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ホライゾンゲート  作者: 大野 タカシ
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第3話 孤立無援

 甲太郎(こうたろう)が意識を取り戻すと、目に飛び込んできたのは周り一面の木々。

 どうやら森の中に倒れていたらしい、EOS(エーオース)は装着したままだ。


 「森?」


 意識にかかる(もや)を払うように頭を振りながら立ち上がる、軋む様な身体の痛みに顔をしかめながら改めて周囲を確認し、首を傾げる。


 「どこだ此処(ここ)……。EOS、俺が意識を失ってから経過した時間は?」


 戦闘サポートAIが合成音声で答える。


 <297分>

 「5時間!?」


 作戦はどうなったのか、自分が今どのような状況に置かれているのか……、とにかく、HQ(ヘッドクォーター)と連絡を取らなければならない。


 「EOS、HQと通信を」

 <HQとの通信途絶>

 「は? ……じゃあ他の部隊は?」


 戦闘サポートAIの回答は、甲太郎をさらに混乱させるものだった。


 <戦術データリンク、スーパーバード衛星通信システム、敵味方識別(IFF)システム、軍及び民間無線、全てのチャンネルで応答なし>

 「全部!? 故障か、それともジャミングか?」

 <全システム正常、通信妨害も検知されていません>

 

 さらにAIが続ける。


 <戦術データリンク及び、スーパーバード衛星通信システムの切断により、HQメインフレームサーバーからの統合情報支援を受けられません>


 EOSは外部システムのバックアップを受けて、その性能を十全に発揮する。

 そのバックアップを失ったということは……。


 <これに伴い、当機は現在スタンドアロン(孤立無援)モードで起動中、パフォーマンスの低下が発生しています、各種プログラムプリセットの確認を推奨>

 「……後で確認しておく。それより現在の状況を把握したい、目標と接触したところから今までの映像を再生」


 フルフェイスヘルメット内部のディスプレイに映像が表示される。

 犬型のクリーチャーを倒し、目標……芹沢博士が振り返り、EOSが異常を検知、芹沢博士が背にする機械の発する光が輪になって、自身の背後から破裂音が聞こえて……。


 「一時停止。EOS、この爆発の原因は?」


 あの時、周囲に爆発物らしき反応は無かった。


 <直前の発砲音、及び爆発の規模から84ミリ無反動砲(カールグスタフM3)、対戦車榴弾(りゅうだん)による攻撃と推定>


 84ミリ無反動砲は、多様な砲弾を使用可能な個人携行兵器だ。

 近年ではその殆どがパンツァーファウスト3に更新されたが、まだ少数が国防軍でも現役で運用されている。


 「……この時、発射予測地点にあった反応は?」

 <友軍、103SQ(分隊)の反応を記録しています>


 つまり。


 「誤射……、じゃあ無いだろうなぁ、狙いは正確だったし」


 味方に撃たれたのだ。



■位置不明(GPS測位不能)、森の中

 

 その後、記録映像を最後まで確認したが、さらに困惑の度合いが増しただけに終わった。

 爆風で吹き飛ばされ、鏡のような物に叩きつけられたと思った直後、映像が乱れ始めた。

 辛うじて判別できたのは……、信じ難いことではあるが、暗闇の中で無数の光が(またた)く、宇宙空間のような場所を(しばら)く漂っていたらしいということ。

 そして、漂う光の一つにぶつかった次の瞬間、この森の中に放り出されていた。


 さらに、作戦目標……、芹沢栄治(せりざわえいじ)博士の生死を確認できなかった。

 常識的に考えれば甲太郎諸共(もろとも)、対戦車榴弾の爆発に巻き込まれたのだから生きているとは考え難い。

 だが、きちんと死亡を確認するまでは安易に断定できない。

 

 現在、甲太郎はEOSのステータスチェックを終了し、周囲に敵性反応が無いことを確認した上で『変身』を解除、目を覚ましたポイントを中心に、徐々に範囲を広げつつ周囲の探索を行っていた。


 芹沢博士の死体、あるいは痕跡の探索と同時に、自身が置かれている状況の把握を企図(きと)しての行動だが、今のところ何も見つかっていない。

 もしかしたらHQが芹沢博士の生死を確認しているかもしれない、とも考える。

 さらには、自分を撃った犯人が先走っただけの単独犯であるのか、あるいは複数人が共謀した組織的な犯行だったのかも確認したかった。

 隊内の一部に『甲太郎は芹沢栄治博士の血縁であり、信用できない』という意見が(くすぶ)っていたことは把握していた。


 父が道を踏み外してから、親類も友人も皆、離れて行った。

 中にはあからさまに悪意をぶつけてくる人々もいた。

 残されたのは甲太郎と、姉である京子の二人だけ。

 

 信用を取り戻したかったのだ。

 だからEOSに身を包み、己の父を討つ道を選んだ。

 

 だが結局は、肝心な所で、致命的な所で、信用されていなかったという事なのだろう。


 「……ちっくしょう、うじうじ考えてる場合じゃない!」

 

 思わず泣きそうになるが、無理やりに自身を鼓舞(こぶ)する。


 「とにかく! 何をするにしてもまずは帰還しないと、少なくともHQと連絡がとれないとどうしようもない……、と思うんだけど、なぁ……」


 鼓舞したものの、言葉が尻すぼみになっていく。

 探索を進める中、気づいたことがあった。

 周囲を囲む草木、一見すると何の変哲も無い植物だが、よくよく確認すると見たことも無い品種なのだ。

 甲太郎が知っている植物が一つもない。


 (ホントになんなんだこの状況、全く訳がわからん)

 

 心中で毒づき、目覚めてから何度目かのため息を吐く、すると・・・。


 「――――――ッ!!」

 

 (人の……、叫び声!?)


 甲太郎は弾かれた様に走り出した。

 自分以外の人間がいるということ、その人物が事故か事件かは不明だが、危機的状況にあるだろうと推測する。

 そしてその人物を救助し、この場所の地理情報の取得、及び可能であれば何がしかの連絡手段を融通(当たり前のことだが、作戦行動中に私物のスマートフォンなどは携帯できない)してもらう。

 叫び声の主が直面している危機の度合いによっては、再度EOSを(まと)うことになるだろう。

 民間人の前で『変身』するのは避けるべきではあるが、自衛や人命に関わる事であればその限りではない。

 それだけの事を一瞬で脳裏に浮かべながら、叫び声が聞こえた方角へひた走る。


 そしてふいに森が途切れ、視界が開ける。

 目の前には草原、そして森を縁取るかのように一本の道が敷かれていた。

 道といってもアスファルトで舗装されたものではなく、むき出しの土が踏み固められた農道といった風情のものだ。


 「――――――ッ!!」


 再度叫び声が響く、声の方向に目を向けると、二人の男が争っていた。

 その様子を見て甲太郎の頭上に疑問符が浮かぶ。


 (外人さん? しかも何だあの格好……)


 片方の若い男は刃物を振りかざし、もう片方の悲鳴を上げている初老の男は非武装。

 刃物を持った男が強盗か何かで、非武装の男が被害者なのは明らかだ、それはいい。

 だが、どちらの男もやたら彫りの深いコーカソイド系の顔立ちで、どう見ても日本人には見えない。

 着ている物も古めかしい衣装で、被害者の男は白いシャツにサスペンダー付のズボン、全体的によれよれで中央アジアやヨーロッパの農村にでも居そうな雰囲気だ。

 加害者の男は……、もう訳がわからない。

 なにしろ革製と(おぼ)しき鎧を身に付け、振り回す刃物もナイフや包丁といった物ではなく、完全に『剣』なのだ。

 

 一瞬、甲太郎は映画撮影かとも思ったが、周囲にスタッフらしき第三者は見当たらないし、何より被害者男性の悲鳴には演技とは思えない必死さがあった。


 (これで『演技でした』ってオチならオスカーもんだぞ)


 甲太郎はホルスターから9ミリ拳銃(EOS非着用時の護身用)を抜くと、剣を持った男に照準を合わせ、叫ぶ。


 「武装解除して降伏しろ! さもなくば発砲するッ!」


 その声で初めて甲太郎に気づいたのだろう、争っていた二人は揃って甲太郎に目を向ける。


 「Whether surrender(降伏しろ)!」


 念のため、英語で再度叫ぶ。

 しかし、剣を持った男は興奮状態なのか、意味不明な奇声をあげて襲いかかって来た。


 「○△□×%#&ッ!!」

 「おいッ!? 銃持った相手に突っ込んでくるのかよッ!!」


 甲太郎は9ミリ拳銃……、P226にマウントしているフラッシュライトを点灯する。

 500ルーメンの光を顔面に浴びた男は足をもつれさせて転倒。

 甲太郎はすかさず駆け寄り、男の手から剣を蹴り飛ばすと、そのまま組み伏せて絞め落とす。


 剣を持っていた男が意識を失ったことを確認すると、甲太郎は立ち上がり被害者である初老の男に声をかける。


 「えーっと、怪我はありませんか? 日本語わかります?」


 初老の男は興奮したような様子で口を開き……、


 「@%&$#、¥*◎▽◇!」


 やはり、意味不明な言語で甲太郎に語りかけた。


 「…………うそぉ」


 初老の男の言葉は未知の言語だった。

 甲太郎は民間人協力者……、軍属として国防陸軍の訓練に参加し、座学によって一般的な学校教育のレベルにプラスアルファした程度の語学力は持ちあわせてはいるが、語学堪能(たんのう)というわけではない。

 しかし話せない言語であっても、相手の言葉の中に知っている単語があったり、言葉の調子でそれがどの言語なのか、ある程度推測するくらいはできる。


 だが、皆目見当もつかない言語なのだ。

 

 甲太郎はどうしたものかと困り果て、頭をかきながら何となく……、本当に何となく空を見上げて……、硬直した。


 「な……!」


 雲ひとつ無い快晴。

 どこまでも続く、青い青い空。


 「な……ッ!」


 その青い空から、燦々(さんさん)と光を降り注ぐ――――――二つの太陽。


 「なんじゃこりゃ――――――――――――ッ!!?」


 混乱の極みに達した甲太郎の叫びが、青空に吸い込まれていった。


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