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ホライゾンゲート  作者: 大野 タカシ
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第45話 不正規戦

 研究棟1階の中心を貫く大通路を、6機のサイクロプスが進んでゆく。

 研究機材等の搬入の為にかなり広く作られた通路は、サイクロプス3機が横隊を組んで尚その幅に余裕があり、そして高さにも十分な余裕があった。


 周囲の索敵をしながら進むサイクロプスだが、20メートルほど先、突如として左手の扉が蹴破られ、何者かか通路に躍り出る。

 行く手を阻まれ、サイクロプス全機は足を止めた。

 

 蹴破られた扉から飛び出したのは、白地に赤いラインのEOS(エーオース)

 曲線で構成されたデザインは兵器としての力強さと同時に、どこか優美さを感じさせる。

 甲太郎のEOSと同じく、左右と後ろ腰に取り付けられたウェポンコンテナは、その航空機の主翼のような形状により、全体のシルエットをドレスで着飾った貴婦人のように演出していた。


 リューカは右手で左腰のコンテナからヒートソードを引き抜くと、切っ先を先頭のサイクロプスに向ける。


 「押し入った挙句の狼藉(ろうぜき)の数々、断じて許せん! 覚悟せよッ!!」


 6体の単眼巨人を相手取り、怖じ気付く事なく堂々と宣戦を布告するリューカ。

 剣の切っ先を向けられたサイクロプスはそれを嘲笑(あざわら)うかのように、手にした多目的ランチャーを眼前の闖入者(ちんにゅうしゃ)に向け、引き金を引く。


 炎の尾を()き、リューカに迫るロケット弾。

 彼女は回避行動を取らず、あろうことかロケット弾に向かって大きく一歩踏み込み、右手の剣を振るった。


 紫電一閃――――。


 『ガラン……』と、真っ二つに切り裂かれたロケット弾が爆発することなく床に落ちる。

 あまりの出来事に硬直するサイクロプス。


 「ゆくぞッ!」


 その瞬間を逃さず、リューカは犬歯を剥きだす獰猛な笑みを浮かべ、先頭のサイクロプスめがけて飛んだ(・・・)

 放物線を描く跳躍ではなく、相手めがけた一直線の『飛行』によって、20メートルの距離が一瞬で消え失せる。

 そして天井すれすれの高さからサイクロプスの頭に取り付いたリューカは、赤熱化したヒートソードを(ヘッド)(マウント)(ディスプレイ)に表示された指示通りに、サイクロプスの頭部へ突き立てた。


 中心よりやや後方よりの……、人間でいえば後頭部にあたる部分に刃を突き立てられた単眼巨人は、その場に膝をつき完全に停止した。



■倉庫内


 「よっし! ドンピシャ!!」


 ノートPCに表示されたEOSから送られてくる映像を見ながら、京子はガッツポーズを決める。

 一緒に映像を見ていた研究班のスタッフが、感心しきりといった風に京子に声をかけた。


 「サイクロプスの制御ユニットの位置なんて、よく知ってましたね」


 アメリカの議会はサイクロプスの輸出を一切禁止していた、もちろん日本もサイクロプスを保有していない。

 そのため、日本は先進歩兵強化構想において独自にパワードスーツ……EOSの開発を決定したのだが、それはともかく……。

 保有しておらず、内部構造の不明なサイクロプスの制御ユニットの位置を、京子は当てて見せたのだ。


 「まあね、アメリカ軍が一般に公開してる情報とか、ニュース映像とか……。それからサイクロプスと合同訓練した隊員の証言から、大体の設計レイアウトは予測してたのよ」


 何気なく答える京子だが、集積し突合した情報の量は膨大だったはずだ。

 改めて、京子の才能と仕事への執念に驚くスタッフだったが、京子は京子でノートPCに映るEOSの情報を見、感嘆と共に口を開いた。


 「それにしても、敵の目の前に躍り出て大見得(おおみえ)切った時には血の気が引いたけど……。彼女、とんでもないわね」


 「ええ。さっきの剣さばきといい、『BSブースター』を使った機動といい、ならし運転しかしていないのに、まるで熟練者のように使いこなしています。信じられません」


 ノートPCにはEOS視点の映像と、監視カメラが捉えた映像が並んで表示されている。

 リューカは壁を蹴り、天井を蹴り、空中を縦横無尽に跳び回り、5機のサイクロプスを翻弄(ほんろう)していた。

 その様子をよく観察すれば、EOSが両腰に装着するウェポンコンテナがリューカの動きに合わせて機敏に動いているのが分かる。


 推力(ベクタード)偏向(スラスト)ブースター……、通称『BSブースター』。


 無重力空間であるワールド・トラフィックス内で行動するために開発された装備である。 

 装着者の身体の動きを阻害しないよう、自動的に最適角・最適位置を保持するウェポンコンテナの機能を流用し、自在に推力方向を変えるブースターの機能を追加したものだ。

 エアインテークから吸入した大気を後方に噴出し、絶大な推力を生み出す機動補助装備であり、銃火器の携帯を禁じられたS作戦実施にあたり『機動力で敵を圧倒する』運用を想定し開発されたものだ。


 とは言え、十分に調整や訓練の期間が取れなかったため、京子達研究班は『緊急回避時に、前後左右の2次元機動に使えれば御の字だろう』と考えていたのだが……。


 白いEOSは、複数の敵を手玉に取る非常に高度な3次元機動を展開している。

 しかも、高速機動には不向きな閉鎖空間で床や壁、天井や柱を上手く使い、(はた)から見ている京子達の方が目を回しそうな勢いだ。

 直接対峙しているサイクロプスの装着者達は、もはやパニック寸前だろう。


 「彼女、身体能力もずば抜けてるけど……。理解力とか順応力とでも言えばいいのか、『新しいモノ、未知のモノを素直に理解して、自分のモノにするセンス』が頭抜(ずぬ)けてるわ。テストパイロット向きね、こんな状況じゃなかったらウチに欲しい人材なんだけどね~」


 そう言いながら、京子は唇の端を吊り上げて笑う。

 彼女は既に、勝利を確信していた。



■研究棟1階


 「次は貴様だッ!!」


 リューカはランチャー持ちサイクロプスの頭上から、やはりHMDに表示された制御ユニットの位置めがけ剣を突き立てる。

 頭部を貫かれたサイクロプスは機能を停止し、その場に擱座(かくざ)する。

 それと同時にEOSの無線から京子の声が響いた。


 『その調子よ! ランチャー持ちを先に無力化すれば、脅威度は相当に下がるわ!!』


 残るサイクロプスは4体。

 HMDに、最後のランチャー持ちのサイクロプスが最優先撃破目標としてターゲッティングされる。


 剣を引き抜き、機能停止したサイクロプスの頭から飛び降りたリューカは、残るサイクロプスと対峙する。

 すると、未だ冷静さが残っていたのかサイクロプスは2機づつに分かれ、重機関銃を持つ2機がリューカの前に立ちはだかり、残りの2機……重機関銃を持つ機体は階段を使い上階へ、最後のランチャー持ちの機体は貨物用エレベーターを使い地下へ向かった。


 「おのれッ! 二手に分かれたか!」


 歯噛みするリューカ。

 上階……、この施設の5階には『現地司令室』と呼ばれる本陣があったはずだ。


 『落ち着いて。取り合えず上階に向かったヤツは放っておいていいわ! 貴方は目の前の2機を倒して、地下に向かったサイクロプスを追って!』


 「しかし、本陣を落とされてはッ!?」


 京子の指示に反駁(はんばく)するリューカ。

 異世界の戦闘のセオリーなど知らない彼女ではあるが、例え世界を(たが)えても、『本陣が落とされる事、イコール敗北である』という事は変わらないはずだと、当たり前のように認識していた。

 どんな精兵であっても、指揮系統が機能しなくなれば後は蹂躙(じゅうりん)されるだけなのだから。


 そんなリューカに対し、京子はあくまで気負わずに軽い調子で応える。


 『助っ人は貴女だけじゃないって事。司令室に来るっていうなら望むところよ! 盛大に歓迎してやるわ!!』


 「む? よく分かりませんが、何か手があるのですね? では――――」


 白いEOSは、眼前に立ち塞がる2体の単眼巨人に剣の切っ先を突き付ける。

 それに応える様に、サイクロプスは手にした重機関銃の引き金を引いた。


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