第69話 チームワーク
『ダンッ』と床に着地した甲太郎は、眼前に立つ白いEOSの背中を見る。
彼の脳裏に、音声メッセージで聞いた京子の言葉が蘇った。
『あの子、アンタが思ってる以上に戦えるわ』
その通りだ――――、甲太郎は得心する。
彼等が居るオービター内は重力が働いている。
星の子供達は重力コントロールをも可能としたのだろう……、驚愕に値する恐るべき技術力だ。
だが、それはともかくとして、今この場に居る者は甲太郎達も人形達も、皆一様に床に足をつけて行動している。
そのような状況下においては、リューカのEOS……そのBSブースターによる3次元機動は大きなアドバンテージになる。
甲太郎が知る限り、異界……トーラス王国には『航空戦力』は存在しなかった。
だが、目の前の少女は相手の戦力を短時間で見定め、そして己の能力を正しく把握し、最も効果的な戦術を弾き出して見せた。
彼女の戦闘センスは計り知れない。
彼女自身はアーベルには敵わないと言っていた……私よりも腕が立つ者はいくらでも居るのだと。
それは当たり前の話ではある、個人の力などたかが知れている。
しかし、EOSという力を得た今……いや、EOSに限らずとも採れる手段が増えれば増えるほど、彼女はそれらを当たり前のように使いこなし、そして勝利を導くだろう。
目の前で、残る人形2体にヒートソードの切っ先を突き付ける少女。
背筋をピンと伸ばし胸を張り、臆する事無く、しかし奢る事も無く……その凛とした佇まいは正しく――――。
(なんだ、もう立派に勇者じゃないか……)
甲太郎は内心舌を巻く。
かつて、自身を『偽物』と断じた少女は今、正しく『勇者』であった。
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「天秤はこちらに傾いた! 憶する必要は無い、行くぞッ!!」
「「了解ッ!」」
リューカの号令の下、甲太郎とアズーは同じ人形に狙いを定め、前後から挟撃するように動く。
更に甲太郎は、人形の足元に狙いを定めマシンピストルを牽制射撃、その動きを封じ、アズーが背後に回り込もうとする――――だが。
人形は大きくバックステップして2人から距離を取ると、剣の切っ先を甲太郎に向ける。
「やば――――ッ!?」
咄嗟に、横っ飛びに回避する甲太郎。
それとほぼ同時に、眩い閃光が彼をかすめるように通り過ぎた。
「あんなの一発でも食らえば終わり――――いィッ!!?」
床を転がり体勢を立て直そうとする甲太郎に、人形はビームを2射、3射と続けざまに放つ。
「くそッ! 連射できるのかよッ!!」
甲太郎は左右に転がりながらビームを交わすが、オービターから常時エネルギーを供給されているという人形は、その実質無尽蔵のエネルギーを惜しみなく使い、ここぞとばかりにビームをばら撒く。
だが、そんな人形に高速で迫る影があった。
右手側から迫る『それ』を、人形はノールックで迎撃する。
ビームに焼かれ爆散したのは――――――やはり人形。
リューカが核を刺し貫き、機能停止した人形だ。
「ッ!?」
甲太郎は驚き、迎撃した側の人形もわずかに動きを止めた。
そして、宙を漂う爆炎を突き破り姿を現す、オリーブドラブの鋼鉄巨人。
機能停止した人形を投げつけ、それを隠れ蓑にして一気に接敵したアズーは、ビームをばら撒いていた人形の頭を文字通り『鷲掴み』にすると、無線を介して叫んだ。
『リューカ殿ッ! 頼んだッ!!』
アズーはパワーを全開にし、フルスイングで人形を宙に投げ上げた。
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事前に示し合わせた訳でもなく、甲太郎とアズーは2人1組になって人形に向かってゆく。
それは正しい判断だ。
3人の中で最も足が遅いアズーを、リューカか甲太郎のどちらかがサポートしなければならない。
そして、その役目は負傷している甲太郎が適任だ。
残る1人は、サシで人形と相対せねばならないのだから。
リューカの口元に自然と笑みが浮かぶ。
甲太郎の状況判断能力が頼もしかったからだ。
(経験の差、というヤツか)
リューカは胸中で独りごちる。
軍歴の長さであれば彼女の方が上だろう……しかし、実戦を経験した回数は――勇者に任じられる前と後を合わせても――片手の指で足りてしまう。
『王族が実戦に駆り出されるのがおかしい』という話で、致し方ない事ではあるのだが……翻って彼はどうだろうか?
リューカは思い出す。
アードラ要塞への途上、3体のクリーチャー化した魔族との戦い。
甲太郎は『手慣れて』いた。
相応の場数を踏んで来たのだと、容易に想像できる立ち回りだった。
リューカは更に口角を吊り上げて、心底楽しそうに笑う。
そして対峙する人形目がけ、BSブースターのアシストも併用し、稲妻の如き速さで接近する。
「今の我等を倒せるものかッ!!」
彼女はスピードを乗せ、さらに全力でヒートソードを振るう。
人形は咄嗟に、防御フィールドではなく剣そのものでヒートソードをいなした。
だが、リューカは一歩も引くことなく、更に押し込むようにしてヒートソードを振るった。
人形も彼女の隙を伺いながら、造られた者とは思えない技の冴えで剣を振るう。
目まぐるしく動きながら、互いの剣が打ち合わされ火花が散る。
まるでマシンガンの様に剣戟の音が響く、正に一進一退の攻防――――だが、その実リューカは手心を加えていた。
彼女はヒートソードを一振りしか使っていない。
もう一振りのヒートソードを使えば手数を増やし、人形を更に追い詰めることが出来るのだが、それをすれば人形も防御フィールドを展開し鉄壁の構えを取るか、光線兵器を使って早期決着を計りかねない。
そう、これは時間稼ぎだ。
眼前の人形を自分に釘付けにするための……、そして――――――。
突如周囲に響く爆音、続けざまにアズーの無線がリューカの耳朶を震わせた。
『リューカ殿ッ! 頼んだッ!!』
空中高く放り上げられた人形が目に入る。
「応ッ! 頼まれたッ!!」
リューカは吼えるように答えると、眼前の人形に飛びつき、その肩を蹴り大きく飛び上がる。
人形の体勢を崩すと同時にBSブースターを起動、放り上げられた人形にミサイルさながらの速度で急接近すると、軌道を変えて人形の背中に回り込み、先刻と同じように背中から胸部を貫くようヒートソードを突き立てた。
そして――――。
『コータロ――――ッ!!』
リューカは彼の名を呼ぶ、愛しい人の名を叫ぶ。
名を呼ぶだけで事足りる、自分の意図は彼に伝わる。
何の確証も無い、証明する術などない……だが、それが当たり前なのだと、彼女は確信していた。
■■■
『コータロ――――ッ!!』
「ッ!!」
リューカに名を呼ばれると同時、甲太郎はパワーアシストを全開にして飛ぶように走り出す。
――――彼女が相手をしていた人形に向かって。
その人形はリューカに踏み台にされ、大きく姿勢を崩している。
いくら相手がロボットといえども、甲太郎とアズーが実行したような、相手を宙に浮かせてリューカが止めを刺す戦法は3度は通用しないだろう。
残る2体の人形を同時に仕留めるチャンス。
リューカがお膳立てしてくれたこの機を逃す訳にはいかない。
甲太郎は右手のマシンピストルを床に落とし、人形にタックルしながらその喉元を掴み、勢いに任せて引き倒す。
そして、馬乗りになりながら剣を持つ人形の右手を踏みつけて封じ、その胸にヒートマチェットを突き立てる。
しかし、アズーが言っていた通り、人形の服は固くは無いものの妙な弾力があり、ヒートマチェットの切っ先が深く刺さらない。
「――――このッ!!」
甲太郎は咄嗟にヒートマチェットの柄頭を思い切り殴りつけた。
1回、2回と叩くごとに、まるで杭打機の杭の様に、切っ先が人形の胸に沈んでゆく。
そして3回目……人形の服を完全に突き破り、ヒートマチェットが深々と突き刺さり、人形の核を貫いた。
3体の人形は、完全に沈黙した。




