第73話 使命の終わりに
「胸でも頭でもない!? じゃあ核は何処だッ!!」
甲太郎が叫び、その声にアズーが答える。
「余程突拍子もない所にあるのか。あまり考えたくはないが、核が複数存在するのか……だな」
巨大人形は二対の腕、4つの拳を胸の前で打ち合わせると、大きく1歩踏み出す。
「コータロー! アズー! 来るぞッ!!」
リューカの警告と同時に、巨大人形は背中から伸びた右の触腕を横薙ぎに振るった。
その触腕は金属質な見た目とは裏腹に伸長し、ゴムのように良くしなり、広範囲を薙ぎ払う。
甲太郎は床を転がって躱し、リューカは再びBSブースターで上空に逃れ、アズーは人形から奪った巨大剣を盾替わりに――床に対して浅く、寝かせるようにして即席のスロープにして――触腕を反らした。
だが、人形は即座に次手を打つ。
左の触腕を、滞空しているリューカに向けて伸ばす。
「宙を自在に飛び回る相手に、その攻撃は悪手だぞッ!!」
剣や槍で言えば『突き』にあたる攻撃を、リューカは当たり前の様に躱して見せた。
しかし、空を切った触腕はさらに変態、三つ編みをほどく様に3本に分割すると、大きく伸長しながらリューカを追撃する。
「リューカッ!!」
甲太郎は先程と同じように、左手のマシンピストルを巨大人形の頭に向けて牽制射撃を行うが、人形は腕の1つを使って弾丸をガードし、残る3本の腕を甲太郎に向けた。
「何を――――ッ!!?」
次の瞬間、その3本の腕は急速に伸び、甲太郎に襲い掛かった。
甲太郎は大きく飛び退き、左右に跳ね回り、その巨大な拳をギリギリで躱す。
『ダンッ! ダンッ! ダンッ!』と人形の拳が床に打ち付けられる音が響く。
更に、タイミングをずらして繰り出されるその拳は、織田信長の鉄砲3段撃ちのように、3発目が終われば再度1発目の拳が振り下ろされ、その間断の無い攻撃に、甲太郎は回避に専念せざるを得ない。
『腕』を増やすことで手数を補った巨大人形は、甲太郎とリューカの動きを封じ、残った触腕をアズーに差し向ける。
その目的は明白だ……触腕は、アズーが持つ剣を狙っていた。
「ぬッ!?」
触腕の初撃を何とか回避するアズーだったが、タダでさえ機動力に劣る彼の動きは、巨剣によってさらに鈍重なものとなっていた。
宙で穂先を切り返し、触腕の2撃目がアズーに迫る。
「アズーさんッ! その剣を奪われたら――――――ッ!!」
甲太郎の叫びも空しく、触腕はアズーが持つ巨剣の刀身に絡みついた。
触腕はパワーに任せてアズーごと剣を持ち上げ、そのままアズーを引き剥がそうと勢いをつけて振り回し始める。
「いかんッ!!」
そこへ、3本の触腕の追撃を紙一重で躱し――正確には攻撃が装甲を掠め、火花が散っていたが――、リューカが救援に回る。
彼女は空中で、巨剣に巻き付いている触腕をヒートソードで斬って捨てた。
そのままリューカは宙を取って返し、甲太郎を攻撃していた3本の腕の間を縫うように飛びながら、3つの拳を斬り付ける。
切断するまではいかなかったものの、巨大人形は警戒してか拳を引いた。
リューカは『スタン』と甲太郎の傍らに降り立ち、何とか着地していたアズーも剣を抱えながら2人に駆け寄った。
「ありがとうリューカ、助かった」
「何、礼など要らん。それより……流石にアレは厄介だぞ、あの人形を無視して『せいぎょそうち』とやらだけ叩く訳にはいかんのか?」
リューカの疑問に対し、甲太郎は首を横に振る。
「いや、帰りの事もある。先に制御装置を破壊したら、転送ゲートも機能停止しかねない。あいつを倒して、制御装置に『細工』をして、ゲートを使って地上に帰還する……って考えてるんだけど」
「成程、分かった」
リューカは得心したというように頷き、次に巨大人形に顔を向けた。
人形は仕掛けてくる事無く、リューカに斬り付けられた触腕と拳の再生を行っている。
「しかし……変態をさせるなら、そもそも自分達の似姿になどしなければ良いものを……。『すたーちゃいるど』の美的感覚は理解できん」
リューカはそうボヤく。
EOSのヘルメットの中で、渋面を作っているのが容易に分かる声色だ。
そこに、駆け寄って来たアズーが声を差し挟む。
「あの人形の撃破が前提だという事は分かるが……実際問題どうする? 核の位置も数も不明、このまま戦い続けるのは危険だ」
アズーの懸念は尤もだった。
甲太郎もリューカもアズー自身も、巨大人形に対して有効な手を打てずにいる。
「とにかく、アズーさんはその剣を死守して下さい。それを奪い返されたら――――――ッ!?」
『どれ程の出力のビームで狙われるか分かったものじゃない』……そう口にしようとして、甲太郎の脳裏に1つのアイディアが閃いた。
「甲太郎殿?」
「どうかしたか?」
突然動きを止めた甲太郎に、アズーとリューカが声をかける。
甲太郎は今まさに再生を終えようとしている巨大人形を見、そして傍らの2人を交互に見据えた。
「イチかバチかになるけど、試したい事がある……。リューカ、『コレ』使える?」
そう言いながら、甲太郎はリニアカノンを展開状態のまま腰のハードポイントに接続、保持すると、右の拳を顔の前に掲げて見せる。
それだけでリューカは彼の意図を汲み取った。
「ああ、勿論だ!」
リューカも左の拳を掲げて見せた。
つまりそれは、対クリーチャー戦闘の切り札である『プラズマ・ディスインテグレイター』が、彼女のEOSにも搭載されているという事。
……甲太郎の閃きは酷く単純なものだ。
アズーの記録因子の情報が確かならば、人形はオービターから常時エネルギーを供給されている。
で、あれば――――供給されている以上のエネルギーを流し込んだらどうなるのか?
それは賭けだ。
だが、有効打が無く、壁の外は宇宙という閉ざされた空間で、このまま徒に戦闘を長引かせれば確実に消耗し、敗北する。
そう……賭けではあるが、逆転の可能性がある賭けだ。
「前言撤回! アズーさん、その剣を奪われても構いません。少しだけでいい、アイツの動きを止めて下さい! そうしたら、俺とリューカがプラズマ・ディスインテグレイターで攻撃します!!」
甲太郎の言葉に、アズーが難色を示す。
「しかし……あの技は相当に電力を消費するのでは? 下手したら日本に帰還できなくなるぞ!」
「例えバッテリーを消耗しても、オービターさえ破壊できれば幾らでもリチャージは可能です! 巨大人形の再生が終わります、時間がありません!!」
オービターを破壊し、日の光を浴びることが出来るようになれば、時間はかかってもEOSのバッテリーを最充填する事は可能だ。
この局面を乗り切ることが最重要なのだと、甲太郎はアズーを説得する。
「……了解した。必ずチャンスを作って見せよう!」
そう言うと、アズーは巨剣を構える。
「すでに主人は亡く、人形だけが主命を全うしようと動き続ける光景は不気味ですらあるが……考えて見れば哀れなものだな。こんな事は終わらせてやらねばならん」
リューカはそう呟くと、再生を終え、動き始めた巨大人形に声をかけた。
「安心しろ、お前の使命は今日終わる! そうだな? コータローッ!!」
「ああ! その通りだッ! 行くぞッ!!」
甲太郎の叫びと共に、3人は行動を開始した。




