第67話 ストレイ・ドールズ
一瞬の暗転の後、唐突に視界が開け光が戻る。
転送が成功したのであれば、ここは赤い大地から見上げていた『天空の眼』……オービターの中のはずだ。
瞬時にEOSのセンサーが周囲を探査し、HMDに情報を表示する。
床面が直径150メートル程の円錐形の空間、部屋の中央は、やはり直径にして20メートル程の巨大な柱が床と天井を貫いていた。
壁面にはドアが1つ……肉眼では確認できないが、センサーによると中央の巨大な柱の向こう側にも同じドアがあるようだ。
だが、何より驚いたのは重力が働いている事だった。
今、甲太郎達3人はしっかりと床に足をつけ立っている。
そして――――――。
<警告、動体反応1、直上より急速接近>
「ッ!!」
EOSの戦闘AIが発した警告に即応し、3人はそれぞれに回避行動を取る。
前方に跳び、床を転がった甲太郎の背後から『ガキンッ』という硬質な打撃音が響く。
素早く立ち上がり、背後――――今まで自分達が立っていた所を振り向いた彼等が見たのは、床に剣を突き立てた状態で静止する『ヒト』だった。
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「何だ!? 人間ッ!?」
リューカが叫ぶように疑問の声を上げる。
剣を構えなおしながらゆっくりと上体を起こしたその『ヒト』は男性であり、身長2メートル弱。
その身に纏う衣装は、転送前の地下空間で息絶えていた星の子供が身に着けていた物と同じ……如何にもSFといった趣のウェットスーツのようなインナーの上に、古代ローマのトーガのような上着を着込んでいた。
「星の子供達!?」
再びリューカが叫ぶ……が、EOSの戦闘サポートAIがその言葉を否定した。
<前方のアンノウン、生命反応なし。エンジン、ジェネレーターに類する機構、及び駆動用モーター、アクチュエータも確認できず。詳細不明、脅威度算定不能>
その堀の深い顔や整えられた髪には色が無く、どこまでも白い。
さらに肌には肉の柔らかさは無く、金属や陶器のような硬質な印象を受ける。
格好も相まって、美術館に飾られている彫像を思わせた。
「人間でも機械でもない? どういう事だ!?」
甲太郎の疑問に、アズーが答える。
「いや、機械だ。星の子供達が自分達に似せて作った人形だ。動力ユニットを持たず、エネルギーはオービターから常時供給され、体を構成する金属繊維の収縮で動いている……はずだ」
「よく分からんが、とにかくヒトでないなら遠慮はいらんな?」
そう言いながら、リューカが左腰のコンテナからヒートソードを抜剣する。
その動きに反応してか、『人形』は手にした剣の切っ先をリューカに向けた。
「リューカ殿ッ! 回避をッ!!」
「むッ!?」
アズーの鋭い警告、横っ飛びに回避行動を取る白いEOS……そして、人形の剣先から雷撃のような光線が放たれた。
ビープ音のような耳障りな音と共に放たれた光線は狙いを外し、リューカの背後……壁にぶち当たる。
「ビーム兵器ッ!? いや、それより壁に穴でも開いたら――――ッ!!」
宇宙空間に放り出されることになる――焦った甲太郎が光線の命中した壁に顔を向けると、光線の残滓であるスパークが壁面に吸い込まれるように消えていく様が目に入った。
「何だ? 吸収した!?」
「警備システムが守るべき施設を傷つけては元も子もないからな。こいつらの攻撃ではオービターは傷つかないようになっている。特に、今の光線兵器は壁や床に当たればオービターに吸収され、再度エネルギーとして人形に供給される。つまり……」
「滅茶苦茶だ……。この閉鎖空間で、あいつら何の制約も無しに攻撃し放題って事ですか……」
星の子供達の技術力と、明かに不利な状況に甲太郎が呻く。
それとほぼ同時にリューカの叫びが室内に木霊した。
「そんな事より何だあれはッ! 剣ではないのか!? 剣に偽装した飛び道具など卑怯ではないかッ!!」
剣という武器に対して何やら思い入れでもあるのか、肩を怒らせて喚くリューカだが、彼女のEOS……その戦闘サポートAIが再び警告を発した。
<警告、室内中央、円柱状の構造物中央付近にさらに動体反応有り>
3人は同時に部屋の中央、床から天井までを貫く巨大な柱に目を向ける。
円錐形の空間、柱の高さは床の直径の倍以上あり、その中程……床から200メートル程の高さから2つの物体が落下してくる。
『ズン!』と重々しい音を立て着地したのは――――『人形』。
それも、1体目と寸分違わぬ姿の人形だ。
3体の人形は、やはり寸分違わぬ動きで剣を構えて戦闘態勢を取る。
「増えたッ!? ええい、数を揃えられるなら、何故魔族を造るなどと馬鹿な真似をッ!!」
リューカの吐き捨てるような疑問の声にアズーが答えた。
「こいつ等は高価でエネルギーを食う、その為、主に重要拠点の防衛に配備されていたらしいな。それからあの剣だが、星の子供達の間では1つの道具に複数の機能を持たせるのがトレンドだったらしい。あの剣は近接武器であり、先程見たように遠距離武器でもあり、そして盾にもなる。あの服も同様だ、只の衣装ではなく強靭な鎧でもある。注意してくれ」
甲太郎はヘルメットの中で顔を顰めた。
「厄介ですね……」
「相手が何であろうと、ここまで来て退くなどという選択肢は無いだろう! おあつらえ向きに3対3だ、1人1殺! ゆくぞッ!!」
気勢を上げ、リューカはヒートソードを構える。
それに倣い、甲太郎はヒートマチェットを抜き、アズーは両の拳を握りしめてファイティングポーズを取る。
戦闘態勢を取った3人に、3体の人形が一斉に襲いかかった。




