身が言ってたじゃないですか」

「お腹のは留め金(バックル)では無いです。でもバックルなのです。前はバックル、後ろは留め金(バックル)。分かんないかなーこの微妙なニュアンス」


 分かりません。

 意味が分かりません。


 細かい事は置いといて、もうとりあえずさっさと変身しちゃいましょう。

 私は頂いたカードを、お腹のバックルに近づけました。


「自動改札機のプリペイド乗車カードみたいに、ちょこんと触れるだけで良いですよ」

「あっ、はい」

「それ、変身! 変身!」


 女神様は手拍子しながら囃し立てます。

 まるで酔っぱらいみたいなノリ。

 ご期待に応え、変身してみましょう。


 最初は文句を言っていた私も、ちょっと楽しくなって来ましたし。


「へ、へんっしぃぃいん……!」


 照れが入っちゃいましたが、言われた通りに叫びました。


 私の体が発光します。

 そのまま光が広がり、部屋中を包み込む。

 案の定起こる大爆発と、それに伴う家具の破損。

 窓や電灯は割れ、壁にはヒビ。本棚は砕け、中の本がばらばらと床に散らばります。

 まあ夢だから別にいっか……



 光が収まった後、私はすぐにスタンドミラーで自分の姿を確認します。

 そこには、筋肉ムキムキな成人男性が立っていました。


 前回変身したオオカミライダーは、スマートなフルフェイスの仮面に、全身青黒いプロテクターでした。


 今回もフルフェイスマスクです……が、なんだかおかしい。

 オオカミライダーは固い樹脂素材の仮面でしたが、今回はふにゃふにゃの布。

 デザインも前回のスマートな路線とは違い、ツノとか髪の毛とか色んなものが付いています。一応狼の顔をイメージしているのでしょうけど。

 ヒーローというより……どっちかというとプロレスラーですね。

 顔の下半分、口周りの素肌が出てますし。


 体も、歩くたびにガサガサ音を立てる、ポリエステル製の衣服。

 全身黒に、取って付けたような胸、肩、膝の青いプロテクター。

 あと白い手袋。



「……な、なんだか前回に比べてチープじゃないですかぁ?」

「ブラボー。カッコイイですよブラボーゥ」


 私の不満を無視し、女神様は歓声を上げ拍手しました。


 ちなみに変身後の声は、やっぱり元の私のままです。

 身体はマッチョな男性、声は十一歳の人狼少女。

 非常にアンバランスです。


「おめでとうミィよ。あなたはこれからオオカミライダー二号として、大活躍の限りを尽くすのです」

「オオカミライダー二号……えっと、今回もまたステータスが二百倍になってたりするんです?」


 前回、オオカミライダーに変身することで、私は攻撃力その他のステータスが飛躍的に向上しました。

 ……まあ夢だったんですけどね。


「いいえ、ステータスはそのままです。秘密結社ピョッキャーが壊滅した今、もう強くなる必要は無いでしょう? まだ強くなりたいと? 可愛い顔してとんだバーサーカーですねあなたは。反省しなさい」

「す、すみません。反省します」


 理不尽な怒られ方ですが、つい謝ってしまいました。

 そもそもピョッキャーなんて、壊滅するまでもなく最初から存在していなかったのですが。


「そもそも女神様が『超々強くなれる術』って言ってたんじゃないですかぁ」

「はて……記憶にございません」


 何を言っても無駄なようです。

 私はがっくりとうな垂れます。


「……じゃあ、二号は何の分野で活躍すれば良いんです?」


 という私の疑問に、女神様は胸を張り、得意気な顔になりました。

 ああこの顔。

 飲み会でお酒を飲んで、好きな漫画やアニメ、小説の中二設定を語る時のちーちゃんさんそのものです。

 やっぱり酔ってるんですか?


「酔ってませんよ。悪の組織無き今、オオカミライダーは次のステップに進むのです」

「次のステップ?」

「はい。それはズバリ、社会貢献。それも地域密着型で好感度と知名度アップ。そう、オオカミライダー二号はご当地ヒーローとなり、故郷である人狼の村を盛り上げていくのです」

「ご、ごとうちヒーロー? 社会貢献?」


 悪の組織と戦う事も社会貢献な気がしますが、ここで言う社会貢献は多分もっと地味な活動の事ですよね?

 社会貢献はそりゃあ大事でしょうけど、でもなんだかオオカミライダー一号に比べて一気にショボくなったような。


「ショボくなんて無いですよ。企業も上場した後は経営目的に社会貢献の欄を追加します。つまり社会貢献は、より高次元の世界に到達した証拠と言えるでしょう」

「な、なるほどぉ……」


 正直よく分かりませんでしたが。

 難しい言葉で言われると、なんとなく納得しちゃいます。


「で、では具体的にどのような貢献を? 公園の掃除とか、子供館での絵本読み聞かせですか?」


 そんな私の言葉に、女神様はやれやれと溜息しつつ、首を横に振りました。


「地域社会貢献と言うと、ご当地B級グルメの開発及び宣伝ですよ? それ以外は無いと言っても過言ではありません」

「過言だと思いますが……」


 こんなムキムキマッチョなヒーローに変身しておきながら、やる事がB級グルメのお料理なのですか。


「ミィ、いやオオカミライダー二号よ。ご当地B級グルメと言ったら何を思い浮かべますか?」

「何を、と言われましても……ええーとぉ……」



 ふと大昔の事を思い出しました。

 私の前世、美奈子さんがこう言っていました。


「ご当地B級グルメってさー、焼きそば多いよねー。そんでなんか変な具が入ってんの。で、さもこの焼きそばには歴史があってご当地住民の皆さんにはお馴染みの~って雰囲気出してるけどー、ホントはつい最近出来た料理なんだー」


 それは、大学の学祭で何かを出店しようと話し合っていた時。

 美奈子さんやちーちゃんさん達は、『伝統名物カラフル焼きそば』なるご当地グルメをでっちあげました。

 具はカラフルな麩菓子。

 別に大学がある地域は、麩菓子が有名ってわけではないです。

 更に言うなら焼きそばが有名ってわけでもないです。


 ただ具の物珍しさのワリに、『焼きそばならそこまで変な味にはならないだろう』という安定感。

 お手頃な価格。

 それに焼きそばが立ち食いしやすい料理という事もあり。

 予想以上に売れました。


 そして利益率もそこそこ良く、結構な儲けが出て。

 学祭後の飲み会は、ちょっと贅沢なものになったのです。



 以上の記憶を踏まえ、私は女神様の質問に答えました。


「……焼きそば、とか」

「正解! 後はからあげとかコロッケとかも多いですが、月刊神様ウォーカー調べによると九割七分は焼きそば、もしくは焼きうどんです」


 そうなんですか。

 九割七分ってのは、調査対象が偏っているだけな気もしますが。


「それに狼と言えば? それは赤ずきんちゃん。赤ずきんちゃんと言えば、別居しているお婆ちゃんへのお土産の焼きそば。ほら繋がりましたね。人狼の村の名物にピッタリです」

「お婆ちゃんへのお土産は焼きそばでしたっけ……? ケーキやワインだったような……」

「そういう説もありますね。童話には様々なパターンがあります。神の国に伝わるパターンでは、焼きそばなのです」


 どうして神の国に、よりにもよってそんなジャンクなパターンが伝わっているのですか。

 私は腑に落ちない顔をしましたが、女神様は気にせず言葉を続けました。


「ご当地焼きそばで肝心なのは具。そこで再び質問ですオオカミライダー二号よ。人狼の村で、焼きそばの具になりそうな品は何があるでしょう?」

「えっ、具ですか。えっと、その、ええっとぉ……」

「十秒ー」


 慌てる私に対し、女神様が囲碁の時間読み上げのような声を出し煽って来ます。

 そしてそのまま「ぶぶー。時間切れです残念」と、不正解扱いされちゃいました。


「狼と言えば? それは三匹の子豚。三匹の子豚と言えば、豚バラ、豚モモ、豚足の三兄弟ですね」

「そんな精肉みたいな名前でしたっけ……?」

「神の国ではそうなのです」


 もう突っ込みませんよ。


「ここでやっと結論。人狼の村の新名物ご当地B級グルメは、豚バラ、豚モモ、豚足の豚肉三種類を具にした焼きそば。その名も『狼さんは大好きだからつい豚さんの家を壊しちゃう焼きそば』です」

「狼さんは大好きだからつい豚さんの家を壊しちゃう焼きそば……」


 長い名前です。

 だけど、ご当地B級っぽい名前と言われれば、そう……かも?

 ううーん……


「ここに試作品があります。さあ食べるのですオオカミライダー二号。そしてテレビとかで、この焼きそばを片手に、ちょっとウザくて寒いくらいのオーバーなノリで宣伝するのです」

「あっはい。頂きます」


 私は焼きそばを食べました。

 オオカミライダー二号のマスクを被っていますが、口部分は露出しているので、食べ物を口に入れる事が出来ます。

 なるほど、だからこのタイプのマスクなのですか。


 そして肝心の焼きそばの味。

 豚肉の油がちょっとしつこいですが、これは確かに美味しい。

 とにかくお肉たっぷりなので、モンスターの皆さんには好評頂けそうです。


「うん、うん。美味しいです」


 私の感想に女神様は微笑み、割れた窓から外の景色を眺めました。


「焼きそば。懐かしいですね。実は私も学生時代、悪友と適当にご当地焼きそばをでっちあげて売り捌いたものです。具は麩菓子。別に麩菓子は土地の名物でもなんでもなかったのですが……」


 女神様が遠い目をして懐かしんでいます。

 っていうか、その思い出は……


「やっぱり、女神様はちーちゃんさんですよね?」

「チーチャンサン? 何ですかそれは知りませんよ……私の学生時代と言うと、私立メガミンブリッジ大学です」




 …………




「はっ!?」


 そこで目が覚めました。

 私はお布団から飛び出します。


 一応部屋を確認しますが、窓や壁、家具等は、別に壊れていません。

 変身ベルトも、どこにもありませんでした。


「まあ、夢ですよね……」


 またアホみたいな夢を見てしまった自分に、ちょっとだけ嫌悪。



 その後朝ごはんを食べ、お仕事へ。

 お仕事帰りにミズノちゃんと一緒に、マリアンヌちゃんのお店へ遊びに行きました。


 この変な夢についてマリアンヌちゃんに話したら、偶然来たマリアンヌちゃんのママが大変面白がってくれて。

 経営する百貨店一階の食品コーナーで、小さな出店として『狼さんは大好きだからつい豚さんの家を壊しちゃう焼きそば』を販売。

 商売上手でコネも豊富なマリアンヌちゃんママの手により、たった三日後には本当に人狼の村の人気新定番ご当地B級グルメになってしまったのですが……


 ちーちゃんさん、いや女神様はあくまでも夢の住民であり。

 アイデア料として頂いた大量のお菓子は、私が食べてしまってもバチは当たらないと思います。

細々と続けて参りましたが、このエピソードで無事100話目を迎えられました。

記念すべき100話目がこんなのになっちゃいましたが、これからもよろしくお願い致します。m(__)m

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ