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ホライゾンゲート  作者: 大野 タカシ
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第39話 三界のワールド・トラフィックス

 「これから二枚の画像を見てもらうわ。これらはこの施設の地下にある『ホライゾンゲート』に投入した探査ロボット……。えーっと、さっき話した『カメラ』を搭載した機材を使って撮影したものよ。まず一枚目」


 パソコンを操作し、京子がその画面に呼び出したのは、地面すれすれから撮影したと思われる風景写真。

 画像の下半分は剥き出しの土に無数の石ころ、上半分は青空が写っている。

 構図が変わっている以外は何の変哲も無いように見える画像だったが、それを見たリューカが反応した。


 「これは……。ヘレネア山?」


 「リューカちゃん、心当たりがある?」


 「ええ。この土の色と白っぽい石は、私の世界……、トーラス王国のヘレネア山だと思うのですが……」


 リューカの答えにアズーが追従した。


 「私も同意見ダ」


 「……成程。この画像だけで判断するのは難しいと思ったけど、二人が言うなら間違いなさそうね。それじゃ、二枚目の画像」


 京子はそう言いながら、再度パソコンを操作する。

 新たに表示された画像は、2機目の探査ロボットが捉えた幾何学模様が走るドーム状の空間……。

 これにはアズーが答えた。


 「これハ『遺跡』だナ」


 「『遺跡』?」


 オウム返しに聞き返す京子に、アズーは詳しく説明する。


 「私ノ世界にアる地下構造物。我々ガ作った物デはなク、古来よリ存在すル。だかラ『遺跡』と呼んでいル。こレは今だ機能シていテ、およそ50年周期デ『ホライゾンゲート』ヲ開くのダ」


 アズーの言葉に、今度はリューカが反応した。


 「ちょっと待て! 50年周期と言ったか? それに『我々が作った物ではない』? つまり、お前達が50年ごとに我が国に攻めて来ていたのは……」


 「単純デ明快な理由ダ。我々にハ制御でキないゲートが、50年ごとに開クからダ」


 「そういう事だったのか……」


 タネを明かしてしまえば『そんなことか』と言ってしまえるような内容に、リューカは複雑な表情を浮かべた。


 「……とにかく、これはアズー君の世界で間違いないのね?」


 「断言できル。他ノ世界に同ジ物が無けれバ……、だガ」


 京子の確認にそう答えたアズー、そんな彼にリューカがさらに問いかけた。


 「なあアズーよ。この画像に写っている人骨は……?」


 「昔、君達ノ仲間がゲートを通っテ私の世界にやって来タ……、と伝え聞イていル。恐らク、世界の狭間ノ環境に耐えらレなかったのだろウ」


 「……そうか。一つ、魔界に行く理由が増えたな。せめて略式でも、彼等を(とむら)ってやらねば」


 リューカが魔界行きの決意を新たにしていると、京子が口を開いた。


 「次に、出来事の時系列を整理したいの。出来れば甲太郎を中心にした視点で纏めたいんだけど……。リューカちゃん、甲太郎が貴女の世界でどんな行動を取っていたか、分かる範囲でいいから教えてくれるかしら?」


 「わかりました」


 リューカは、甲太郎に関する記憶を頭の中で整理しながら説明する。

 彼が今から一か月半ほど前に、コルドールと言う村に現れた事。

 その村でバルド・ベッカーと言う人物に師事し、大陸共通語等を学んでいた事。

 半月ほど前、ヘレネア山に魔界の門が開き、魔族が襲来したという知らせに触れ、日本への帰還の手掛かりを探しに村を()った事。

 ヘレネア山への道中で、リューカ達と甲太郎が合流したことなど……。


 彼女の説明を聞き終えた京子は、腕組みしながらしきりに頷く。


 「甲太郎がトーラス王国に漂着した時期……。魔界の門が開いたタイミングと、ここのゲートジェネレイターを再起動したタイミング……。成程ね」


 「何カわかったダろうカ?」


 「ええ。まだ仮説ですらない、推測の域だけどね。順を追って説明するわ」


 そう言いながら、京子はデスク上の物を『ドサドサ、ガッシャン!』と乱暴に除けてスペースを空けると、そこにコーヒーカップ、卓上時計、ペン立てを用意した。


 「このコーヒー……、って分かんないか。とにかく、このカップがリューカちゃんの世界、この針が回ってるのがアズー君の世界、そしてこのペン立てが今私達が居る世界だとするわね」


 リューカは無言で頷き、アズーは『分かっタ』と一言だけ答えた。


 「まず、一か月半前にこの世界とリューカちゃんの世界に『ホライゾンゲート』が開き、世界間(ワールド・)通路(トラフィックス)が開通する……。世界間通路って言うのは、アズー君の言う『世界の狭間』の事ね。私達がそう呼んでるだけだから、あんまり気にしないで」


 京子は説明しながら、ペン立てからボールペンを一本取り出すと、そのペンをカップとペン立てを結ぶように置く。


 「しかしこの世界間通路は甲太郎と……、芹沢栄治を飲み込んだ後、ゲートを開いていた装置の故障で消失してしまう。その後、今度はアズー君の世界とリューカちゃんの世界の間にゲートが開き、世界間通路が形成される」


 京子はカップとペン立ての間に置いたボールペンを、卓上時計とカップの間に移動する。


 「この時、アズー君達『魔族』がリューカちゃんの世界に攻め入る。そして一週間前……、正確には9日前だけど、この施設の地下にあるゲートジェネレイターが再起動、再度この世界とリューカちゃんの世界が繋がる」


 説明を続けながら、京子はペン立てからさらにもう一本ボールペンを抜き取り、再度カップとペン立ての間にそれを置いた。

 右から卓上時計とカップ、そしてペン立てが横一列に並び、それぞれの間をボールペンが結んでいる構図が完成する。


 「けどこの状態じゃ、探査ロボットがリューカちゃんの世界とアズー君の世界両方の画像を送って来たことも、『魔界の門』に飛び込んだ貴方達がこの世界に来たことも説明がつかない」


 そう言うと、京子は卓上時計、カップ、ペン立てをそれぞれ三角形の頂点に位置するように並べ替える。


 「ここからが推測なんだけど……。近くにある世界間通路同士は、引き付け合って一本にまとまる特性があるんじゃないかしら?」


 京子はカップと卓上時計の間に1本目のペンを置き、2本目のペンをペン立てと1本目のペンの間に……、つまり2本のペンが『T』の字になるように置いた。

 すると、3つの世界を結ぶ三叉路が完成する。


 「確かに……、これなら辻褄(つじつま)が合う」


 「同意すル」


 リューカとアズーは京子の推測に賛同した。

 そしてリューカは、2本のペンが繋がる部分を指さして京子に尋ねる。


 「つまり、この分岐で正しい方向に進めれば、コータローが居る世界……、魔界に辿り着けるのですね?」


 「そういう事になるわね。まあ、世界間通路の中は一種の無重力空間みたいだから、宇宙飛行士の船外活動(EVA)用装備とかが必要になるでしょうけど……」


 『やることがてんこ盛りだわ』と京子が呟いた時、(にわ)かに廊下が騒がしくなる。

 そして――――――。


 「芹沢君ッ!! 『銀髪の君』が目覚めたというのは本当かねッ!?」


 『ドバンッ!』と、扉を蹴破る勢いで多目的ルームに転がり込んできたのは、京子と同じく白衣を着た初老の研究者……、長道博士であった。

 彼は京子の対面に座るリューカを見つけると、現役スプリンターばりの素早さで彼女の目の前に移動する。


 「あ、あの、長道博士?」


 京子の声を無視し、長道博士は早口で(まく)し立てた。


 「意識はハッキリしているかね? 何か体に異常は? いやなに、君の血液サンプルを調べていたのだがね、妙なウィルスなどは見当たらなかったよ、そこは安心してくれたまえ。しかし、こちらの世界の疾病(しっぺい)……、特にウィルス性のモノに対する免疫機能は未だ確認中でね、極端な話、風邪一つでも大事になりかねない。この施設内は減菌処理されているから大丈夫だろうが、気をつけるに越したことはないぞ! 具体的には『うがい、手洗いをこまめにしましょう』だッ!!」


 「はぁ、あの……、血液さんぷる?」


 リューカが目を白黒させながら、取りあえず気になった単語をオウム返しに聞き返すと、長道博士はさらにヒートアップした。


 「うむ! そうッ! 血液サンプルだ!! そうそう、採血は無痛注射針(マイクロニードル)で行ったから痕は一切残らんよ、安心してくれて良い。それにしても、あのサンプルは非常に興味深い! あれを研究できたこの瞬間は、間違いなく生命工学史のマイルストーンとなるだろう! 医療分野においても新しい可能性が開かれるはずだッ!! そこで物は相談なのだがね、血液以外のサンプルも提供して頂けないだろうか!? 髪の毛一本でも、なんなら唾液でも構わんぞッ!!」


 「ぴゃあッ!?」


 リューカの全身が粟立つ、ついでに変な悲鳴も出た。

 なまじ言葉が理解できるだけに、博士の長広舌(ちょうこうぜつ)のおぞましさが半端ではなかった……、特に最後の部分が。

 彼女は椅子を蹴って立ち上がり、長道博士から距離を取った。


 「な、な、な……、何を言うかこの()れ者めッ!! ち、近寄るなッ! 斬り捨てるぞッ!!」


 そう言ってリューカは腰の剣に手を伸ばす。

 しかし、勿論今の彼女が帯剣などしているはずもなく、伸ばした手は空を切った。


 「~~~~~~ッ!!?」


 みるみる顔を青ざめさせるリューカ。

 そんな彼女に、長道博士はにじり寄る。


 「ちょ、ちょっと! 長道博士ッ!? 誰か、誰か――――ッ!!」


 京子が叫ぶ。

 直後に、騒ぎを聞いて駆け付けた警備班の隊員は……。


 暴れる長道博士と、それを必死に羽交い絞めにする京子。

 そして、机の影からその様子を窺う、青い顔をした銀髪の少女の姿を見て、『一体何事か?』と、しきりに首を傾げたのだった。


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