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ホライゾンゲート  作者: 大野 タカシ
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第60話 星を墜とす

 「『どうにかする』? あの人工衛星を? リューカ殿と同じような事を考えるのだな。成程、似合いの2人だ」


 「私が選んだ男だ、当然だろう? とは言え、お前の体は万全な状態ではない、無理はさせたくないんだが……。その話、興味がある。続けてくれ」


 甲太郎の『天空の眼をどうにかする』発言に、アズーとリューカは驚きながら答えた。


 「『似合いだ』とか、巧みにそういう話題を捻じ込んでくるのはやめてくれませんかね。それより『人工衛星』か……、確かに衛星軌道にある人工物って事なら間違ってないだろうけど、あの『眼』はもうデス・スターでしょう」


 甲太郎は古典(・・)SF映画の宇宙要塞を引き合いに出すが、リューカもアズーも理解できずに首を捻る。

 話が通じなかった何とも言えない空気をごまかす様に、『こほん』と1つ咳払いをしてから甲太郎は言葉を続けた。


 「と、とにかく、ああいうデカブツは内部に侵入して(コア)を破壊する……っていうのがお約束なんですけど」


 その言葉にリューカが反応した。


 「コータロー、お前の言いたい事は分るが、私のEOS(エーオース)でもあの『眼』には届かんのだぞ? どう侵入するつもりだ?」


 リューカの疑問に、甲太郎は難しい表情を浮かべて答える。


 「魔界に漂着してこの集落に保護されてすぐに、あの『眼』が地表を焼き払うのを見ました。日中に外に出ようとする俺を押しとどめ、この洞窟で暮らす魔族達を見て……ずっと考えてました、あの『眼』が何なのか。それで、1つ疑問に思ったんです、『あれ程の大質量の建造物をどうやって造ったんだろう』って」


 「どうやって造ったか? そうか、建設を担う作業員や建築資材を空の上に送り出す手立てがあるはず……という事か! アードラ要塞も王国各地から人や物を集めて建造したからな」


 甲太郎は大きく頷く。


 「加えて言えば、『天空の眼』は地上からでもはっきり見えるほど巨大です。あんなモノをロケットなんかで一々資材を打ち上げて造ったとは思えません。先史文明人はホライゾンゲートを作るほどの技術を持っていました……で、あれば、あのゲートと同じようなモノで、衛星軌道に人や物を送り出していた可能性は十分にあるかと」


 「世界と世界を繋ぐ門ではなく、地上と天空を繋ぐ門というわけか……。本来なら驚いて疑問を持つべき所なのだろうが、まあ今更だな」


 そう言って『ふふっ』と笑うリューカ。

 この一月にも満たない期間で複数の世界を渡り、様々なモノを見聞きしてきた彼女には、既存の常識に(とら)われない柔軟な思考が芽生え始めていた。

 甲太郎はそんな銀髪の少女を眩しそうに見つめると、軽く首を振り言葉を続けた。


 「問題は、ほぼ焼き尽くされたこの地上に、その『手段』が残っているか? という事なんですが……。アズーさん、何か思い当たる事はありませんか?」


 話の矛先を向けられたアズーは、少しの間無言で何やら思案しているようだったが、おもむろに声を出した。


 「……ある。だが、それを話す前に1つ聞きたい。甲太郎殿にとってこの魔界の状況は本来係わりのない事、何故あれを叩くなどと?」


 甲太郎は右手で頭を掻きながら、どこか言い難そうに答える。


 「その、大したことじゃないし、酷く個人的な事なんですが……。2人に再会して、親父の遺体を埋葬したって聞いて……、何か恩返しをしなきゃなーと思いまして……。主に姫様に対して、ですけど」


 アズーが『うむ』と頷いた。


 「再会した時……、リューカ殿に抱かれていた時か」


 「いや、そこから少し離れましょうか? 話を進めたいんですが」


 頬を赤くして抗弁する甲太郎に、リューカが声をかける。


 「何だ? 私の胸ならいつでも貸すぞ?」


 そう言って、右手で『ドン』と自身の胸を叩く。

 やることが一々『男前』な姫様である。


 「今俺、遠回しにヤメテって言いましたよねッ? なんで追い打ちかけてきたんですッ!? ていうか、なんで魔界にまで来て思春期の中学生みたいにイジられなきゃいけないんですかッ!?」


 「いやぁ……何と言うか、反射的に」


 若干『照れ』の入り混じったリューカの笑顔を見て、甲太郎は毒気が抜かれてしまう。

 彼は呆れを滲ませながら言葉を続けた。


 「まったくもう……。まあ、俺の動機はそんな感じです。あの『天空の眼』を無力化すれば、魔族は存亡の危機から抜け出せる。そうすれば、とりあえずはトーラス王国に攻め入る理由も無くなる」


 「理解したが……窮地を脱し、爆発的に数を増やした我々魔族が、憎しみや欲望のままに異界に攻め込むとは考えないのか?」


 アズーは甲太郎に問う。

 常識的に考えれば、アズーの言う可能性の方があり得るシナリオだろう。

 しかし、甲太郎は首を横に振った。


 「ここの魔族達は、ゲートの向こうからやって来た俺に対して特に敵愾心(てきがいしん)を持っていません。恐らく、魔族は恨み(つら)みではなく、ただ生存のために、魔族なりのプライドを持って戦っているのでは?」


 アズーは無言だが、その沈黙は肯定の意なのだろう。


 「それならば、生き抜くための『土壌』が出来れば、魔族はこの世界でやって行ける……。まあ、これは全て俺の想像です。いざとなれば、あの『遺跡』を帰りがけに破壊することも考えましたが、俺は魔族にも助けられました……。出来れば、魔族も助けることで丸く収めたい」


 『それと』と、甲太郎は最期に付け加える。


 「俺が日本に帰還すれば、二度とこの世界に来ることは無いでしょう。やるなら今しかないんです」


 その話を聞いたアズーは、『ギシリ』と首を横に振った。


 「まいったな。どうにかして君達の助力を得て『眼』に挑もうと考えていたが……杞憂だったか」


 そう言いながら、アズーは深く頭を下げる。


 「2人とも、厚かましい願いであるとは重々承知しているが、どうか力を貸してもらいたい」


 「元からそのつもりです」


 「同じく。あのふざけた『眼』を叩けば、さぞかし気分良くトーラスに帰還できるだろう。良い土産話にもなる」


 甲太郎とリューカは同時に、大きく頷いた。


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