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涼やかな星

古い思い出

作者: CWP代表取締役


一面の花園でお花摘み、お城の舞踏会で王子様と踊る、そんなメルヘンに少女は興味がない。そこらへんの大人より現実主義で、大人に人生相談されることもある程だ。家は料理屋と宿屋の兼業、父一人子一人の家族だ。娘なりに、しっかりしなければと言う意識が強かった。黒髪のショートヘアーに軽く風を受け、腕組みをする黄色いワンピース姿にはそれなりの覚悟があったのだろう。現実をまっすぐ見る目はその頃からのものだ。すんでいる町は地方の田舎町で、住民は皆顔見知りという状況にある。少女はそのことをよく思っている。都会に行きたいと思うこともない。今のままの平穏な生活こそが至高の喜びだと考えている少し不思議な少女だ。

今日も帰ると酔っ払った客をガン無視して自室にこもる。そして密かに日記を取り出し、今日の出来事を綴っている。内容は基本その日の不平不満と良いことを同じ位に配分してある。

翌日、朝6時に起きると早々と朝の支度を済ませ6時15分に礼拝堂で祈りを捧げる。これが日課だ。町には偶然にも同い年の人が沢山いる。にも関わらずそれらとは殆ど交流がない。というより、関わる必要なしと判断し自ら交流を絶っているのだ。そんな少女が同年代の人との初めての関わりがこのお話である。

礼拝堂で祈りを捧げたあと家に帰ろうと思い、いつもの道を歩いている。森の見える道に差し掛かった時、ふと何かの勘が働き、立ち止まって森の方を見る。すると2メートル程奥に進んだ森の中から木刀が飛んでくる。

「ウッ、クァァァ‼️」

「弱い弱い!握り方が甘いんだ!」

カランッ、木刀は少女の一歩先を突き抜け奥の家の壁に激突する。一歩進んでいれば頭を打っていたであろうと思い、少し身震いした。そして、声のした方を見ると少年と大人がいる。少年は少年と同い年くらいだろう。黒髪で、この村では見ない格好、おそらく王都の人の格好と思われる。無駄な記事を使わないシンプルな格好は運動用の服であることも想像がつく。そして大人は軽そうなフワフワしたライトブラウンの髪の毛で中くらいの長さ、そして何よりこの村の人の格好。

民族衣装ではないが、王都とは流通が全くなくそのため服も自然と異なってくるだけのことだ。何が違うと言われれば、柄が全然ないことくらいだろう。王都の服にはそれなりのラインや水玉などの模様くらいはあるが、村の者には全くないのだ。青なら青、赤なら赤と一色に染めてしまっている。

その大人は少女に気付くと寄ってきて声をかける。しゃがんで目線を少女の高さに合わせる。

「驚かせてごめんね、つい気づかなかったんだ。」

そして奥にいる少年を呼ぶ。

「ほら!驚かせたんだからちゃんと謝れ!」

シブシブ少年がこちらに歩いてくる。

「わ…悪かったな!」

「なんだそれは?そんなの誤ったことにならないぞ?ちゃんと謝れ」

「…ッセーな…ぁったよ!すんませんでした」

「ったく…ごめんねお嬢ちゃん。こいつ同い年の子に関わったことないから人見知りしてんだよ。これで許してくれるかな?」

少年が不服有り気に大人を見つめる。そして木刀を拾い大人に突き付けて言う。

「早く始めるぞ!」

大人はやれやれと言うように立ち上がり挑んでくる少年を軽々あしらう。ずっとそうしているようだった。不意に少女は思った。

『旅人さんか何かだろう。と言うことは泊まるところはないかもしれない。ならうちに金を払って泊まれば良いのでは!』

少女は二人に声をかける。

「今夜泊まるところはお決まりですか?お決まりでなければうちに止めますが?」

大人は少し上を見上げてから頷く。

「そうさせてもらうよ。商売上手さん!」

言葉遣いからか宿屋であることがバレたようだ。

少女は二人の客を家に連れて行く。近づくに連れ大人の顔が少し驚いて行くように感じた。

「ここです。」

その家を指した時には大人が目を丸くしていた。が、すぐに平静を取り戻す。中に入れると今度は父親が驚いたが、大人と目で会話して平静を取り戻す。なんなんだと思いながら少女は少年を見る。少年は別に何も思うところはないといった具合だ。と、少年が少女を見る。顔が赤くなっている。少女は顔が赤くなっている人を全員酒に酔った人と勘違いしていたので少年に叱りつける。

「あんたお酒飲んでんの⁉︎まだ子供なのに‼︎」少年は自分がなぜかドキドキしている現状を運動後の状態と勝手に判断しているから、少女への返答は単純になった。

「動いたからこうなってるんだ。」

お互いに話がズレていることには気づかない。その二人を後ろに大人はカウンター席に座りボソッと誰かの名を呼んだ。そのことを気になった少女が首を傾げていると少年が説明する。

「恋人…奥さんの名前だよ。なんか、五年前に行方不明なったんだって。それを探して旅してるんだってさ。ずっと探してんだ。師匠見た目いいし人当たりも良くてしかも強いから中々にモテるんだ。なのに全然見向きもしないで『俺には妻がいるから』って言うんだ。」

「へぇぇ、なんか悲しいね」

少女は少し悲しい気持ちになった。そしてなぜか、この大人は他人ではないような気がした。

「だよなぁ、けどさ俺は憧れてんだ。五年も離れ離れなのにずぅっとただ一人だけを愛してるんだぜ?俺もそんな男になりたいんだ」

「ふぅーん、頑張れば?」

少年の憂うと同時に憧れを孕んだ輝かしい目に少女は吸い込まれる気がした。そっけない返事をしたが少年はニッコリした笑顔を少女に向けて頷く。

「あぁ!」

翌朝、少女が目を覚ます。今日はお祈りのない日だ。お祈りは毎週日曜日にある。早々と朝の支度を済ませる。するとなぜか昨日の少年が気になった。悪いと思いながら部屋を覗く。予想はできていたが、少年は腹を出して寝ている。が、大人がいない。父に尋ねる。「朝から散歩に行っているとかで、もう何泊かするってよ」

その言葉にワクワクする自分を、少女は疑問に思った。そのことを考えた末、実証することにした。村の同い年の子供に話しかけることにした。父のお使いで買い物に出た帰り道、広場で鬼ごっこをしているから子供たちに声をかける。

「ねぇ、私も混ぜて」

「おぉ!いいぜ!」なんて言葉は帰ってこなかった。

「ウッセーー!お前なんかしらねぇよ!」

そこで冷静に言葉を返すのが少女だ。

「知らないのは当然とも思えるわ。いつも関わらなかったから」

「あぁあ、うぜぇ!キモい!」

知性のかけらもない返しだ。だが、いくら少女が現実主義でも傷つく。そしてだんだん理解する。『あぁ、いつもいらないと言って、関わるのを避けてきたツケが回ってきたんだな。』少女はトボトボと家に帰り出す。だんだん口角が歪み頰に力が入る。視界がぼやけ始める。目、瞼のラインに熱がこもる。その熱が溢れ出す。次第に漏れる熱の量は増していく。『人に見られたくない』そう思い駆け出す。買った果物を投げ出し、両手で交互に顔を流れる熱を拭いながら少女は大声を上げて走る。

「ぅわあぁぁぁぁ!…ッグ…ヒッ…ヒグッ!」

ドアを乱暴に開けて廊下をかける。開いている自室のドアに手を伸ばし、入ると同時に、バタンッ、乱暴に閉める。ベッドに飛びつきまくらを濡らす。足を曲げ、掛け布団を蹴る。ふと、温かくて小さな手が頭を撫でる。

「ヒグッ!」

驚いて、涙と鼻水ダラダラの真っ赤に泣き腫らしている顔を上げる。顔を確認する前に肩を抱き寄せられる。その小さな力強い男の腕の中で少女は思い切り泣く。少女は泣き疲れて眠る。それを見て少年は、勝手に漁っていた本を本棚に戻す。そして少女に布団をかけ、ベッドに腰を下ろす。

「起きるまでいるよ」

少年は少女の寝顔を眺めて、呟く。

少女が目覚めるともう夜になっていた。横を見れば、座ったまま眠る少年がいる。

「ありがとッ」チュッ

少年の耳元で囁く。そしておデコにキスをする。感謝と愛のキスを。

翌朝、少年は目覚めて驚く。自分の隣で寝ている少女、これだけでも十分ビックリなのだが、さらに手を繋ぎ同じ布団で寝ている。けれど、声を出すのは堪えた。そして愛おしく少女の寝顔を見ている。と、パチリ、少女が急に目を覚ます。

「…お、おはよ!」

「うん、おはよ!」

少女の笑顔で安心するとともに、少年は不安になった。『もしやこれは事後なのか?』こんなませた不安は直ぐに自分で否定して布団から出る。そして少女に言う。

「何があったのかは知らない。話してくれたら嬉しいけど、話したくなきゃそれでもいい。ただ、また辛いことがあったら泣いていいよ…俺が隣にいて上げるから、ね?」

ニッコリと笑顔を向けられ少女は顔を真っ赤にして頷く。

「うん…ありがとう」

その言葉に元気をもらうと少女は外に飛び出して行った。

『また心無い言葉を受けるのかもしれない。けどそれでいい、それでまた耐えられなくなったらあいつの隣で泣こう!それでいいんだ!』


次第に少女は子供達と打ち解けていった。その様子を、木の上に腰掛けて少年は嬉しそうに眺めていた。

そんなある日、とうとうこの日が来た。少年と大人の出立の日が。少女は町の女友達と遊んでいて、日が暮れて来たから家に帰った。すると少年たちの姿は見えない。父に聞く。

「あぁ!あいつらならもう出たよ」

聴き終わらないうちに家を出る。町の門の近くで少年と大人の姿を見つける。

「おぉーーーい!まってぇーーーー!」

それに気づき少年は振り向く。大人は馬車に荷物を詰める。

「ねぇ、あんた…名前は?」

「あぁ言ってなかったっけ?リターだ!リター・ヴィネルス・カルバン!」

大人は馬車に荷物を詰め終える。そして操縦席に座る。それを見てリターは馬車に右足だけ乗り込む。と、そこで振り返って言った。

「またな」

少し照れくさそうに笑うリターに少女はニッコリと笑みを向ける。

「うん!またね!」

少女は馬車が見えなくなっても暫く手を振っていた。そして満面の笑みで家路につく。まだほのかに蒼白い空の下をスキップで進む。鼻歌交じりで家の扉を開けると、父が少女に聞く。

「ずいぶん嬉しそうだな、なんかあったのか?エレナ」

瞬間、少女は自分の失敗に気付く。

『名前、言い忘れた。』

その日も少女は丁寧に日記をつけたとさ。


エレナは黄ばんだ古い日記を閉じた。

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