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ホライゾンゲート  作者: 大野 タカシ
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第6話 魔が潜む山

■異界、コルドール村近傍(きんぼう)、森の中


 酒場で夕食をとった日から五日、夕暮れが迫る時間帯、甲太郎はEOS(エーオース)を装着し、自身が流れ着いた森の中に居た。

 異界においても、太陽は東から昇り西へと沈む。

 二つの夕日が辺りを赤く染め上げている頃合だが、鬱蒼(うっそう)と茂る木々が西日を遮り、森の中は薄暗い。

 しかし、EOSのセンサーはそんな環境下でも、周囲の景色を克明に映し出し、そして映像ではわからない大気の動きや赤外線、紫外線、各種電磁波等の情報も余す事無く観測し、ヘルメット内のディスプレイに表示する。


 「やっぱり、何も無いな……」


 甲太郎はひとりごちた。

 この世界に漂着し、コルドール村でお世話になって早一月あまり、その間も時間の合間を()って何度もこの『漂着ポイント』を調べに来ていたが、結果は全て空振りに終わった。


 (こうなると、話に聞いた『北』に向かうしかないか)


 甲太郎は思い出す。

 それは、正に青天の霹靂(へきれき)だった。


 ――――この異界とは別の、さらに異なる世界から押し寄せる『魔族』と呼ばれる存在。

 彼らの出現を告げる早馬がコルドール村を通ったのは三日前……、甲太郎が村の子供達と共にベッカー先生の授業を受けている時の事だった。



■三日前、コルドール村


 「ベッカーさん! アードラからの早馬がッ! ま、魔族が出たって知らせがッ!!」


 授業中にいきなりベッカー宅の客間兼教室に飛び込んできた村人は、開口一番そう叫んだ。

 途端に、子供達が騒ぎ出す。


 「おい、まぞくだってよ!」「ママ言ってた、まぞくは悪い子を食べちゃうって!」「って!」「魔族か……、どうりでワレの右手が(うず)くわけだ。フフフ……」


 同時に喋り、瞬く間に会話がカオスになるのは、どこの世界の子供も変わらないらしい。


 「ベッカーさん、俺たちゃどうすりゃ良い?」

 「アードラからの伝令は王都に向かったんじゃろう? なら、一週間もすれば王都から魔族討伐軍が来るだろうから、受け入れの準備だけしておけば良いじゃろう」

 「受け入れの準備ってーと……」

 「とりあえず、日持ちする食い物と薪を用意しときゃいいじゃろ。無理の無い範囲でかまわんからな」

 

 ベッカー先生の言葉に頷くと、村人は慌しく教室から去っていった。


 「ほれほれ、ガキンチョ共静かにせんか」


 『はーい』と、元気に返事をする子供達を見回した後、ベッカー先生は甲太郎に視線を向ける。


 「さて、コータロー。魔族については?」

 「俺がそんなこと知ってるわけ無いじゃないですか」


 甲太郎が即答すると、子供達がまたぞろ騒ぎ出す。


 「えー! コータロー、まぞく知らないのか!?」「知らないのー?」「のー?」「フッ……、無知は罪。すなわち、汝罪人(つみびと)なり」


 「コータロー……、胸を張って言う事ではないぞ。それからお前達も、魔族について昔話程度のことしか知らんじゃろ」


 ベッカー先生は甲太郎と子供達を(たしな)めると、顎をさすりながら何事か考え込む。


 「ふむ、良い機会じゃ。今日は魔族について話をするかのう」


 そう言うと、先生は書棚から一冊の本を取り出し、皆に見えるように机の中央に置き表紙を開く。

 

 この世界には製紙技術が存在し、地球ほどの品質ではないが紙の本が出回っている。

 基本的に手書きの物だが、一部木版印刷が使われている。


 ベッカー先生が取り出したのは歴史書だった。

 開かれたページに魔族に関する記述と、その姿の挿絵が載っている。


 「今から300年前、この村を通る街道の北の果て……、ヘレネア山に忽然(こつぜん)と現れた異形の者共、それを魔族と呼んでおる」


 先生が挿絵を指し示す。

 その姿は、甲太郎の感覚で言えば『餓鬼(がき)』や『ゴブリン』といった空想上の存在に似ていた。


 「300年前は紙など無かったからの、当時の事は口伝や石碑などでしか分からんが、発見が遅れてこの村近くまで侵攻されたようじゃな。そして、王国軍がこれを迎え撃ち、撃退に成功するわけじゃ」


 甲太郎も、子供達も、先生の話に聴き入っている。


 「逃げる魔族を追ってゆくと、ヘレネア山の中腹で、魔族の頭目と思われるひときわ身体の大きな魔族……『魔王』と、魔界に繋がる門を見つけ、その場で決戦となった。多大な犠牲を出しながら、(から)くも魔王を討ち果たすと、魔族たちは皆『門』へと逃げ込んだ」


 ベッカー先生は、また別の挿絵を示す。

 描かれていたのは一振りの剣。


 「魔王が持っていた剣と『魔界の門』が共鳴している事に気づいた兵士が、剣を門に刺し込むと、門は跡形も無く消え去ったと伝わっておる。それ以降、およそ50年ごとに魔界の門が口を開き、魔族が攻め入って来るようになった」


 甲太郎はじっとりと汗ばんだ掌を握り締める、『魔界』そして『魔界の門』……。

 それこそ正に探し求めていたモノ、次元の壁を越え、世界を渡るための手段。


 「剣は『聖剣』として奉られ、魔族が攻めて来る度に、国一番の戦士が『勇者』として聖剣を(たずさ)え、魔界の門の封印を行うようになった。ちなみに、勇者選定の儀式がいつの頃からか定例化したのが、2年に1度、王都リーベルで開かれる剣技大会じゃ」

 

 先生は『ふう』と一息入れると、説明を()(くく)る。


 「魔族についての基本はこんなモンじゃな。なにか質問はあるかな?」


 すかさず村の子供の一人が手を上げる。


 「はーい! まかいってどんなトコロですか?」

 「魔界に関しては全く分かっておらん。過去に何度か門の向こうに部隊を送り込んだが……、一人も戻って来なかったからの」


 次に、甲太郎が口を開く。


 「『魔界の門』とは具体的にはどんな物なんですか? それと、『聖剣』でこちらから『門』を開くことは出来ないんですか?」

 「これも詳しい事は分かっておらんが……、ワシは若い頃王国軍に奉職(ほうしょく)しとってな、前回の第6次侵攻の時に遠目に見た事がある。なんとも不可思議なモノでな、空中にポツリと浮かぶ鏡のようなモノじゃったな。それから聖剣じゃが、国のお抱え研究者達が散々調べたが、門を閉じることは出来ても開くことは出来んようじゃの」


 『鏡』……。

 ベッカー先生の言葉に、甲太郎は確信を強める。

 あの研究所、秘匿区画の最奥部で見た物。


 あれも、空中に浮かぶ鏡のような現象だった――――。


 

■現在、コルドール村


 森から戻り村に着いた時には日は落ちきっており、月明かりと星明り、そして家々から漏れ出る明かりが周囲を辛うじて視認できる程度に照らしていた。

 夕食の準備をしているのだろう、各家の煙突から煙が立ち上り、辺りには食欲をそそる匂いが漂っている。


 「おおコータロー、帰ったか。少し手伝え」


 ベッカー宅に戻ると先生が夕食の準備をしていた、甲太郎はそれを手伝いながら、おもむろに話を切り出す。


 「明日、村を発ちます」

 「ほう、随分と突然じゃな……。何処へ行く?」


 先生は、かき混ぜている鍋に視線を落としたまま、甲太郎に尋ねる。


 「その……、北へ向かおうかと」

 「ヘレネア山か……。行って何とする、魔族が湧いたんじゃ、麓のアードラ要塞で足止めを食うだけじゃぞ?」


 スープの味見をしつつ、甲太郎に問いを投げかける先生。


 「少し、調べたい事がありまして……」

 「魔界の門じゃろう? 止めはせんが、あと数日で王都から討伐軍が来る、どうせなら行動を共にしたらどうじゃ? そうすれば山にも入れるじゃろう。引退したとはいえ、ワシも元王国軍人、お前さんを討伐軍に推挙(すいきょ)する位はできる」


 甲太郎は、日中皆で勉強した机に食器を並べながら答える。


 「いえ、一人で行きます」


 先生の提案はありがたい物であったが、討伐軍の目的はあくまで魔族の討伐と魔界の門の封印。

 門の調査を目的としている甲太郎は、討伐軍に(さき)んじて行動したいと考えていた、さらに、甲太郎が戦闘を行う際はEOSの装着が前提となるが、EOSの性能は懸絶(けんぜつ)している為、他の人員との連携が難しい。

 日本においても、戦闘時にはCTRaSの仲間たちとはデータリンクだけ行い、情報の共有のみで独立して行動する事が多かったのだ、ミスティックという超能力じみた力を使うとはいえ、データリンクもできず、基本的に剣と弓を使用して戦うこちらの戦力との連携など論外である。


 「まったく、妙なところで頑固になりおって」

 「すみません……。本当に、今までお世話になりました」

 「明日にしろ。ほれ、飯にするぞ」


 コルドール村での最後の夕食。

 二人とも、無言で食事を済ませた。


 ――――翌日、コルドール村の北の外れに、甲太郎と数人の村人の姿があった。

 ベッカー先生とグレイ爺さん夫妻、一緒に勉強した子供達と、その他親しくしてくれた村人たちが、甲太郎を見送りに来てくれたのだ。


 「受け取れコータロー、今までの仕事の報酬じゃ」


 そう言うと、ベッカー先生は拳大の巾着袋を甲太郎に持たせる。

 中には銀貨が数枚と、銅貨が数十枚。


 「え? それって俺の生活費や、先生の授業料になってたんじゃ?」

 「安心せい、その分は差っ引いてあるわい。これはお前さんの労働に対する正当な報酬じゃ、持って行け……。それから、グレイさんからも選別がある」


 ベッカー先生がそう言うと、グレイ爺さんと奥さんが進み出て、一振りのショートソードを甲太郎に差し出す。


 「そんな、散々お世話になって、その上こんな物まで貰えませんよ」

 「いやいや、命を助けてもらったんじゃ、この位はさせてくれ。それに、そんなナイフ一本じゃあ、流石に無用心だよ」


 異界に銃が存在しないようだと判断した甲太郎は、この一月あまりの間コンバットナイフだけを携帯し、9ミリ拳銃は部屋に厳重に隠していた、今も銃はホルスターごと他の旅の荷物と一緒にズダ袋に入れている。


 「それじゃ、お言葉に甘えて……、ありがとうございます」


 次に、グレイ爺さんの奥さんが甲太郎に何かの包みを渡して言う。


 「日持ちのする物を入れておいたから、あとで食べてね。それから、またこの村に来た時には顔を見せて頂戴、歓迎するわ」

 「皆さん本当に……、ありがとうございばずッ!」


 涙声になりながら、深く頭を下げる甲太郎。

 何かにつけて涙腺の(ゆる)い男であった。


 「コータローッ! また来いよなーッ!」「きをつけてねーッ!」「ねーッ!」「男とは、荒野を目指し旅をするもの……。そしてその旅路の果てに、真の己を見い出す生き物なのだ」


 お世話になった皆と、子供達のかしましい声に送り出され、甲太郎はコルドール村を後にする。


 目指すはトーラス王国北辺、魔が潜む山――――ヘレネア山。



■トーラス王国、王都リーベル


 甲太郎がコルドール村を旅立った日から、少々時間を(さかのぼ)る。


 王国最大の湖、アルテニア湖の(ほとり)に栄える王都リーベル。

 湖の水を利用し、都中に水路を整備する『水の都』とも呼ばれるこの都市の中央に、王城サン・リーベルが存在する。

 荘厳(そうごん)白亜(はくあ)の巨城……、その謁見の間において、今代の勇者の認証式、及び魔族討伐軍の結成式典が()り行われていた。


 巨大なホールになっている謁見の間では、王侯貴族はもちろんの事、役人や軍人、その他国中の大勢の有力者達が、今まさに『聖剣』を(たまわ)り、『勇者』を拝命する一人の少女に注目していた。


 少女――――、整った顔立ち、白く透ける様な肌とサファイアの様な碧眼、そして高い位置で一つに束ねていながら、腰の下まで届く銀の髪が否応無く人目を()く、美しい少女だった。


 担わんとする重責故か、その唇は引き結ばれ、眼差しは険しい。

 だが、身に(まと)う見事な銀の鎧と相まって、そんな表情すら、見る者を惹き付けている。


 「リューカ・アルゼー・ウィクトーリア! 御前(ごぜん)へッ!」


 名を呼ばれた少女が進み出る。

 眼前には玉座……、座するのは、もちろん王冠を(いただ)く王。


 王は立ち上がり、脇に控える大臣から一振りの剣を受け取る。

 飾り気の無い、『貴人が持つには相応しくない』と(そし)られてもおかしく無い、実用一辺倒のロングソード。

 王は、片膝を付き(こうべ)を垂れる少女の肩に剣を置き、宣言する。

 

 「我、アルフレッド・ネーロ・ウィクトーリアが王権をもって、汝リューカ・アルゼー・ウィクトーリアを勇者に任ずる」


 少女は立ち上がり、王……、自身の父から聖剣を受け取ると、式典の参列者達へと振り向く。

 そして、聖剣を天に掲げると、歌うように朗々と言葉を紡ぐ。


 「天におわす我等が父よ! (いこ)いの(みぎわ)に召されし英霊達よ! 御照覧(ごしょうらん)あれッ! このリューカ・アルゼー・ウィクトーリア、必ずや魔族の軍勢を打ち払い、この地に安寧(あんねい)(もたら)さんッ!!」


 謁見の間に集った人々から、割れんばかりの拍手と歓声が湧き上がる。


 同日、第7次魔族討伐軍1000名が王都リーベルを進発(しんぱつ)

 アードラ要塞守備隊1500名と合流し、魔族との戦いに挑む。


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