第31話 キル・オア・ビー・キルド
落雷と錯覚するような轟音、そして巨大なマズルフラッシュと共に、アンチマテリアルピストルの銃口から12.7ミリ弾が叩き出される。
通常の運用時ですらコンクリート壁を貫通する弾丸は、さらに電磁加速の運動エネルギーを得て、絶大な破壊力を伴い巨大ラプテイルの頭部に着弾する――――だが。
「何ッ!?」
ラプテイルの骨格は相当な強度があるのか、弾丸は頭骨に弾かれ、表皮を削り飛ばしただけに終わる。
その傷も、クリーチャー化したラプテイルは瞬く間に再生してしまった。
(あの巨体を支える骨格、頑強なのは道理か)
甲太郎はラプテイルの攻撃を躱しつつ、赤外線ビジョンで捉えた胸部の最も熱量が高い場所……、心臓があると思われる部位に狙いを定め、再びトリガーを引く。
これも狙い通りに命中するが、すぐさま銃創から弾丸が吐き出され、何事もなかったように再生してしまう。
「チッ! まさかこいつでも火力不足だなんてッ!!」
こうなったら、打てる手を全て試すしかない。
甲太郎はラプテイルの顔めがけて牽制射撃を行う、そして、ラプテイルが怒りに任せて咆哮した瞬間、後ろ腰のバックコンテナからフラググレネードを取り出し、その巨大な口に放り込む。
直後、口の中から『ボンッ』というくぐもった爆発音が響き、ラプテイルは血を吐き出しながら悶え、暴れだす。
その隙をついて、甲太郎は左手でヒートマチェットを抜刀、一息で接敵するとラプテイルの足を斬り付けた。
しかし、その攻撃も効果は薄い。
ラプテイルの野太い足に対して、ヒートマチェットの刃渡りが足りていない。
赤熱化した刀身によってその切り口は炭化し、再生を阻害してはいるものの、動きを封じるまでには至っていなかった。
(図体がデカ過ぎるッ! あとは、プラズマ・ディスインテグレイターを急所に叩き込むくらいしか――――ッ!!?)
次に打つ手をどうするべきか思考する甲太郎、その一瞬の間隙を突き、ラプテイルがその長い尾を横薙ぎに振り抜いた。
「ガハッ!!」
尾はEOSの胸部装甲にクリーンヒットし、甲太郎は10メートル以上吹き飛ばされ、派手に地を転がった。
<胸部装甲損傷、レベル2の亀裂が発生。装着者負傷、左側第7・第8肋骨に亀裂。鎮痛剤投与開始>
戦闘サポートAIが甲太郎の負傷を検知し、即座に鎮痛剤を投与する。
とはいえ、完全に痛みが消えるわけではない。
「グッ! ウウッ。なんて……、パワーだよッ!」
甲太郎は痛みに耐えながら起き上がり、ラプテイルを視界に収める。
一矢報いたことで興奮したのか、天に向かって咆哮するラプテイル。
この眼前の化け物は質量差があり過ぎるため、手持ちの武装では有効打を与えることが出来ない。
そして、その質量差はそのまま互いの『パワーの差』でもある。
山のような巨体から繰り出された尾の一撃は、対戦車榴弾の攻撃にも耐えるEOSの装甲に亀裂を入れ、完全に鎧われているはずの甲太郎を負傷させたのだ。
さらに、脅威はそれだけにとどまらない。
尾に打ち据えられ、亀裂が入った胸部装甲に、奇妙な粘液が付着していた。
甲太郎はそれに気づき、ヒートマチェットを持ったまま、左手の人差し指で粘液を掬い上げた。
「これ、まさかッ!?」
<データベースに該当在り、絶縁性の特殊粘液と確認。目標の表皮から分泌されている模様>
戦闘サポートAIの音声に、甲太郎は驚き目を見開く。
過去、日本において戦ったクリーチャーには、様々なバリエーションが存在した。
攻撃手段として毒素や酸を持つモノ、防御手段として皮膚を硬化させたモノや、逆に衝撃を吸収するよう骨格まで軟化したモノ、そして……、難燃性・絶縁性の体液を分泌するモノ――――。
国防軍……CTRaSと芹沢博士との間で兵器開発のイタチごっこになっていた訳だが、それでも十分対処することはできていた。
地球……、そして日本には、このラプテイルのような馬鹿げた巨体を持つ陸生の生物は居なかったからだ。
そういった意味では、この敵は過去に例を見ない手合いであり、間違いなく最強最悪の相手だろう。
そのサイズと再生能力によってアンチマテリアルピストルとヒートマチェットの攻撃を無効化し、さらに表皮を覆う絶縁性粘液によって『切り札』であるプラズマ・ディスインテグレイターすら受け付けない。
――――愕然とする甲太郎に、巨大ラプテイルの顎が迫る。
■■■
「おおおおッ!!」
それぞれの武器を手に、魔王に突撃する王国軍兵士達。
その傍らを無数の火球が追い越し、魔王の体に着弾する。
前衛による突撃と、後衛の能力者による同時攻撃。
友軍誤射になりかねない非常に危険な手ではあるが、王国軍最精鋭である彼らは、その行為を目くばせ一つでやってのける。
魔王に命中した火球が爆ぜる、しかし、これはあくまで牽制だ。
本命は前衛による攻撃、狙うは魔王の首、ただ一点。
兵士達が魔王に肉薄し、その刃を突き立てようとしたその時、『パンッ!』という間の抜けた音と共に、魔王に殺到していた兵士達の上半身が『吹き飛んだ』。
「なッ!!?」
リューカは驚きの声を上げる。
彼女は見ていた、魔王がまるで虫でも払うように、無造作に右手を薙ぎ払った瞬間を。
その一撃で、四名の兵士が即死した。
尋常ならざる相手、だが、臆しては居られない。
魔王の足元に、運よく先の攻撃を逃れた兵士が尻餅をつき、へたり込んでいる。
魔王の拳の風圧だけで体勢を崩したのだ。
足元の兵士に視線を向け拳を振り上げる魔王、だが、その拳が振り下ろされる直前、アーベルが動いた。
「フッ――――――!!」
身体能力強化を全開にし、一瞬で魔王の懐に入り込むと、その手の剣を魔王の喉元に深く突き立てる。
――――だが。
魔王は突き立てられた剣をものともせず、標的をアーベルに切り替え拳を振るう。
アーベルは剣を引き抜き、飛び退ろうとして――――。
「ッ!? 剣がッ!!」
魔王の首に刺さったまま、ピクリとも動かない己の剣に驚愕する。
「アーベルッ! 剣を捨てろッ!!」
リューカの声に、アーベルは咄嗟に剣から手を放し、代わりにへたり込んでいた兵士の襟首を乱暴に掴むと、大きく飛び退いた。
そんな二人を追撃すべく魔王が動く。
その巨体に似合わぬスピードで距離を詰めると、再度拳を振るう。
しかし、その拳は『ガンッ!』という硬質な何かにぶち当たったような音と共に、何もない中空で止まる。
「姫様ッ!!」
「総員下がれ! アーベル、お前もだ! 迂闊に近寄るなよッ!!」
アーベル達と魔王の間に割って入り結界を展開するリューカは、魔王を睨みながら指示を出す。
そんな彼女を見て、魔王が口の端を吊り上げ『ニヤリ』と笑う。
突き立てられた剣はそのままだ。
「この有様を見テ、尚も向かって来るカ……。大したものダ」
眼前の魔王とは別の方向から聞こえてくる機械音声、その違和感を無理矢理振り払い、リューカは吠える。
「クッ、貴様ッ! ……貴様達は何者だッ!? 何故この地を狙うッ!?」
「可笑しなことを聞くものダ。先刻我らヲ魔族ト呼んでいたではないカ」
魔王の喉元には、アーベルの剣が突き立てられたまま……。
しかし、脳波により意思疎通を行う魔族にとって、それは問題にはならない。
「それは我々が勝手にそう呼んでいるだけだッ! 貴様等は何だッ!? あの『門』の向こう側はどうなっているッ!!?」
リューカは魔王の背後、そして甲太郎と巨大ラプテイルが戦っているさらに向こう側に視線を走らせる。
そこにあるのは、ぽつりと空中に浮かぶ、光の輪に縁取られた『鏡』。
この戦いの最終目標、魔界の門――――――。
魔王はリューカの剣幕を意に介さず、淡々と答える。
「何者でもなイ」
「何だと?」
「世界を渡るときニ、我らハ命を捨てタ。あの男ト手を組んだ時ニ、戦士としてノ魂も捨て去ッタ」
魔王は口を開き、ずらりと生え揃った牙を剝き出しにする。
「そうダ! 魔族といウ呼び名こソ、今の我らニ相応しイッ!! お前達ノ屍を踏ミにじリ、我らハ我らノ望む『未来』ヲ手に入れルッ!!」
その言葉からは、断固たる意志が感じられた。
しかし、リューカも引く訳にはいかない。
「フン! 『命は捨てた』と言いながら、『未来』などと語って見せるか。どうやら相当な事情があるようだが……、だからと言って『はいどうぞ』と殺されてやるほど、我々はお人好しではないぞッ!!」
魔王はその返答とばかりに、結界に阻まれた拳にさらに力を込める。
「ぐぅッ!?」
結界にかかる負荷が増大し、リューカは己の体力がごっそりと削られるのを感じる。
「つくづク大したものダ。我らの事ヲ探りながラ、時間を稼グ腹積もリなのだろウ? あノ『黒い戦士』ガ合流するまでノ時間ヲ」
魔王の言葉に、リューカの表情が歪む。
図星だった。
「付き合ってやろウ……。知っているゾ、お前たちガ使うその力……、体力ヲ消耗するのだろウ?」
リューカの結界に、更に負荷がかかる。
魔王が声無く嗤った。




