第66話 天空の梯子
アズーと共にリューカの下に歩み寄ると、彼女は『終わったか?』と簡潔に問う。
甲太郎が首肯すると、彼女はやはり一言だけ『そうか』と答えた。
それ以上踏み込んでくることはなく、無言で甲太郎の肩……EOSの肩部装甲を『コンコン』と軽く叩き、それから両手を自身の腰に当て、胸を張った。
「さて、話も終わったのなら此処に留まる理由もない。行くか?」
「いや、最後にもう1つだけ話すべきことがある」
先を急ごうとするリューカをアズーが止める。
「どうした?」
首を傾げるリューカと甲太郎を交互に見据えながら、アズーは声を上げる。
「今の我々にとって、この話が最も重要なものだろう。星の子供達は滅ぶ前に、完成直後だった我々魔族をオービター攻略に投入するつもりだったようだ。結局、間に合わなかったようだが……」
「え……それって……!?」
アズーの言葉に思わず食いつく甲太郎。
魔族が『天空の眼』――オービターの攻略に使われる予定があったという事は…………。
「そうだ、随分と都合の良い話だとは思うが、記録因子にオービターに関する情報も書き込まれていた。攻略作戦用に限定された情報ではあるが、アレの内部構造もある程度分かる」
「本当ですかッ!? ……良かった、これで大分楽になる」
アズーの言葉の通り、些か都合の良い展開ではあるものの、事態を打開する思わぬ好材料に、甲太郎は胸を撫で下ろしたのだが……。
「いや、そうとも言えない。この転送ゲートからオービター側の転送ゲートに跳び、そこからオービターの制御室へ至るルートには、多数の侵入者撃退用の警備機構やトラップが設置されている……らしい。まあ、当たり前の話ではあるな」
一転、悪材料を話すアズー。
甲太郎はEOSのヘルメットの上から額を押さえる。
そして、アズーの『らしい』という曖昧な言い方に疑問を覚えた。
「やっぱり警備システムくらいはあるか…………。というか、設置されている『らしい』って言うのは? 記録因子の情報じゃないんですか?」
「どうも彼等も滅ぶ直前だった為か、情報が断片的になっている。それと……我ら魔族が投入される以前、星の子供達自身によって行われた攻略作戦が失敗した記録がある」
「失敗? 自分達で造ったのに攻略に失敗したのか? ああいや、失敗したから滅びたのだろうが……どういう事だ?」
腕組みをしながら、リューカが疑問を差し挟む。
「オービターに突入する前段階で失敗したらしい……。見た所、滅びを目前にしても、最後の最後まで協力し合うことが出来なかったようだな」
そう言いながら、アズーは星の子供の骸を見やった。
その様子を見て、甲太郎は『成程』と思う。
この地下空間で、たった1人息絶えたのだろうその人物が壁に刻んだ『遺言』……。
『互いへの不信を拭い去れなかったが故に、互いへの憎悪を捨て去れなかったが故に、我らは滅ぶ。後世これを見る者あらば、どうか我らと同じ轍を踏むなかれ』
その文面とアズーの話の内容を鑑みるに、彼は攻略部隊の一員だったのだろう。
そして、オービターへ突入する直前、星の子供達の内輪揉めがあった――――通路の途中が崩落していたのは、そこで戦闘があった為か……。
生き残った彼はこの部屋に侵入するも、1人ではオービターの攻略など到底不可能、負傷していたのか諦観故か――或いはその両方か――この地下空間でたった1人息を引き取ったのだろう。
「こやつ等の行いは許されざるモノだが、まあ……多少は同情せん事もない」
リューカも甲太郎と同じ結論に至ったのか……胸に手を当てて、星の子供の亡骸に黙礼する。
そんな彼女の様子を見ながら、アズーが話を続けた。
「オービター内部の構造はある程度把握した、問題はセキュリティだ。およそ馬鹿げた量の警備システムとトラップが設置されているらしい。流石に命を預けてくれとは言えん…………引き返すなら今の内だぞ?」
甲太郎は首を横に振った。
「俺は降りる気はありませんよ」
リューカもそれに続く。
「お・な・じ・く! それからアズーよ、『引き返すなら今の内だ』だと? 冗談にしても面白くない。お前はもっとユーモアというモノを学ぶべきだな」
両手を腰に当て、胸を反らし、何の躊躇いも無く、彼女はそう言ってのけた。
恐らくEOSのマスクの中は、これ以上ないくらいのドヤ顔だろう。
「ユーモアの件は善処しよう。2人とも、改めて感謝する」
アズーは『ギィ』と頭を下げ、言葉を続ける。
「では、あの『眼』を墜としに行こう。この部屋の中心部分に近付けば、転送ゲートが自ずと開くはずだ」
甲太郎とリューカは同時に頷く。
「言うまでもないが、オービター側の転送ゲートを出たら、その直後から警備システムの攻撃が始まるはずだ。重々注意してくれ」
「了解!」
「承知した!」
3人は地下空間の中心に近付く、すると、ホライゾンゲートと同じように、光の輪郭に縁取られた巨大なリングが中空に音も無く現れた。
そのリングの中はやはり、鏡のように3人の姿を映し出す。
そのゲートの巨大さは、元が建築資材の運搬用であったことを如実に物語る。
「しかしまあ……異世界に来て、更に宇宙にまで行くことになるとはなぁ……」
ゲートを見据えながら甲太郎が呟く。
ただの独り言であり、誰かの返答を期待しての言葉ではなかったが、それにリューカが答えた。
「私は、お前とならば何処へだって行くぞ?」
不思議と、EOSのヘルメット越しでも分かる。
彼女は今、満面の笑みを浮かべている。
甲太郎は体の芯が熱くなるのを感じた。
今、自分の頬は真っ赤になっているだろう。
「ありがと……、それじゃぁ行きますかッ!」
甲太郎の掛け声とともに、3人は転送ゲートに跳び込んだ。




