第70話 ティアドロップ・サテライト
人形からヒートマチェットを引き抜き、マシンピストルを拾いながら、甲太郎は立ち上がる。
彼が跨いでいる人形は完全に機能を停止しており、起き上がる気配はない。
改めて、甲太郎が周囲を見回していると(転送直後に人形の襲撃があった為、落ち着いて周囲を確認できなかったのだ)、リューカとアズーが彼に歩み寄る。
「しかし、随分と広い空間ですね……」
10階に満たないビル程度なら収まりそうな巨大空間、宇宙にこんな巨大建造物が浮かんでいる事に改めて驚く。
まあ、そのおかげでリューカが存分に空中機動出来たのだが……。
甲太郎が感嘆と共に言葉を吐き出すと、アズーが答える。
「ここは『オービター』を建造する為の資材集積所だったようだ。この空間の形状を見てもう気付いたかもしれないが、オービターは球形ではなく球の一部を尖らせた……つまりは水の滴のような涙滴型をしている」
アズーの説明を聞きながら、甲太郎とリューカは周囲を見回す。
「ここはその尖った部分の先端……便宜的に『頭』としようか。オービターは頭の側を太陽に向けて、反対の『お尻』の側を地表に向けて、魔界の衛星軌道を回っている。魔界から見上げた時に球形に見えるのはこの為だな。それから、このオービターの周囲に数十万枚の集光用偏光ミラーが浮かんでいる、眼球の白目に見えたのはこの偏光ミラー群だ」
アズーは、空間の中央に聳える柱を指さしながら続ける。
「この柱……メインシャフトはオービターの頭からお尻まで一直線に貫いている。頭側のメインシャフト先端に受光機があり、偏光ミラー群はそこに太陽の光を照射、シャフトを伝わってオービター内に取り込まれた熱を使って発電している」
「太陽がある限り、半永久的に稼働し続けるって事ですか?」
甲太郎の疑問に、アズーは首を縦に振った。
「基本的にはそうだ。しかし、この規模の施設だからな、メンテナンスは必要だ……まあ、星の子供達の寿命の事もある、定期メンテナンスの期間は1000年単位だったようだがな」
「はあ……。数十万枚だの1000年単位だの、何もかもがとんでもないな。感覚が狂いそうだ」
リューカが呆れたように呟く。
アズーは『そうだな』と首肯し、さらに言葉を続けた。
「メインシャフトを挟むように配置されている扉はオービター建設用通路のもので、完成後はメンテナンス用通路として使われていた。2本の通路が外壁の中を2重螺旋状に通っていて、その先は頭側の終端……制御室に繋がっている」
アズーの説明を聞き、甲太郎が声を上げる。
「じゃあ、そのメンテナンス用通路を進むって事ですか……。ちなみに、他に通路はあるんですか?」
「あると言えばある……だが、使用できない。メインシャフトの中に制御室への直通通路があるが、さっきも言ったように、メインシャフトは熱を伝える伝導管でもある。警備システムが生きている状態でそこに侵入すれば……」
リューカが首を横に振る。
「『こんがり』という訳か……。星になるのも焼肉にされるのも御免被るぞ」
「『こんがり』で済めば良い方だな、恐らく消し炭すら残らないだろう。それと、メンテナンス用通路は脇道が細かく枝分かれして網の目のようになっているらしいが、枝分かれした先の図面までは私にも分からない。近道も可能かもしれないが、迷ったらアウトだ。あくまでメンテナンス用通路を真っ直ぐ、道なりに突破する」
そこまで言うとアズーは一度言葉を切り、甲太郎とリューカを交互に見た。
「問題はここからだ。オービターの警備システムの内、最高戦力は間違いなく先程の人形だ、これは撃破できたが……その他の警備システムやトラップの類の大部分がメインシャフト内の直通通路とメンテナンス用通路に配備されている。ここからは数を捌きながら進まなければならない。準備は良いか?」
アズーの問いかけに、2人は同時に頷いた。
「オーケーです」
「無論だ……が、どちらの扉から行く?」
リューカが疑問を口にするが、アズーの回答は簡潔だった。
「どちらでも。メンテナンス用通路はどちらも同じ螺旋構造になっているはずだ」
「そうか、ならば近い方から行こう」
そう言って、スタスタと近くの扉に歩いてゆくリューカ。
甲太郎とアズーもその後に続くが、そこで問題が起こる。
「む? どうやって開けるんだ、この扉は」
「開閉用のボタン類も見当たらない……。もしかして、閉じ込められた!?」
アズーとEOSのパワーでも開かず、うんともすんとも言わない扉を前に狼狽える2人を見ながら、アズーも渋い声を出す。
「考えて見れば当然か。外は宇宙、制御室に繋がるルートを塞いで閉じ込めれば、これ以上ない監獄の出来上がりだ。恐らく転送ゲートも停止してるだろう。ついでに言えば、酸素の供給もな。さて、どうするか……」
「どうにか扉を開かないと……とは言え、どうする?」
考え込むアズーとリューカだが、そんな2人を横目に甲太郎は行動を起こす。
彼はヒートマチェットとマシンピストルをコンテナに格納すると、リニアカノンを展開した。
「考える時間が十分にあれば良いんですが、そうでもなさそうだし。イチかバチかになりますが……」
「コータロー!? それで扉を撃ち抜く気かッ?」
甲太郎はリューカの疑問の声に頷いて答える。
EOSは全天候・全領域活動能力を持ち、海中や無重力空間……つまり宇宙でも稼働する。
しかし、実用レベルで『行動』するためには、海中用のハイドロモーターユニットや、宇宙空間用のアポジモーターユニットといったオプション装備を使用する必要がある。
さらに、EOSは周囲の大気をフィルタリングして装着者に供給している為、海中や宇宙での活動時には酸素タンクも必要になる。
甲太郎はこれらの条件から、短時間でケリをつけるべきだと判断した。
彼はアズーに問う。
「アズーさん、ここの外壁はどの程度の強度があります?」
「相当に強固だとしか。少なくとも人形連中が内部で暴れてもビクともしない程度には頑丈なはずだ」
その答えを聞いた甲太郎は『フウッ』と鋭く息を吐き、リューカとアズーに警告する。
「2人とも出来るだけ離れて! それで……上手くいくよう祈ってて下さい!」
「了解した。リューカ殿、距離を取ろう。我々は邪魔になる」
「……わかった。だが、気をつけろよ、コータロー」
2人は甲太郎に背を向け距離を取るが、リューカのBSブースターから僅かに『キィィン』というタービンのような音が聞こえて来た。
恐らくBSブースターをアイドリング状態で起動しているのだろう、何かあれば即、甲太郎の下に駆け付けるつもりなのだ。
(イチかバチかって言ったけど、こりゃ下手は打てないな)
リューカの気遣いを嬉しく思い、内心で苦笑しながら甲太郎は固く閉ざされた扉を睨む。
(フルチャージは流石に危険すぎる、最初の1発は『お試し』だ。アズーさんのパワーを少し上回る程度の破壊力に調整して……)
甲太郎はリニアカノンに充填する電力量を調整し、狙いをつける。
そして、離れた2人に無線を介して呼びかけた。
『カウント3で砲撃します! 3!』
EOSのバッテリーからリニアカノンに電力が流れ込み……。
『2!』
リニアカノンの砲身に青白いスパークが纏わりつく。
『1!』
EOSの火器管制が扉をロックオン……静止目標だ、外しはしない。
『発砲ッ!!』
甲太郎はトリガーにかけた指を引く。
室内に、音圧を伴う轟音が響いた――――。




