第63話 同じ轍を踏むなかれ
『3……2……1、行動開始ッ!!』
無線越しの甲太郎の掛け声と同時に、3人は一斉に身を潜めていた遺跡の通路から、眼前の地下空洞に突撃する。
ワームを驚かせ虚を突く為に、大きく派手な動きで空洞の中心部分まで進出すると、甲太郎はヒートマチェットを、リューカはヒートソードを抜き放ち、アズーは力士が四股を踏むように『ズシン』と足を踏み鳴らした。
3人は自然と、お互いの背中をカバーできるように円陣を組み、襲いかかって来たワームを迎撃し始める。
甲太郎は右手のヒートマチェットで牽制主体に戦い、確実に仕留められるタイミングを見計らい、ワームを倒してゆく。
リューカは右手にヒートソードを、左手にスローイングダガーを持つ2刀流で、寄らば斬るとばかりにワームを切り伏せる。
そしてアズーは今までの戦闘と同じく、自身に食いついてきたワームを力任せに引き千切った。
アズーは(正確に言えば彼の身体は)EOS程の高精度な暗視機能を搭載していなかったが、元々魔族は夜目が利く。
わずかに残された生体部分……彼の眼は、機械の身体に移植されて尚その特性を失わず、灯りの無い地下空間を問題なく見通していた。
「よし、ワーム共が逃げ始めたぞ!」
もはや無線で会話することに意味は無い。
アズーは一部のワームが通路を通って逃げ始めている事を、外部スピーカーで甲太郎とリューカに知らせた。
「もうひと押しと言った所か! ならばッ!!」
そう言うが早いが、リューカは左手用短剣として使っていたスローイングダガーを本来の用途通りに……つまりはワームに投擲すると、もう1本のヒートソードを抜剣し、自在に振るい始める。
闇を切り裂くように、赤熱化したヒートソードが虚空に赤い帯を描き出す。
『まるで剣舞だ』と、甲太郎はその様に思わず見惚れた。
「ふんッ!」
『ブゥン!』という風切り音を最後に、リューカは役者さながらに見得を切ると、2本のヒートソードを器用にそれぞれ左右のウェポンコンテナに納刀する。
3人を包囲していたワームは、1匹残らず逃亡していた。
「うむ、うむ……。EOSを使った戦闘にも慣れてきたかな? どうだ?」
甲太郎に水を向けるリューカ。
甲太郎はヒートマチェットを格納しながら答える。
「お見事です」
実際、彼女の動きは見事だった。
至近に味方が居る状況で、2本のヒートソードを危なげなく自在に振るって見せた……。
十分な訓練期間など無かったはずだが、EOSのパワーアシストをすでにモノにしつつある……それは恐らく、彼女のセンスの成せる業なのだろう。
「お前が言うなら確かだな。フッフフフ」
誇らしげに胸を張って腕組みし、うんうんと頷くリューカ。
EOSを装着していなければニヤケ顔が拝めただろう。
……それはともかく。
「あのワームも災難ですね。食事を邪魔されボスを殺され、挙句住処を追い出されるとか……まあ、全部俺がやったんですけど」
そう呟く甲太郎に、地下空間の一画を指し示しながらアズーが答える。
「あのワーム共なら暫くすれば戻って来るだろう。あれを見てくれ」
「うん?」
アズーが指差す先、そこにはうず高く積み上げられた球形の……。
「あれ、卵ですか?」
「そうだ。見た所、孵化はまだ先のようだ。そう簡単に此処を諦めはしないだろうな……あれも放っておいて先に進もう」
そう言いつつ先行するアズー。
甲太郎とリューカも彼に続き、ワームとの戦闘前に確認した最奥の扉の前に立つ。
恐らく自動ドアなのだろう……取っ手も無く、何らかの動力で自動開閉すると思われるその扉は、やはり機能を停止していた。
しかし、左右の引き戸の間に僅かな隙間が空いている。
アズーはその隙間に両手の指を捻じ込むと、力任せにこじ開けにかかった……、甲太郎とリューカも、それぞれ左右の扉に手をかけアズーをアシストする。
如何に頑丈な遺跡とは言え、性能をパワーに極振りしたアズーと、2体のEOSを阻むことは出来ず、『ギギギッ』と金属が軋む音を響かせながら、少しづつ扉が開く。
全てではないが、アズーが横になり何とか通れる程度まで扉を開くと、甲太郎は中を窺った。
暗視装置や各種センサーで確認できる限り、ホライゾンゲートがある遺跡と同じような構造で……やはり機能を停止しているようだ。
空間内部、その床や壁面を埋め尽くす幾何学模様は光を発しておらず、ただ静寂のみがその場を支配している。
「踏み込みます。危険は無いようですが、警戒を怠らないで下さい」
どうやら危険はなさそうだと判断し、甲太郎が足を踏み入れたその時……唐突に遺跡が息を吹き返した。
「なッ!?」
「コータロー! これはッ!?」
甲太郎達が踏み込んだ事がスイッチになったのか、周囲の幾何学模様が蛍のような柔らかな光を灯し、暗視装置無しでも周りを見渡せるようになる。
「休眠状態だったようだな。何者かが踏み入る事で自動的に再起動したのか……?」
誰ともなく呟くアズー。
3人は注意深く周囲を見回し……『それ』を発見した。
何もなく、ただただ広いカラッポの遺跡の中、壁際に横たわる――――ヒトの亡骸。
死亡してからどれほど経っているのだろうか……その亡骸は既に白骨化していたが、それでもその骨が魔族の物ではない事は一目で分かった。
甲太郎もリューカも、トーラスにおいてクリーチャー化した魔族の骨を見ている、間違えようは無い。
何より、その白骨は魔族よりも甲太郎やリューカのような『ヒト』の特徴を色濃く示していたし、白骨が身に纏う『衣服』が、3人が見た事も無い奇異なモノだったからだ。
「これは、先史文明人の遺体だな……。私も見るのは初めてだが……」
驚きを滲ませた声音で、アズーが呟く。
「分かるんですか?」
甲太郎が疑問を口にするが、アズーが答える前にリューカが割り込んだ。
「おい、ここを見ろ! 何か書いてあるぞ!」
リューカが片膝をつき、白骨の近くの壁を指さす。
甲太郎とアズーも身をかがめて彼女の指先が示すものを覗き込んだ。
そこには、何かで刻まれたような無数の傷があった。
いや、それは――――――。
「これ、文字か?」
甲太郎は思わず疑問を口に出す。
曲線は殆どなく、点と線の組み合わせで構成されたその傷は、まるでモールス信号の符号の様に見えた。
「少しでも情報が欲しいですからね、解読できればいいんですが……」
悔しそうにそう口にする甲太郎。
未知の文明の(それも非常に高度な技術を誇る)遺物に挑むのだ、些細なものであっても情報は仕入れておきたかった。
勿論、目にしている文字は全く未知のモノ。
アズーが言う通り、この白骨が先史文明人であるなら、この文字は彼等が使っていた文字なのだろう。
『ふう』と嘆息する甲太郎。
だが、その時――――アズーの声が響いた。
「互いへの不信を拭い去れなかったが故に、互いへの憎悪を捨て去れなかったが故に、我らは滅ぶ。後世これを見る者あらば、どうか我らと同じ轍を踏むなかれ――――と、書かれている」
謎の文字列を読み上げたアズーに、甲太郎が詰め寄った。
「読めるんですかッ!? ていうか、アズーさんはこの文字を知ってるんですか!!?」
リューカも同様に驚きを露にする。
「魔族は文字を使うのか!? 過去トーラスに攻めてきた連中も、お前達も、文字など使っていたなどという記録は無いし、私も見た事ないぞ!?」
「そうです! あの魔族の集落に身を寄せていた時も、魔族が文字を使っていた所なんて見た事ありません。アズーさんは何処で、誰からこの文字を学んだんですか?」
リューカと甲太郎に詰め寄られ、珍しくアズーが狼狽した。
「いや、この文字を見た瞬間、意味が分かったのだが…………む?」
アズーは突然、頭を横に振る。
「何だ? これは…………これは…………ッ!」
『ズシン』とその場に膝をつき、アズーは己の頭を押さえ蹲る。
「おい! アズーよ、どうしたッ!?」
「大丈夫ですか!?」
アズーには2人の声が遠くに聞こえた。
彼の頭の中に、唐突に浮かび上がってくるモノがあった。




