表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ホライゾンゲート  作者: 大野 タカシ
76/78

第76話 無銘の碑にサヨナラを

■ワールド・トラフィックス内


 甲太郎を背中から抱えるようにし、暫くワールド・トラフィックスを飛行していたリューカは突然前進を止め、その場に滞空し始めた。


 『リューカ? どうした?』


 周囲に満ちる不協和音を避け、無線を介して甲太郎が問う。

 その言葉と同時に上体と首を限界まで(ひね)り、自身を抱える白いEOS(エーオース)の顔を見ると、リューカは(しき)りに周囲を見回していた。


 『ん? ちょっと方角の確認をな……。ニホンからの信号はあっち、エーテルが流れてきているのは……向こうか』


 そう言いながら、リューカは頭上に輝く光を見定める。


 『なあコータロー。早急にニホンに帰還しなければならないのは重々承知だが、少しだけ寄り道をしたい』


 『寄り道? ってトーラスに?』


 一見、広大無辺な宇宙空間の様なワールド・トラフィックスだが、繋がっているのは日本とトーラス、そして魔界の3か所だけだ(無論、他に繋がる抜け道が無ければ……だが)。

 甲太郎はリューカの『寄り道』という言葉に、彼女が何処に行こうとしているのかを即座に理解する。

 しかし、『何故トーラスに寄りたいのか』……その理由までは分からなかった。


 『何、時間は取らせん。お前に見てもらいたい物がある、それと『忘れ物』の回収。後は、上手くすればだが……フランが居ればお前の脇腹のケガも診てもらえる。という訳で、トーラスに向かうぞ!』


 リューカはそう説明するとBSブースターを操作し、頭上の光目がけてフルスピードで飛行を始める。


 『全く、強引だなぁ……』


 ワールド・トラフィックス内では満足に動けず、リューカに抱えられるままの甲太郎は、苦笑しながらそう呟いた。



■トーラス王国、ヘレネア山中腹


 (まばゆ)い光を抜けヘレネア山の青空の下に投げ出されると、眼前に見知った顔があった。

 その『見知った顔』……アーベルは、魔界の門の異変に驚きの表情を浮かべながら、腰の剣に手を伸ばしていた――――が。


 「その黒い鎧……コータローかッ! では、そっちの白い鎧は……まさか!?」


 門から現れたモノが甲太郎のEOS(エーオース)であることを認め、更に甲太郎の隣に立つ白いEOSに目を向ける。


 「ああ、私だよ。久方ぶりだな……いや、『久方ぶり』は言い過ぎか」


 リューカはそう言うと、変身解除の合言葉(コマンドワード)を呟いて素顔を晒した。


 「姫様ッ!? お待ちしておりました……よくぞご無事で…………」


 アーベルと、その背後に居た数名の王国軍兵士は、胸に掌を当てる王国軍式の敬礼でリューカと甲太郎を迎えた。

 彼等の顔には、皆一様に驚きと安堵の表情が浮かんでいる……今まで歴史上只の一人も、魔界の門を潜って帰還した者はいないのだから無理もない。


 リューカは、アーベルを含む目の前の兵士達の顔を一人一人しっかりと見、そして同じく王国軍式の敬礼で応えた。


 「皆、心配をかけたな。この通り無事で戻った」


 そして、彼女は改めてアーベルに視線を移す。


 「『門』を閉じずに待っていてくれたこと、感謝するぞ。それから……この場に居るのはこれで全てか? 将軍とフランの姿が見えんが……」


 「この旧魔族本陣に駐屯しているのは魔族討伐軍1番隊を中核とする臨時編成の部隊です。フランはあちらのテントに居ますので、直ぐに呼びましょう。ルーカス将軍は麓のアードラ要塞で戦後の残務処理を行っています、将軍にも急ぎ狼煙(のろし)でお知らせましょう」


 アーベルはそう答えると、自身の背後に控えていた兵士の中から2名を選び、1人を少し離れた場所に設営されているテントの群れへ向かわせ、もう1人には狼煙を上げるよう命じた。


 「頼む。しかし……アーベルよ、不寝番(ねずばん)でもしていたのか? 眼の下が酷い事になっているぞ」


 リューカの言う通り、アーベルの眼の下には京子にも匹敵する程の濃いクマが出来ている。

 アーベルは苦笑しながら答えた。


 「姫様を止められなかったのは私の責任です。ルーカス将軍に『魔界の門』の監視を命じられ、交代要員も手配して頂きましたが……。姫様とコータローがお戻りになるまで、休む気にはなれませんでしたからね……」


 「うむぅ……。思った以上に心配させたようだな、すまなかった」


 リューカがそう言ってアーベル達に頭を下げた時、離れた場所に設営されていたテント群からザワザワと喧騒(けんそう)が聞こえて来た。

 どうやら2人の帰還が伝わったらしい、交代で休憩していたのだろう兵士達がテントの中からゾロゾロと姿を現す。

 そして、その中にフランの姿もあった。


 フランはリューカに駆け寄ると、飛びつくようにして彼女を抱きしめた。


 「姫様ッ! よくご無事で!!」


 「わぶッ!? フ、フランッ! 落ち着け!!」


 フランに抱きすくめられ、ワタワタと暴れるリューカ。

 しかしその時、満面の笑みを浮かべていたフランが眉根を寄せ、額に青筋を浮かべたのを甲太郎は見逃さなかった。


 「……そして、今回は洒落や冗談で済まない程に無茶をいたしましたね、姫様? 本当に、本っ当――――に心配したのですよ?」


 その言葉と同時に、フランはリューカを抱きしめる腕に力を込め始める。


 「ぴぃッ!? ま、待てフラン!! コータローの脇腹のケガを診てやってくれ! 応急処置はしたが、まだ痛みも残っているはずだ!!」


 『ギリギリ』と締め付けていた腕を緩め、フランはため息をついた。


 「ふぅ……怪我人とあらば致し方ありません。後程、姫様にはじっくりとお説教させて頂きます。それから、コータローさんもご無事で何よりです」


 「いえあの…………リューカが無茶をしたのは私が原因ですし、何と言うか……ご迷惑をおかけしてスミマセン」


 『お説教』という言葉を聞き、カタカタと震え出したリューカを横目に見つつ、甲太郎はフランに頭を下げる。

 『やっぱり、この人は逆らっちゃダメな人だ』と思いながら。



■■■


 フランのヒーリングによって脇腹の赤黒いアザは消え、今まで感じていた鈍痛も無くなった甲太郎は、リューカの『見てもらいたい物がある』という言葉に従い、たった1つポツンと立つ石碑の前に連れられて来た。


 甲太郎の心臓が早鐘を打つ。

 忘れもしない……ここは、父を射殺した場所――――。


 「お前達の葬儀の作法を知らなかったのでな、ただ埋めるように命じただけだったのだが……墓碑(ぼひ)を用意してくれたのか」


 リューカが呟く。

 その言葉の通り、少しばかりの土の盛り上がりのその上に、無銘の墓碑が立っていた。

 日本の一般的な四角柱の墓碑とは違い、底面から天面にかけて細くなってゆく……例えるならエジプトのオベリスクのような形状のモノだ。

 だが……形状が違っても、何も墓碑銘(エピタフ)が刻まれていなくても、それが『墓碑』なのだと、甲太郎は理解できた。


 そこへ、1人の王国軍兵士が駆け寄って来る。

 リューカに芹沢博士の埋葬を命じられた、あの救護要員だ。


 「姫様! 勝手かとは思いましたが、墓碑を用意致しました。名も知らぬ相手なので、何も銘は刻んでおりませんが……」


 リューカは『チラリ』と甲太郎の顔を見て、その兵士を(ねぎら)った。


 「いや、良くやってくれた、感謝する。済まないが、少し彼を1人にさせてやりたい……離れるぞ」


 「はッ!」


 甲太郎の内心を悟ってか、リューカは救護要員を連れてテント群へと去って行った。


 父の墓前で、甲太郎は独り立ち尽くす。


 父が凶行に走り、戦い続けたこの2年間……散々手を焼かされ、煮え湯を飲まされた。

 今でも、父を憎いと思う。

 共に戦い、死んでいった対テロ即応特務隊(CTRaS)の仲間達の顔が脳裏を(よぎ)った。

 そして何より……母が死に、絶望と悲しみを感じたのは父だけでは無いのだ。


 甲太郎も、京子も、母を失った巨大な喪失感に(さいな)まれた。

 家族であれば、そういった感情を共有できたはずだ。

 だが、父は1人で暴走を始めた。


 結果――――母を失ったその『穴』を、ツギハギでどうにか塞ぎ前に進もうとしていた自分と京子の『日常』は、完膚なきまでに破壊された。


 『テロリストの家族』と後ろ指をさされ、『ゼロ』ではなく『マイナス』に墜ちた姉弟(きょうだい)2人――――。

 その無残をどうにかしたくて、甲太郎は戦いの場に飛び込んだ。

 戦って戦って戦い抜いて、その先に訪れたあっけない幕引き。


 父の頭を撃ち抜いた時、甲太郎は半ば錯乱状態だったが……それでもハッキリと、トリガーを引いた感覚は指先に残っている。


 「…………ッ!」


 いつの間にか、甲太郎の頬に涙が伝っていた。

 彼はそれを袖でゴシゴシと拭い去ると、ポツリと呟いた。


 「父さん、母さん…………。俺達は、先に進むよ」


 甲太郎は(きびす)を返し、歩き始める。

 少し進んだ所でヘレネア山の風が『ヒュウ』と鳴き、ふと背後の墓碑を振り返った。


 そこには、無銘の墓碑の(かたわ)らに寄り添って立ち、甲太郎に向けて笑顔で手を振る父と母の姿。

 ――――そんな幻影が、見えた気がした。


 甲太郎は再度、意を決して振り返る。

 その視線の先、テントの群れの前にはリューカとアーベルとフラン、そして狼煙を見て急ぎ駆け付けたのだろうルーカス将軍が、甲太郎を迎えるように並び、手を振っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ