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酔っ払って作ったクソゲーの最弱ザコキャラな私  作者: くまのき
プロローグ 思い出したしどうにかしよう編
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小巨大人狼(くそざこもんすたー)

 十年生きて来て、今更とんでもないことに気付きました。

 ここは、私達が考えたゲームの世界です。


 そして今まさに、死亡イベント真っ最中です。



―――――



「逃げてんじゃねーよぉ。弱小モンスターがさぁ」


 そんなコテコテの悪役セリフを口にして、勇者御一行の目付き悪い戦士さんが剣をペロリと舐めました。


 あっハイ。確かに私は弱小モンスターです。

 うまれてきてゴメンナサイ……



―――――



 プチ・ギガント・ウェアウルフ。

 ちっちゃいのかでっかいのか分からない、ふざけたような名前の魔物。

 このプチギガントウェアウルフとして、私ことミィ十歳は生まれました。


 ウェアウルフ。

 つまり人狼。狼に変身するモンスターです。

 高い身体能力を持ち、高度な魔法も駆使する。吸血鬼なんかと並ぶ高等なモンスターです。


 ギガントウェアウルフ。

 人狼(ウェアウルフ)が魔力と引き換えに更に身体能力を向上させ、巨大狼に変身できるようになった亜種。

 魔法は使えないけど、とにかくでっかくて強い人狼。ボスキャラです。


 その巨大人狼(ギガントウェアウルフ)が身体能力と引き換えに小さくなって、ついでに狼に変身できなくなった亜種。

 それが私、小巨大人狼プチギガントウェアウルフ。長いから以下プチギ。


 一言で言い表すと雑魚モンスターです。


 魔力と引き換えにでっかくなったんで、魔法は使えません。

 そこから更に身体能力と引き換えにちっちゃくなったんで、もちろん非力です。

 そしてそもそも狼に変身できないので、もうほとんど人。ただの狼っぽい耳と尻尾があるだけ。



 この世界で一番弱い、クソ雑魚モンスターです。



 なんでこんな自然の摂理に反するような生き物が産まれちゃったんでしょうか。


 進化の過程でねじれちゃって変なトコ行っちゃって。進化どころか完全に退化です。

 そもそもなんで狼に変身さえもできなくなったんでしょうか。

 おかしいですよね。もう亜種でもなんでもありませんし。


 バカなんですか神様!  もっと考えて!  怠慢です!

 なんで……どうして……


 そんな恨み言を言いながら育ってきましたが、ついさっき、このプチギという不合理なモンスターが誕生した理由が分かりました。

 というか思い出しました。



 それは、私が、ふざけて、そういう設定にしちゃったから、です。




―――――



 さて一体私は何を思い出したのか、今の状況と共に説明します。



「♪おおかみーさんがーたべちゃうぞーぉ~」


 と、周りに誰もいない事を確かめた上で、鼻歌まじりに歩く少女。

 それが私、プチギのミィです。

 カスモンスターとして生まれた事にコンプレックス特盛の、十歳の女の子。


 チャームポイントは、赤毛の髪から突き出ている狼っぽい耳と、お尻に生えている狼っぽいシッポ。これはちょっと可愛いからお気に入りです。


 そんな私は今日、洞窟の奥でお仕事中のお兄ちゃんにお弁当を届けようと、てくてく歩いていました。


「♪豚さん羊さん~でもホントは生クリームの方が~ふふふ~ん……歌詞忘れちゃった~ぁぁぁ……」


 最近勇者が出るよ〜と回覧板に書いてあったので、最初は一応用心してたんですけど。

 慣れた道のりで、ついつい調子に乗って歌を……



「なんだぁ、このムカツクメロディはぁ?」



 案の定見つかってしまいました。


 回覧板に描いてあった似顔絵そのままの勇者さんと、そのお供の戦士さん。


 戦士さんは私を見つけた瞬間、「どこ行くの〜魔物のお嬢ちゃ〜ん?」と、ドラマのチンピラさんみたいな絡み方をしてきました。

 私は「お兄ちゃんが…お弁当…」とかゴニョゴニョ言いつつ隙を見て逃げ出そうとしたんですけど、ガツンと頭をしこたま殴られちゃって……


「逃げてんじゃねーよぉ。弱小モンスターがさぁ」


 と、冒頭の戦士さんのセリフに繋がると言うわけです。



 後頭部の鈍い痛みと、このまま殺されちゃうのかという絶望とで、私は気が遠くなり……



 なぜか前世の記憶が舞い戻りました。


 昔の私の名前は、美奈子、だったみたいです。

 日本人。ちょっとオタク気味の女子大生。好きなものはゲームとお酒。嗜む程度。

 酒飲んでゲームやって、酒飲んで漫画読んで、酒飲んでアニメ見て、酒飲んで騒いで、酒を飲む。一般的な純情乙女……と、前世の私が自称していました。

 

 大学ではゲーム研究部に所属していたみたいです。

 PCでのゲーム制作が主な活動の部でした。

 でもあんまり真面目には作っていなかったようです。っていうかRPGツ●―ル。


 部の名誉のために言っておきますと、他の部員には、一から全部ゲームを自作するような真面目で本格派な人もいたようです。

 ただ前世の私である美奈子さんは、その真面目で本格派な人達では無かったみたいで……


 さあ今から皆でゲームを作ろう、という段になると、いつも、

「ゲームより酒盛りしようー!」

 と言い出す困った人でした……



 ゲーム研究部の方針として、チームを組んで1つのゲームを作る事になっていました。


 と言うわけで前世の私は、真面目で本格派『じゃない』側の人達と数人のチームを組んで、RPGゲームを作ったのです。

 ゲーム名はチームメンバー全員のアイデアを無理矢理採用して『剣と魔法のモンスタースレイヤーバスタードPrimeWaltz天下一品』かっこ仮です。

 製作方針としては、酒でも飲みながら楽しく作りましょー。


「いやー、むしろ酒を最優先だー!」




 そんなこんなで……



「って感じの〜。進化したのに退化しちゃった、ダメモンスター! これどうよー!!」


 設定会議という名の飲み会で、前世の私が酔った勢いで作った可哀想なモンスター。

 これこそがプチギ誕生秘話なのでした。


「ギャハハハハハ、そんでもってイベント戦で可哀想な感じに殺しちゃおー!」


 更にとんでもない設定まで追加してました。事もあろうに、前世の私自身が。




―――――



「よぉ〜し俺が殺してやるよー。モンスターのお嬢さぁ〜ん」


 はい。そして今まさにその可哀想な感じで殺しちゃおう! のイベント戦に遭遇しています。



 つまり今の私は何の因果か、酒飲んで設定作ったあのクソゲーの世界で、酒飲んで設定作ったあのクソキャラとして来世を生き抜いているのです。


 いや、もうすぐ死にます。さようなら皆さん……



 ……えー……本当にこのまま死んじゃうんですか……

 あんまりです……

 前世の私、今の私の身にもなってください……


 とにかく落ち着くんです私。しっかり状況を整理しましょう。

 恐怖で気が遠くなりそうな自分を心の中で鼓舞し、必死に頭を働かせます。



 確かこの『可哀想な感じで殺しちゃおうイベント』の概要は……


 まず、私こと可哀想なミィちゃん十歳が、この目付きの怖い戦士さん(後で勇者を裏切る)に殴られて倒れます。

 そこまではさっきまでのやりとり通りです。肝心はこの後。


 この後は、戦士さんの行動に勇者さんが苦言を呈し、言い争いに……


 ゆうしゃ「

  はい

 →いいえ

 」


「ん〜、なんで怒ってんのさぁ勇者様。まfだ子供だからやめろってぇ? でも魔物は魔物、退治しないとさぁダメでしょ〜?」


 記憶通り言い争いになりました。ホントに細部まで記憶通りです。

 戦士さんの『まfだ』って誤字も一緒でしたし、勇者さんの台詞も全くの同じです。

 っていうかそんなゲームに忠実な喋り方なんですね勇者さん。よく今まで生活してこれましたね。凄いです。逆にちょっと尊敬します。


 ちなみにここは『はい』を選んでも『いいえ』を選んでも何も変わりません。


 いやいや、そんな事のんきに考えてる場合じゃないです。


 とにかく次は……

 この言い争いの隙に這って逃げ出そうとした私に向けて、戦士さんが「逃げるなって言っただろぉぉ」と言いながら、魔力を込めた剣をダーツみたいに飛ばす。私の頭にぶっ刺さる。私がおかおかお母さーんと叫ぶ。脳ミソ爆発する。ジ・エンド。


 つまり最大のピンチ、というかまさに死ぬシーンです。


 逃げ出そうとしたら脳ミソ爆発です……とりあえずここは黙って気絶したフリしてましょう。


 ゆうしゃ「

  はい

 →いいえ

 」


「分かった分かった。お優しい勇者様ァ〜がそこまで言うなら見逃すよぉ〜」


 おや、これは私が知らないセリフです。気絶のフリが功を奏し別ルートに突入したようです。しめた、このままやりすごして……

 そう思ってチラっと戦士さんの方を盗み見したら……


 あーあ。嘘付いてますこの戦士さん……


 勇者さんに見えないように隠して、剣に魔力みたいなもの込めてます。

 剣がギラギラ光ってます。

 きっとなーんちゃてぇ〜とか言って剣投げる気です。確実に私を殺すつもりなんです。



「なーんちゃってぇ〜」



 ほら来ました!

 一応、剣を投げられる事が分かってた私は、倒れたままゴロゴロ転がって避けようと試みました。

 間一髪。投げられた剣は、私のチャームポイントである左の狼っぽい耳をかすめ、地面に突き刺さりました。

 刀身が全部地面に埋まって、柄まで刺さってます。怖……


 更に追い打ちをかけるように、破裂音がして、剣が刺さっていた地面に大穴が空きました。

 これは脳ミソが爆発するわけです。

 衝撃で私は再度転がってしまいました。



「あれ〜、凄いねーお嬢ちゃん。避けられるんだぁ。さすがガキでも人狼ってワケだぁ」

 凄いねーとか言いながらも目が笑っていません。

 目を合わせた瞬間殺されそうな気がして、私はとっさに目線を逸らしました。


 ゆうしゃ「

  はい

 →いいえ

 」


 そう言って勇者さんは、戦士さんを止めようとしてくれています。……多分。


 あの……もうちょっとちゃんとした言葉で止めて欲しいです。案の定戦士さんには無視されてますし……


「その耳と尻尾引きちぎってあげるよぉ〜お嬢ちゃん」

「嫌だ……こ、来ないで……許して、ください……」


 私はか細い声で懇願します。

 しかし戦士さんは、怖い顔のまま歩みを止めません。


「大丈夫、痛いのは数分だけだからぁ〜」


 そういう台詞は普通痛いのは一瞬って言うんじゃないんですか……数分も何をし続ける気ですか……


 ゆうしゃ「

  はい

 →いいえ

 」


 そして勇者さんは、相変わらず意味の分からない事を言っています。



 仰向けに寝そべったまま死の恐怖に怯える私の前に、ついに戦士さんが到着してしまいました。


「ど、どうか許して、ください……」   

「ん〜? どうしよっかな〜。そうだなー……そうだよぉー……やっぱぶっころ〜。モンスターに正義の制裁〜」


 酔っぱらいが作ったキャラだけあって、神経を逆なでするような喋り方をします。

 この人に情けを求めるのは無駄な事だと悟りました。

 私は最後の頼みの綱として、後ろで見ている勇者さんに懇願する事にしました。



「……助けてください」



ゆうしゃ「

はい

→いいえ




 ぶちっ



「もーなんなん! はいいいえ以外も喋れよボンクラ! ネットで拾ったフリー素材の顔してるクセによー! だいたいこのチンピラ裏切っから! 裏切っから! なんでこんなんと一緒にいるんだよ勇者のクセにいいいぃぃマジ裏切っからああっ!」



 私はついにキレてしまいました。


 ミィちゃんとして生きて来た十年と数か月。プチギという雑魚モンスターとしてのコンプレックスもあり、内気な性格になってた私。

 お友達の間ではおとなしい狼っぽい耳少女として、みんなの後ろを半歩下がって付いて行くというポジションを確立していた私。

 お友達の口癖が『あら、あなたいたの?』な私。


 そんな私ですが、前世の酔っぱらいの記憶が蘇り、ちょっと強気になれたんでしょうか。心なしかキレ方も前世の私のものだった気もします。


 この理不尽な状況(前世の自分が蒔いた種ですが)に怒りを感じ、勇者さんの意味不明さがトドメになって。

 なんなん! という台詞と同時に手足を思いっきり突き出し、駄々っ子のようにキレてしまいました。



 その瞬間、ズジャジャジャジャンという音がしました。



 私が突き出した足が、戦士さんの向こうズネにクリーンヒットしたのです。

 ズジャジャジャジャンは会心の一撃の効果音です。

 十年生きて来て会心の一撃を出したのは初めてですが、本当に音がなるんですね。凄いです。



 って、いやいやこれは逆に危険です。


 雑魚が会心の一撃を出しても、焼け石に水。相手の怒りが増すだけです。

 十歳の少女、それもカスモンスターのキックじゃたかが知れてます。


 というかそもそも、このゲームはバランス調整してないから、雑魚の攻撃は通じないんです。基本0か1ダメージなんです。会心の一撃でも3とかです。

 そして勇者たちのHPは300とかです。


「戦闘バランス? めんどくさいからいいでしょガハハ」


 と、前世の私は酒飲んで笑ってました。



 我に返りその事を思い出した私は、一気に血の気が引きました。

 そして、恐る恐る戦士さんの方を見ると……



 戦士さんの姿は無く。



 棺桶が横たわっていました。



―――――



「よっしゃ〜このゲームの最強技はスネキックってことで! 9999ダメージで!」

「けってーいじゃあ飲め飲めガハハハハハ!」


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