第72話 守護者
「2人とも……引き返すなら今の内だぞ?」
先に撃破した人形をそのまま拡大コピーしたような巨大人形を前に、リューカはそんな言葉を口にする。
甲太郎とアズーはお互い顔を見合わせて、彼女に向き直った。
「それは……冗談にしては」
――――と、甲太郎。
そのすぐ後にアズーが続ける。
「面白くない……だな」
すると、『クツクツ』とリューカが笑った。
「よくも言ってくれる。地上に戻ったら覚えていろよ、2人とも!」
セリフ自体は憎まれ口だったが、その声色はどこか楽し気だ。
……余裕の態度を崩さないリューカ。
そして、彼女は何の気負いも無く、『地上に戻ったら』と口にした。
当たり前に、皆で帰還することを考えているのだ。
『期待は裏切れないな』と甲太郎は思い、苦笑する。
巨大人形がその手に持つ剣を大上段に振り上げる。
刃渡り数メートルにもなる巨大な剣は、その存在だけで畏怖の対象となり得るのだろう。
……しかし、甲太郎の胸中に恐怖は無い。
湧き上がるのは、生還しようとする決意。
魔界に漂着し、この世界の実情を知り、帰還への希望を絶たれた時、魔族の集落の片隅で9ミリ拳銃の銃口を咥えた事もあった。
だが、今この時……『皆で生きて帰りたい』と思うのだ。
(全く、我ながら現金だな……)
そんな事を思いながら、甲太郎は指示を飛ばす。
「総員散開ッ!!」
その声とほぼ同時に、巨大人形が剣を振り下ろした――――。
■■■
「総員散開ッ!!」
甲太郎の号令一下、リューカはBSブースターを起動し巨大人形の頭上に逃れる。
傍らを通り過ぎた巨大な剣は、その剣風だけでも、生身であったならば致命の一撃となるだろう。
その刃をまともに食らえば、EOSでもただでは済まない。
「だが、デカいだけなら幾らでもやり様は――――」
<衝突警報>
「ッ!!?」
戦闘サポートAIの警告、リューカはBSブースターを操作し、急制動をかけ滞空する。
「『天井』か!? チィッ、全面ガラス張りだとやり難くてかなわんッ!!」
制御室を構成する壁や床は非常に透明度が高く、更に光の反射も抑えられている。
その為、足を止めてじっくりと観察している時ならば問題は無いが、高速機動時にはその形状が判別しづらい。
見た目は開放的な空間ではあるが、高機動戦闘には不向きなフィールドだ。
リューカが苦虫を噛み潰していると、無線から甲太郎の声が聞こえて来た。
『リューカ! 俺の後に続けてEOSに命令してッ! 内壁の構造をHMDにオーバーレイ表示!』
「む? な、内壁の構造をへっどまうんとでぃすぷれいに……お、おーばーれい表示!!」
すると、リューカの視界……HMDに内壁の構造が簡素なワイヤーフレームとして表示された。
「おおッ! これなら動き回るに申し分ない!!」
そう言うと、リューカはその場で宙返りし、巨大人形目がけて急降下する。
巨大人形は彼女を迎撃しようと剣を振り上げるが、リューカは難なくその刃を避けると、すれ違いざまに巨大人形の胸を斬り付ける。
リューカはそのまま甲太郎とアズーの傍らに『ズザッ!』と着地し、間髪入れず巨大人形を振り向く。
しかし――――。
「むッ! 効いていない!?」
驚きの声を上げるリューカ。
その言葉の通り、巨大人形は些かも怯むことなく、リューカ達3人に向き直る。
巨大人形の胸部は大きく切り裂かれていた。
BSブースターの加速とヒートソードの性能、そして何よりリューカの剣の腕を以てして刻まれたその裂傷は深く、巨大人形の胸は人間でいえば肋骨をも断ち、肺や心臓にまで至るモノだ。
しかし、大きく開いた傷の中に核らしきものは無く、金属繊維で構成されているという人形は、その傷を見る間に再生し、塞いでゆく。
「どういうことだ!? 胸部に核があるのではないのか!!?」
叫ぶリューカ、その声にアズーが答えるが、その声には戸惑いの色が見える。
「あの巨大な人形の情報は記録にない。どうやら核の位置が違うようだな。と、なると……頭か!?」
「最後の最後でまた厄介なのが出てきたモンですね。しかし、先刻の3対3と違って今度はこっちの手数が勝っています! 元より退く選択などありません、一気に攻めましょうッ!!」
その言葉と同時に、甲太郎は左手のマシンピストルを巨大人形の顔に向け牽制射撃を行う。
「リューカッ! アイツの剣を!!」
「応ッ!!」
巨大人形は防御フィールドを使う事すらせず(巨大人形からすれば、45口径弾など文字通り豆鉄砲に過ぎないのだろう)、空いている左手で弾丸を防御する。
そんな人形に向け、リューカは再度BSブースターを噴かし飛びかかると、剣を持つ右手首を狙い、ヒートソードを振り抜いた。
巨大人形の右手首は半分ほどが切り裂かれ、ダラリと剣が床に垂れ下がる。
そこへ、空中を燕の様に急旋回したリューカが再度襲いかかった。
ヒートソードの二の太刀によって、巨大人形の右手首は完全に断ち切られ、その手と剣が轟音と共に床に落ちる。
「アズーさん! あの剣をッ!!」
「了解した!」
再度甲太郎の指示が飛び、アズーはすかさず落ちた剣を担ぎ上げる。
その拍子に剣の柄から落ちた巨大人形の右手を、アズーは明後日の方向へ思い切り蹴りつけた。
更に、彼はその巨大な剣を、ハンマー投げの要領で、遠心力を使い床と並行に薙ぎ払った。
――――結果、巨大人形は右足首を斬り付けられ、そのまま掬われるようにして仰向けに倒れる。
「甲太郎殿ッ!!」
「了解ッ!!」
アズーが叫ぶ。
その声に応え、甲太郎は巨大人形の胸に飛び乗り、見下ろすようにして人形の頭をリニアカノンで狙う。
「この角度なら最大出力でも――――ッ!!」
砲身から迸るスパーク、甲太郎は宇宙と接する外壁を避けるように砲口の角度を調節すると、思い切ってトリガーを引く。
至近距離でリニアカノンの砲弾を食らった人形の頭は果実の様に弾け飛び、砲弾は制御室の床……謎の物質で構成された透明な床に亀裂を入れてストップした。
「おおおッ!? やっぱり最大出力で撃つと危ないのかッ!!」
驚きながらも人形の胸部から飛び降り、距離を取る甲太郎。
そんな彼の傍らに、リューカとアズーが駆け寄った。
「やったな、コータロー!!」
リューカが歓喜の声を上げる……が。
「いや、まだだッ!!」
アズーの鋭い警告が飛ぶ。
「何ッ!? まだ動くッ!!?」
甲太郎の驚愕の声、それと同時に巨大人形の左腕が動き、巨大人形は上体を起こす。
そして、失った頭と右手首、そして右足首の傷を急速に再生し始めた。
「クソッ! 胸の事といい、こいつもクリーチャーと同じように再生するのか……ッ!!」
「いや、クリーチャーの再生とは少し違う。こいつは身体を構成する金属繊維を『編み変えて』再生している。その為、全体の体積は失った部位の分だけ減っているはずだ」
甲太郎の声にアズーが答えるが、それにリューカが反応した。
「すると何か? アイツが消えて無くなるまで刻み続けなければならんのか? それは流石に無理だぞッ!!」
「2人ともッ! 議論している場合じゃない! 人形がッ!!」
甲太郎の警告に、リューカとアズーが巨大人形に顔を向けると――――。
「なッ!?」
「これは……ッ!!?」
思わず驚愕の声を漏らす2人。
傷の再生を終えた巨大人形は立ち上がり、そして更にその身体を変態させる。
両肩が盛り上がり、一対の腕が形成され……。
背中から巨大な触腕が2本現れ、その先端は槍の穂先の様に形成された。
まるで、6本の腕を持つ阿修羅神像の様になった巨大人形が、3人の前に立ち塞がった。




