第24話 予感
<上空に打ちあがる火球を確認。8時方向、距離1500>
戦闘サポートAIが警告を発する。
『Mission Target Update』の文字と共に、視界の隅に映る戦術マップに光点が表示された。
「チッ、またか!」
甲太郎は思わず舌を打つ、これでクリーチャー化した魔族は18体目だ。
上空に火球が打ち上がるたびに縦横無尽に戦場を駆け回り、クリーチャーをヒートマチェットで斬り、アンチマテリアルピストルで撃ち抜いてきたが、10体目を倒したあたりから一つの疑念が胸中に湧き上がっていた。
(クリーチャーの数が多すぎる……、満足な設備もないこの異界で、こうもクリーチャーを量産出来るのか?)
現在、戦場に展開している魔族と思しき反応は、おおよそではあるが700前後。
書物の記述が正しく、今回も侵攻してきた魔族の総数が1000程度であるならば、魔族はその本陣に最低限の員数を残し、自由に動けるほぼ全ての戦力を投入してきたことになる。
その中の18体……、割合で見れば少数に思えるが、クリーチャーの『製造の手間とコスト』を考慮すれば、この数は多過ぎた。
(芹沢博士が俺と同時にこの世界に渡って来たのなら、めぼしい荷物は持っていなかったはず……。いや、考えるのは後だ)
甲太郎は頭を振って疑念を振り払うと、火球が上がったポイントに向かって走り始める。
途上、すれ違った魔族を撃破しつつ、EOSのフルパワーで飛ぶように駆け続けると、程なく目標地点に到着した。
そこで目にしたのは、年若い王国軍の兵士が剣を持ったクリーチャーに、今まさに倒されんとする光景。
「ッ!!」
甲太郎は渾身の力で最後の一歩を踏み込み、若い兵士とクリーチャーの間に割り込んだ。
「なんだぁ……!?」
近くに倒れている別の兵士が声を上げた、彼の左腕は折れているのか、あらぬ方向にねじ曲がっている。
そういった様子を横目で流し見ながら、甲太郎は虚を突かれ隙を見せているクリーチャーに、アンチマテリアルピストルの銃口を向ける。
<警告、射線上に友軍の反応あり>
クリーチャーの背後、数十メートル先に松明の灯りが揺れているのが見えた。
本来ならば、暗さと距離のため辛うじて明かりが見える程度だが、EOSの暗視機能は王国軍の兵士が魔族と戦っている様子を克明に映し出した。
アンチマテリアルピストルは非常に高い威力を誇るが、現状のような混戦模様の中では、その威力が枷になりやすい。
だが、EOSの性能をもってすれば、いくらでもやりようはある。
甲太郎は一旦銃口を下げ、もう一歩踏み込んでクリーチャーの懐に入る、そして下ろしたアンチマテリアルピストルを、そのまますくい上げる様に振り上げた。
『ゴシャッ』という何かが砕けるような、潰れるような音が響き、銃身で顎を打ちすえられたクリーチャーが、数メートル上空に打ち上げられる。
顎を砕かれ、首の骨もへし折られ、通常の生物であれば即死するような状態だが、打ち上げられたクリーチャーは放物線を描き落下しながらも、その傷を再生し始める。
甲太郎は即座に、落下中のクリーチャーに照準、発砲。
頭を撃ち抜かれたクリーチャーの体が『ドサリ』と地に打ち付けられ、数瞬の後、『頭だったモノ』が雨のように辺りに降り注いだ。
「あ……、あぁ……!?」
クリーチャーに殺されかけていた若い兵士が、甲太郎に掌を向ける。
何らかの能力を使うつもりだろうか?
兵士の表情は、クリーチャーに殺されかけたからなのか、或いはそのクリーチャーを瞬時に屠った異形の戦士……、甲太郎への畏怖故か、恐怖に歪んでいた。
明らかに恐慌状態に陥っている。
思わず身構える甲太郎、しかし……。
(パニック状態とはいえ、王国軍の兵士相手にどうするってんだよ!? 反撃なんて出来ないぞ!)
協力関係にある王国軍兵士を加害する訳にもいかず、次の行動をどうすべきか逡巡する甲太郎。
彼の頬を冷汗が伝った時、緊張状態を吹き飛ばすような怒声が響いた。
「何やってやがるッ! 手ぇ下ろせ馬鹿野郎ッ!!」
見れば、壮年の兵士が折れた腕を庇いながら立ち上がり、こちらに近付いてくる。
「あ……、た、隊長?」
若い兵士が掌を下ろす、未だ少しばかり呆けてはいるようだが、今の一喝で正気を取り戻したようだ。
隊長と呼ばれた壮年の兵士は、若い兵士の前に立つと、いきなりその頭に右の拳を落とした。
所謂『ゲンコツ』だ。
「こンの馬鹿が! あの程度で自分を見失いやがって、諸々終わったら一から鍛え直しだッ!!」
余程痛かったのか、若い兵士は頭を押さえて涙目になっている。
『隊長』は次に甲太郎に向き直り口を開いた。
「部下がすまねぇ事をした。俺は要塞守備隊30番隊隊長のガストーってんだ。アンタがクリーチャーとやらを狩って回るっていう『増援』だな?」
「え、ええ、そうですが……。あの……、腕大丈夫ですか?」
「うん? こんなモン、飯食って寝りゃ治る」
「治りませんよ!? 要塞練兵場の本陣に救護所が併設されてますから、すぐに行って手当てを受けてください!」
思わずツッこむ甲太郎、ガストーと名乗った兵士は愉快そうに笑った。
「あっはっは、痛ぇ! 流石に冗談だよ。とにかく、救援感謝するぜ。それにしても……」
ガストーは笑ったせいで傷に響いたのか、一瞬顔を顰めたがすぐにそれも収まり、今度は甲太郎の格好を観察するように、興味深げな視線を向ける。
「アンタがあれか。討伐軍に参加早々、喧嘩騒ぎ起こして懲罰房にブチ込まれたってのは」
「へ……? あ、はい」
思わずといった感じで返事をしながら、随分と端折った情報だなと思う甲太郎。
「何ですかそれ? 初耳ですけど」
ゲンコツを食らい、完全に正気を取り戻した若い兵士が尋ねる。
「偵察の報告に行った時にお偉いさんから聞かされたのさ、『奇妙な格好で、奇妙な戦い方をする新入り。扱い難いだろうが、腕は立つからよろしく頼む』ってな。部隊長連中の間じゃもうだいたい話は回ってるはずだ」
それを聞いて、甲太郎はルーカス将軍が手を回してくれたのだろうと推測する。
現場の兵士たちと、少しでも円滑に共闘できるようにと配慮してくれたのだろう。
「その奇妙な格好だの、さっきの戦い方だの、色々と聞きたいことはあるんだが、今はそんな場合じゃねぇか」
ガストーは、EOSを纏う甲太郎をまじまじと見て唸り、次に周囲を見回して『やれやれ』といった風にため息をつく。
「なあアンタ。色々全部終わったら、要塞兵舎に俺を訪ねて来てくれ、飯くらい奢るぜ。おい、お前ら! 引き上げだ!!」
見れば、いつの間にかガストーの部下……、要塞守備隊30番隊の面々が戦闘を終わらせて周囲に集まってきていた。
彼らは、戦闘の最中であることを感じさせない気安さで、口々に軽口を叩きながら要塞に戻ってゆく。
その様子を見送った甲太郎に、戦闘サポートAIが更なるクリーチャーの出現を告げる。
<上空に打ちあがる火球を確認。4時方向、距離1800>
甲太郎は再度、戦術マップの光点に向かい走り始める。
19体目のクリーチャー、胸中に言い様のない不安が募る。
どのようにして、これほどの数のクリーチャーを作り出しているのか?
ヘレネア山で何が行われているのか?
『嫌な予感』というものは、往々にして当たるものだ。




