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ホライゾンゲート  作者: 大野 タカシ
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第23話 誰が為の戦場か

 魔族とは恐るべき種族である。

 痩せさらばえた外見とは裏腹に、その体躯(たいく)は頑健であり、常人を上回る膂力(りょりょく)を誇る。

 冶金(やきん)の技術を持たぬのか、あり合わせの『武器防具』と呼ぶのも(はばか)れる道具しか持たないものの、それを振るう力は脅威であった。


 そして何より、言葉に()らない意思疎通は秘匿性(ひとくせい)に優れ、思いもよらぬ連携を可能とする。


 これだけの要素が揃えば苦戦は必至(ひっし)と思われるが、魔族には一つ『付入る隙』があった。

 記録によれば過去6度の侵攻、そのいずれにおいても魔族の戦力は『小規模』であり、総数は1000程度であった。


 何故50年周期で、何故同等の兵力で侵攻を繰り返すのか、その理由は不明だ。


 だが、理由がわからずとも、起こってしまった事態には対処せねばならず、王国軍は対魔族戦の基本戦術を確立する。

 それは『多数を以て包囲殲滅(せんめつ)する』という、言ってしまえば用兵の基本であり、至極単純なものだ。


 『魔族は油断ならぬ相手であるが、多数を以て事にあたれば恐れる必要なし』というのが王国軍の見解だが、ここに来てその『数的優位』が脅かされる事態が発生する。


 クリーチャー化した魔族の出現。


 芹沢栄治(せりざわえいじ)博士が作り出すクリーチャーは、魔族の元々の身体能力も相まって、王国軍の数的優位を覆しかねないポテンシャルを誇る。

 元々『質』に優れる魔族を『数』によって退けてきた王国軍。

 

 だが、魔族の更なる『質』の向上により、遊戯板はひっくり返る。


 それを防ぐために、そして芹沢栄治博士を討つために、甲太郎(こうたろう)EOS(エーオース)を身に纏い、戦場を駆ける。


 この世界、そして魔界にとっても異分子に過ぎない2人の日本人。

 王国軍と魔族の戦いは彼等の介入により、その意味を、その様相を、大きく変じていた。



■■■


 「おらぁッ! かかって来いクソッタレども!!」


 アードラ要塞北門とヘレネア山の山道の間にある草原では、かなりの広範囲にわたって戦闘が行われていた。

 その中に、魔族相手に大立回りを演じる男たちがいた。

 魔族の奇襲の直前に要塞に帰還した哨戒(しょうかい)部隊の面々である。


 「ちょっと隊長! 突出しすぎですッ!!」


 若い兵士が魔族の群れの中で暴れ回る男に声をかける。

 隊長と呼ばれた男は、手にした剣で魔族を切り捨てながら、吐き捨てるように答えた。


 「俺ぁな、メシの邪魔をされるのが何より我慢ならねぇんだよ! 偵察から帰還して、報告も済ませて、お行儀よく席についてさぁ食うぞって時にこの騒ぎだ。一匹残らずぶちのめしてやらねぇと気が済まねぇんだ、チクショウめ!!」


 「またそんな……、隊長! 後ろッ!!」


 呆れながら言葉を交わしていた若い兵士が一転、鋭い声で注意を促す。

 隊長の背後に一体の魔族が接近していた。


 「へぇ……、魔族ってのはヒョロっちいのばっかかと思ったが、なかなか厳ついじゃねーの」


盛り上がった筋肉、異常に発達した牙と爪、明らかに他の魔族とは違う。


 「隊長! こいつ、上からの通達にあった『クリーチャー』とか言う奴ですよ!!」


 「あぁ? こいつがそうか。おい、手筈(てはず)通りやれ!!」


 命じられた若い兵士、火炎系統の能力(ミスティック)を持つ彼は、掌を天に向けると上空に火球を放つ。

 打ち上げられた火球は、花火のように弾けて夜空に消えた。


 「これで増援が来るはずです。『クリーチャー』との戦闘は極力避けろと言われてます、一旦引きましょう!」


 「馬鹿言え、周りを見ろ! 良い様に引っ掻き回されて混戦状態だ、部隊間の連携もなっちゃいねぇ! その『増援』とやらも来るのに時間がかかんだろ、こいつはここで抑えるぞ!」


 「りょ、了解!」


 復唱する若い兵士に、隊長が問う。


 「たしか『焼け』って話だったな……、出来るか?」


 「すみません、自分の能力(ミスティック)にはそこまでの火力はありません。牽制するのがせいぜいだと思います」


 「しゃーねぇな。おう、お前ら! 雑魚は任せた、俺はあの厳ついのをヤる!!」


 隊の仲間にそう命じると、彼はクリーチャー化した魔族の前に立ちはだかる。

 そして、何の前振りもなく踏み込み、その剣で斬り付けた。


 だが、魔族はその奇襲を悠々と(かわ)して見せる。


 「ちッ! 見た目通り、ただの魔族じゃねぇって訳か……。それならッ!!」


 言うが早いが、胸部を狙って突きを繰り出す。

 魔族が反射的に上体を逸らすのを見て、彼は即座に剣を引き戻し、足を狙って下段を薙ぎ払う。


 フェイントを織り交ぜた下段切り……、彼が最も得意とする技だ。

 目論見(もくろみ)通り、彼の剣は魔族の足を切り裂いた……、はずだった。


 「こいつッ! 筋肉で剣をッ!?」


 剣は魔族の右足の太ももの半ばまで食い込み、そこで止まっていた。

 食い込んだまま筋肉によって絡め捕られ、ビクリとも動かない。


 そして魔族は、斬られた足をものともせずに、そのハンマーのような拳を振るった。


 彼は咄嗟(とっさ)に左手の盾でガードする。

 しかし、魔族の拳はその防御を打ち破り、彼を易々と吹き飛ばした。


 『バキリ』という鈍い音と共に数メートルを吹き飛ばされた彼は、彼我(ひが)の力量差をハッキリと理解する。


 多数を以て魔族に対抗するという戦術ドクトリンに従い、周囲の兵士たちが二人一組(ツーマンセル)、或いは三人一組(スリーマンセル)で一体の魔族と戦っている中、先刻一対一で魔族を切り捨てた彼は、王国軍の中でも上位に位置する実力者だ。

 粗野な言動が目立つものの、腕が立ち、戦況を読むことができる彼が一部隊の隊長職を努めているのは伊達ではない。

 そんな彼を、眼前の『クリーチャー化した魔族』は圧倒したのだ。


 魔族は足に食い込んだままの剣を引き抜いた、するとその傷口は『シュウシュウ』と蒸気を吹き出しながら再生してゆく。

 翻って、彼の左腕は無残な有様だった。

 盾はひしゃげ、肘から先があらぬ方向にねじ曲がっている。

 先程の鈍い音は、盾がひしゃげた音、そして腕の骨が折れた音だ。


 (クッソ! 一発食らっただけでコレかよッ!!)


 奪った剣を構えにじり寄る魔族、その脇腹に火球が炸裂した。


 「隊長ッ! 後退してくださいッ!!」


 若い兵士が炎の能力(ミスティック)で魔族を牽制する。

 魔族は炎を警戒したのか、後退(あとずさ)って距離を取った。


 見れば、火球がヒットした脇腹の火傷には、再生の兆候は無い。

 確かに炎は有効なようだ……、しかし、その火傷は拳一つ分程度の小さなもの。

 倒すどころか動きを止めることも難しいだろう。


 「後退すんのはお前だ馬鹿野郎ッ! 初撃で仕留められなかったんだ、今度はお前が狙われるぞッ!!」


 炎が弱点であるのなら、火炎系の能力者を優先して狙うのは自明の理だ。

 彼の言葉通り、魔族は標的を変え、若い兵士に狙いを定めた。


 魔族が一気に踏み込み距離を詰める、その手の剣を振り上げる。

 あまりの速さに、若い兵士は身動(みじろ)ぎもできない。


 「クソがッ! テメーの相手は俺だろうがッ!!」


 彼があらん限りの力で叫んだその時、魔族の動きを上回るスピードで、一つの影が乱入した。

 黒地にグレーのラインが入った鎧に身を包む戦士。


 いや、あれは鎧なのだろうか?

 彼が知る『鎧』とは一線を画する外見は、周囲の松明の灯りに照らされて、不気味と言っても良い、異様な雰囲気を(かも)し出していた。


 「なんだぁ……!?」


 彼は思わず疑問を口に出す。

 他に人員を引き連れている様子は無い、単独で行動しているようだ。

 この戦士が『増援』なのだろうか?


 彼が(いぶか)し気な視線を向ける中、黒い戦士は右手に(たずさ)えた金属の塊をクリーチャーに向けた。


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