第68話 ショウ・ダウン
襲い来る3体の『人形』をそれぞれに躱し、甲太郎達は距離を取る。
人形達もそれに合わせて散開し、3対3の状況が生まれた。
甲太郎は無線でリューカとアズーに警告する。
『壁に攻撃を当てないように注意をッ! どれ程の強度があるのかは分からないけど、万が一穴でも空ければ大惨事になるッ!!』
『大惨事? 一体どうなるというんだ?』
眼前の人形相手に仕掛けるタイミングを計りながら、リューカが問う。
『外は宇宙空間……ワールド・トラフィックスのような上も下も無い無重力空間だ。しかも、ワールド・トラフィックスと違って大気が無い。壁に穴が開けばここの空気ごと外に吸い出されて、BSブースターでも戻ってこれなくなる!』
甲太郎の言葉に続き、アズーが簡潔に補足する。
『つまり、夜空を漂う星になる……という事だ』
アズーの言葉の意味を正確に理解したのか、リューカは呆れ交じりにぼやいた。
『成程……ロマンのある話だな――――ッと!?』
距離を詰め、剣を突き出してきた人形をいなしながらリューカは軽く笑って続ける。
『それよりアズーよ、早速ユーモアを理解し始めているようだな? その調子だぞ――――せいッ!!』
その言葉の終わりと同時に、リューカはヒートソードで斬りかかるが、人形はその手の剣を顔の前に掲げる。
すると、人形の正面全体に薄い光の膜が発生し、彼女のヒートソードを受け止めた。
『ちぃッ!? 『盾にもなる』とはコレの事か! ええい、正面全体をカバーするとは、反則ではないかッ!!』
リューカの叫びに甲太郎は思わず噴き出した。
『リューカがそれを言う? 君の能力の方がよっぽど反則だろう。あれ確か全方位防御だって言ってたよね!?』
『おお、そう言えばそうだな』
甲太郎の遠慮のない突っ込みが嬉しかったのか、リューカはどこか楽し気に答える。
そして、甲太郎とアズーの方を横目で流し見ると一転、鋭い口調で警告する。
『そっちも気をつけろッ! 来るぞッ!!』
その声とほぼ同時、2人にも人形が襲いかかった。
「チィッ!!」
甲太郎はヒートマチェットで人形の剣を受け止め、そのまま鍔迫り合いにもつれ込む。
アズーも同じく、腕の装甲で人形の剣を受け止めたのだが――――。
『ギャリリッ!』と不快な音が響き、アズーの腕部装甲が火花と共に削り取られた。
「ぬッ!?」
『アズーさんッ!』
甲太郎は鍔迫り合いの状態のまま、右手でマシンピストルを抜き、アズーを襲う人形に制圧射撃を浴びせる。
人形はすかさず剣を掲げ防御フィールドを展開、弾丸は残らずフィールドに阻まれ『チリンチリン』と空しい音を立て床に落ちた。
『チッ! 鬱陶しい!! アズーさん、無事ですかッ!?』
『ああ、表面装甲を一部削られただけだ。機能に問題は無い、しかし……今の威力、並の装甲なら腕を斬り飛ばされていたな』
制圧射撃の間に人形から距離を取ったアズーが答えた。
彼は腕時計を見る要領で、自身の傷つけられた腕をチラ見する。
京子が制作したアズーの身体は、魔界という整備環境の無い場所で長期間稼働させるため、頑丈さに特化した設計になっている。
固定武装を搭載しない(武装を組み込む時間が無かったという理由もあるが)彼の最大の武器は、その巨体とパワーだ。
そして、その絶大なパワーを最大余さず活用すべく、アズーの両腕部はその身体構造の中で最も頑丈に作られていた。
基本的に既存パーツの寄せ集めの中で、両腕だけは京子が自ら設計し、急ピッチでイチから製造されたのだ。
だが、人形の剣はその装甲に傷をつけて見せた。
それはつまり、EOSの装甲をすら容易く切り裂ける事を意味する。
『あの攻撃力と防御力……。剣をどうにかするか、防御フィールドを掻い潜る策を講じないとジリ貧だな』
深刻そうなアズーの呟きにリューカが答えた。
『全く、優れた防御手段を持つ相手がこれ程厄介だったとはな。今まで私と同じような能力持ちと戦った事が無かったから知らなかったぞ』
アズーとは対照的に、リューカの声はどこかあっけらかんとしている。
『リューカ? この状況でそんな……チッ! って言うか、何か思いついた!?』
鍔迫り合いをしている人形にマシンピストルを向けようとして、当の人形に片手で銃口を払われながら、甲太郎が問う。
『まあな! コータローでもアズーでも良い、相手の人形を空中に打ち上げられるか? ジャンプを誘うのでも構わない! そっちのタイミングでやってくれれば、後は私が適当に合わせる!』
『空中に? 成程ッ!!』
そう答え、甲太郎は眼前の人形に足払いを仕掛ける。
人形はバックステップでそれを躱し、それを見た甲太郎はすかさず走り出す――――人形に追撃をかけるのではなく、部屋中央の柱に向かって。
人形は即座に甲太郎の後を追うが、その様子を後方センサーで確認した彼はヘルメットの中でほくそ笑んだ。
そのまま、柱に向かって大きくジャンプ、ついでとばかりに柱を蹴り、更に高度を稼ぐ。
放物線の頂点に達し後は落ちるだけの甲太郎に、追随していた人形が同じように柱を蹴り、その手の剣を突き立てようとする――――――が。
「良くやった、コータローッ!!」
リューカが吼え、自身が対峙している人形にスローイングダガーを投擲。
人形はダガーを防御するが、それは囮。
彼女はBSブースターを起動、甲太郎目がけ――――正確には甲太郎に迫る人形に向かって最大速度で飛翔した。
人形は急接近する白いEOSに注意を向け、どうにか身体を捻り防御フィールドを展開する……しかし。
「空中ではそれが精一杯だろうッ!!」
BSブースターが機敏に動き、その推力方向を大きく変え――――リューカは宙を舞い、人形の背後を取る。
そして、人形の背中をヒートソードで深く斬り付けた。
アズーの言葉通り、人形の服は特殊なようで妙な手応えがあったが、彼女はチャンスを逃すまいと構わずヒートソードを振り抜く。
結果、背中を大きく切り裂かれた人形は機能不全を起こしたのか、動きを止め、そのまま落下してゆく。
『リューカ殿、まだだッ! 胸だッ! 胸部中央に制御用の核があるはずだッ!!』
『了解だッ!』
無線を介したアズーの警告。
リューカはすかさず落下してゆく人形を追撃する。
先行して落下していた人形に追いつき、その胸にヒートソードを突き立て、そのままBSブースターを重力方向とは逆に噴かす。
一瞬の後、室内に響く轟音。
胸を――――その中にあるという核を貫かれ機能停止する人形。
「これで3対2! さあ、覚悟せよ!!」
白いEOSは、人形を完全に貫き床まで達したヒートソードを力任せに引き抜くと、その切っ先を残る2体の人形に向けた。




