勇者補正が嫌いな勇者、魔王を倒す。
――なんでオレが強いんだ?
前世の自分はケンカも勉強も努力しても何もダメだったのに、この世界はそうしなくても、なんでもできてしまう。
オレが勇者だからか? 確かに勇者は強いし、最強かもしれない。けど、ここまで面白くないものとは思わなかった。
転生させるとき、オレのバロメーターに思いっきり勇者補正をかけた神様さ、かけすぎだよ。もうちょい、少年マンガのような展開が欲しかった。あれよあれよと強そうな敵をやっつけて、苦労もせずにここまできた。
もう気づいたら仲間も無しに、魔王のところに来てしまったじゃん!! ここまでサクサクだと萎えてしまいそう。勇者ってつまらない、よくもまぁ"オレ強ぇぇ!!"ってチート級の与えられたチカラを、自分のチカラだと思ってやれるよねぇ……。
努力して勝利することに意味があるんだよ。この補正どうにかならないのかなぁ。
「きたな勇者!! 魔王さまのとこに行く前にワシを倒すんだなっ」
テンプレ的な敵が現れた。鬼の姿をした敵はオレに襲いかかる。恐らくオレは二手で倒せてしまう。だからその前に聞きたいことがある。
聞きたいことというのは、勇者が異様に強くておかしいと思わないのかということ。相手の攻撃をかわして「お前、オレが強くておかしいとおかしいと思わないのか?」と耳元で問う。
「ワシだって……なんでお前がそこまで強いのかワケわからねぇよ!! 歴代の勇者でさえ、ここに来るに仲間共々ボロボロになってくるのに、お前はなんだ!? 仲間なしでピンピン意気揚々とここまで来やがって!! 化け物かお前は!? ワシ、ドン引きだよ!!」
化け物に化け物と言われた。そうだよな……おかしいよなオレって。でもな、ひとつ言わせてくれ。
「オレだって好きでこんなチカラ手に入れたワケじゃねーよ!!」
そうだ、神様が拒否するオレに相当な補正をかけたせいだ。神様、アンタをうらむぜ。そのせいで敵が引いている。
本当のこと、お前に教えてやるさ。
「オレの本当の強さってのはな"いじめられっ子にいじめられる"レベルだからな。それで不登校になったからな、オレ」
「お前……もしかして、違っていたらスマンが鈴木か? 鈴木ケンだろう!! 見覚えがある顔だと思ったが、その言葉で確信したぞ!!」
急に敵の顔色が悪くなったと思いきやそんな事言い出したが、何故にオレの前世の名前を知っているのかわからん。というか、お前は誰だよ!!
「渡辺レンだよ!! お前をイジメていた!!」
「知らねーよ!! オレをイジメてたのクラス大体のヤツそうだったから覚えていられねーよ」
基本、クラスの人間に興味なかったせいで名前も顔も覚えてない。そもそもなんでお前も転生してたんだよ!! 誰か知らないけど。
「ワシか? 強ければなんでもいいって神様に言ったらこうなったんだよ」
「だったら、魔王とかになろうと思わねーのかよ」
「……確かに、そうだな」
コイツはバカなのだろうか。
それと、さっきから気になることがある。コイツは歴代の勇者を見ているとか言ってたが、転生にラグがあるのだろうか? そうでなければそんな事言えないはずだ。
そもそもなんでオレは転生したんだ? その原因がわからない。というよりは思い出せない。
「何をしている!!!!」
魔王の城の門が開く。本命が姿を現した。それは魔王というのにふさわしい姿、どんな人でも恐れてしまうだろう。
こんな時に言うのはアレだが、魔王の息が臭いのはなんでだ。
「魔王さま!? うぅ……あれほどニンニクをお控え下さいと言ったではありませんか?!」
「あーすまんな。止められねぇんだ、ニンニク」
これ以上喋るな魔王!! 臭くて倒れそうだ。
予想外なことでオレは窮地にたたされる。嫌だ、ニンニク臭いが原因で負けるの。
オレはあることを思い出した。冒険の序盤、ある村の商人からタダでもらったものがある。それが使えるかもしれない。
ポケットにしまったソレを奥から取り出す。すると、魔王が焦りだした。
「そっ、それは……ミンティウム?!」
俗に言うミントを使った気分爽快なお菓子だ。これを魔王の口に放り込んでやろう。
「その息とおさらばしろ、魔王!!」
オレはケースごど魔王の口に投げ入れる。勇者補正があるため、必ず入ってしまう。
それが入ると魔王は息苦しそうにその場に倒れる。量が多くてキツいのか、単純にミント系がダメで倒れているのかわからない。
「そ……そんな。魔王様がミントが弱点なのを知っていたのか!?」
鬼は驚いていた。
そして魔王は力なく倒れる。
「どんな勇者でも我を完全に倒せなかったのに……無念だ」
魔王はどんどん白化していく。そして灰になり、風に舞っていく。勇者補正恐るべし。
「ん?」
突然強烈なめまいが起きた。たまらず倒れこんだところでオレの記憶は途絶えた。
「――どうだったかの?」
目の前には勇者補正をした神様がいた。そしてここは、神様と初めてあった場所だ。
「どうもなにも、補正かかりすぎておもしろくともなんともなかった」
「そうかの? ならもう一回やってみるかの、補正なしで」
「へ?」
神様がそういうと、まためまいが起きてしまった。倒れこんで、意識がもうろうする。気がつくと、見慣れた天井が目にはいる。ここは僕の部屋、あれは夢だったのだろうか?
まぁいい、勇者補正なしでこの世界をまっとうに生きてやる。そう誓ったオレは、久々に学校に行くことにした。
久々に通学路を歩く。何となくだが道も覚えいいるもんだな、もう何ヵ月もいってないのに。
「ひぃ……」
「おい、ちょいとオレらに金貸してくんね?」
「な……ないですよぉ」
ガラの悪い学生二、三人に絡まれている気の弱そうな学生。オレは絡まれたくないからスルーする。
あ、でもまっとうに生きるならコレ見逃したら悪いんじゃ……? そう思って立ち向かう。
結果見事にボコられた。コレでこそオレらしいし、まぁ不良どもはどこかへいったからよしとしよう。
「お前、ケガないか?」
「……鈴木の方がヤバイじゃねーか。夢ではあんなに勇者補正あったくせに」
「……お前まさか、渡辺か?」
「そうだよ!! 現実のワシはこんなに弱いんだよぉ……」
だから神様は魔王にさせなかったのか? でもさ、夢ではいい思いさせてやれよ。
それに、オレだって弱い。だけど勇気をだして、さっきの行動することに何も恐れはなかった。そういや、努力はしてきたけど勇気なんてもの今まで出してなかったな。
そういうことなのか、神様?
オレに勇気を持たせるためにそうしたのか?
ならもう大丈夫な……気がする。オレは自分の自信の無さでダメにしていたことに気づいた。
だからこれからもっとよくなる気がする。
「オレは勇者じゃないから仲間に入れられないが、友達にならなれる」
そっとオレは渡辺に手を貸す。
「……こんなワシでよければ!!」
オレに初めて、友達が出来た、