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田舎の雷(うるさくてねむれない)

 雷は嫌いです。



 外では雨が強くなり、時々稲光がしています。


 大地の底まで響き渡るような雷鳴が轟いて、私は反射的に布団に頭まで潜り込みます。

 さすが山奥なだけあって、今までに体験した事が無い大音量の雷です。


 ……どうしよう。お兄ちゃんやヨシエちゃんのお部屋に行って、一緒に寝て貰おうかな……いやいや、それはさすがに子供っぽ過ぎますよね。


 で、でもこれは私が特別怖がりなわけではないのです。多分。

 子供はみんな雷が嫌いなんです。

 私も、ヨシエちゃんも、お友達のハナコちゃんもメリーちゃんもマリアンヌちゃんも。

 サイコロステーキスライムのジュンちゃんも。みんな雷は嫌いだって言ってました。


 前世の私である美奈子さんも、子供の頃は雷が嫌いでした。

 飲み会で酔ってその事を言ったら、和田さんも、ちーちゃんさんも、先輩さんも、その他の部員さん達も、「俺も私も」と同意して幼少時の思い出話に花を咲かせていました。



 きっとどの世界のどの子供も、雷は嫌いなんです。


 だからもう一度言いますけど、私が特別怖がりなわけではないのです!



 そんな事を考えていると、やっとウトウトしだして……ああ、これで眠れる……と思えばまた大砲のような轟音が鳴り響きます。

 この雷様は私を眠らせてくれる気はなさそうです……



 固く目を瞑って「眠くなれー」と自分に暗示をかけていると、ノックの音がしました。



「ミィ、起きているか?」



 お兄ちゃんの声です。


「うん、起きてます。入っていいよ」


 扉を開け、お兄ちゃんが部屋に入ってきました。私は上体だけ起き上がって、お兄ちゃんを迎え入れました。


「眠れないだろうと思ってな」


 そう言ってお兄ちゃんが私のベッドの端に腰掛けます。


「ミィは雷が嫌いだろう。眠れるまで一緒にいてやろうか?」


 図星です。さすがお兄ちゃん。

 しかし私は子供扱いされた事にちょっとムッとして、反抗してみました。


「わ、私もう子供じゃないです。雷なんて別に怖くは……ひぅっ」


 一際大きい雷鳴が鳴り、私は反射的に身を縮こまらせ耳をふさぎました。

 しまった。これじゃ完全に子供のままです。

 そんな私の様子を見て、お兄ちゃんは苦笑してます。


「俺が、ミィと一緒にいたいんだ」

「……そういう事ならいいですけど」




「最近は色々ありすぎて、疲れっぱなしだろう。ミィ」


 私にお布団を掛けながら、お兄ちゃんが語りかけてきました。


「うん、私弱いから疲れちゃって。秘薬で強くなれるといいんですけど……でも……」

「でも?」

「お薬が苦いって……」


 そんな私の心配事を聞いて、お兄ちゃんは笑い出しちゃいました。

 確かに子供っぽい心配事ですけど……


「砂糖でも入れてもらうか?」

「うん……でも最近ちょっと糖分を取り過ぎな気もします」

「確かにな。部屋でも菓子ばかり食べてるだろう」

「うぅ」


 私は、布団の上からそっと自分のお腹をさすってみました。

 ……大丈夫。まだ太ってないですよ。



「ねえお兄ちゃん。ミズノちゃんとはどこで知り合ったんですか?」


 私は気になっていた事を聞いてみました。


「初めて会ったのは、俺が人狼族のボスに任命されて魔王様の元へ挨拶に行った時だ。魔王城には若い人狼、いや、若いモンスター自体が珍しいのか、ミズノ様が話しかけてきた」


 その時の事を思い出しているのか、お兄ちゃんは遠い目で雨に打たれている窓を見ています。


「その後も俺が魔王城に行くとたまに会って話す。ミズノ様は俺より強く、恐ろしいモンスターだが、まだ子供。きっと友達と遊びたいのだろう」


 話を聞いて、私はふとミズノちゃんの笑顔を思い出しました。



 私達、もうお友達ですよね。



「そうだ。あの、お兄ちゃん。今日は助けに来てくれてありがとうございます」


 私がお礼を言うと、お兄ちゃんは何故か悲しそうな目をしました。

 

「……いや、来るのが遅れた。ミィを怖がらせてしまった。そもそも俺も一緒に買い物へ行くべきだったんだ。今回は俺のせいだ」

「ち、違うよ。お兄ちゃんは別に悪くは」

「俺は兄なのだから、ミィを助けるのは当然だ」



 お兄ちゃんが、私の手を握りました。



「ミィ。これから何があっても、俺がお前を守ってやる」


 握る手の力を強くし、私の目を見つめます。


「これからお前が強く成長し、もう守る必要が無くなったとしても……いつまでも、必ず俺が傍にいる。安心しろ」


 そして手を離し、微笑みました。


「なんてな。俺も、少し頑張ってみたくなった」


 そう言ってお兄ちゃんは、私の頭の上にポンと手を置きました。


「どうしたのお兄ちゃん。なんだか今日は熱血漢です」


 お兄ちゃんはいつも優しいですけど、あんまり口数多くはありません。でも今日はなんだか燃えてます。熱いです。


「……この前、勇者が洞窟へ現れた時から」


 お兄ちゃんは私の髪を撫でながら話を続けます。


「まるでお前が、いやお前と俺が、いなくなってしまうような……いや実際に今ここにいるんだが……本当はいないような」


 ため息をついて言いました。


「訳が分からないが……ただ、お前が魔王軍に入った事について、心配し過ぎているだけかもしれないけどな。最近変な不安に駆られる」



 ……もしかして。

 元のゲームシナリオでは、既に私とお兄ちゃんはこの世にいないから、でしょうか。


 あの洞窟での勇者さんの襲撃で、死んでいたはずなのです。

 その、本来の記憶……いえ実際経験していないので記憶とは違うかもしれませんが、それが心に引っかかっているのでしょうか?


 そう言えばヨシエちゃんも、私とお兄ちゃんの事を「なんとなく心配だから」と言っていました。



 せっかく魔王軍の幹部候補になれたのに。

 こんなにみんなに心配ばかりかけてちゃダメですよね私。


 どうにか強くならないと。


 私が密かにそう決意する中、お兄ちゃんが話を続けました。


「だからってわけでもないんだが、俺が……いや、変な事を言ってすまなかったな」


 お兄ちゃんは、私のお布団を整えてくれました。


「もう寝よう。明日は朝から苦い薬を飲まないといけないからな」

「うん……あのね、お兄ちゃん…………」



 その後いつの間にか眠りについていたので、その時私が何を言おうとしたのか、もう忘れてしまいました。

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