第22話 反転攻勢
「開門ッ!」
ルーカス将軍の号令を受け、アードラ要塞北門がまるで獣の唸り声のような音をたてながら開かれる。
待機していた王国軍の兵士たちが殺到するが、その中から凄まじい勢いでいち早く門外に出たのは甲太郎だった。
EOSのパワーアシストにより、文字通り疾風のような速さで戦闘領域に踏み入った甲太郎は、眼前にいた魔族2体を、『挨拶代わり』とばかりにヒートマチェットで切り捨てた。
「EOS、敵味方の識別は『目視』により行う! メインカメラの画像データから『ゴブリン』を判別、特徴パラメータの算出にリソースを割り当てろ!」
ここではIFFなど使えない。
通常、そのような状況であれば敵味方の判別に混乱をきたしそうなものだが、今回の相手である『魔族』は、人間とはかけ離れた外見をしていた。
戦術データリンクが絶たれ、メインフレームサーバーからの統合情報支援を受けられない現状であっても、EOS単機の情報処理能力で十分にカバー出来る。
甲太郎は過去の交戦データを元に、画像識別によって『ゴブリン』をターゲッティングするように戦闘サポートAIに指示を出す。
「クリーチャー化した『ゴブリン』が多数紛れている。これを発見したらHMD上に表示しろ! さらに、クリーチャーを発見した『友軍』が、炎を上空に打ち上げて知らせてくれる、それも直ぐに知らせてくれ!」
<了解。データベース、画像処理システム、夜間戦闘プリセットにシステムリソースを重点分配します>
「よし、行くぞッ!!」
甲太郎は、幾つもの松明の炎が揺らめくただ中へ吶喊する。
■■■
出撃する兵士たち、そして甲太郎の背を見送ったリューカは、自らも出陣すべく北門に向かおうとする。
そんな彼女にルーカス将軍が声をかけた。
「姫様はここでお待ちください」
『またか』と、リューカは思う。
真の勇者であれば、先陣を切って戦地に赴くことに何の異論もないだろう、むしろそれを求められるはずだ。
だが、自分にかけられるのは制止の言葉。
無論、ルーカス将軍に悪気はない、王族としての彼女の身を案じて出た言葉であり、ありがたく思いこそすれ、不快に思うのはお門違いだ。
だが、その制止の言葉が、彼女の身を案じる言葉が……、リューカが『お飾りの勇者』である何よりの証左に思えてしまうのだ。
己の父親を殺めるという過酷な役目であっても、それを使命と定め、その使命を果たすべく邁進する甲太郎の姿と覚悟を目の当たりにしてしまった今、尚更にそう思えてしまう。
リューカは思う。
お飾りとして祭り上げられた勇者の、なんと滑稽なことか……、と。
そして、こうも思う。
『使命を果たす』と語った甲太郎の背を追ってゆけば、己の成すべき所も見えてくるのではないか?
そして出来ることならば、ハッピーエンドとまではいかなくとも、親殺しなどという『禁忌』以外の結末を模索できないだろうかと。
リューカはハッキリと、力強く将軍に答えた。
「この状況で旗印たる勇者が引き籠っていては、兵達の士気に関わります。将軍、どうか出撃命令を!」
ルーカス将軍はリューカと、その後ろに控えるアーベル、フランを見る。
二人はため息を吐きながら肩を竦めた。
こうなったリューカが梃子でも動かないことを知っているのだ。
そしてそれは、将軍も同じだ。
ルーカス将軍は、リューカが王国軍への入隊志願に来た日の事を思い出す。
姫殿下が軍に入隊したいなどと、最初は何かの冗談かと思ったものだ。
武を尊ぶトーラス王国では、王侯貴族も軍役に就くことは珍しくない。
しかし、それはほぼ男に限った話であったし、さらに『王国軍』ではなく王都守備隊……、所謂『騎士団』に入隊するのが常であった。
危機的状況に際して投入される王国軍とは違い、騎士団は王都から出ることは稀である。
『箔はつけたいが跡継ぎは失いたくない』というニーズによって、そのような『住み分け』が出来上がったのだが、それはさておき……。
ルーカス将軍は当初、なんのかんのと理由をつけてリューカの入隊希望を蹴っていたのだが、彼女は何度も何度も諦めずに直談判に訪れた。
ある時などは、しれっと軍の訓練に紛れていたりもした。
(あの頃と全く変わっていらっしゃらない……。いや、良い表情をするようになられたな)
彼は一息つくと、リューカ達三人に命令を下す。
「今は議論している時間も惜しい。出陣を許可します。クルス十士長、ギャレット十士長、姫様のそばを離れるな!」
「はッ!」
「了解しました!」
アーベルとフランが答える。
さらに将軍の指示は続く。
「ダストン、本陣を頼む。私も出る」
その言葉に、リューカを始めとする周囲の人々から驚きの声が上がった。
「しょ、将軍も……ですか!?」
思わず問いかけるリューカ。
ルーカス将軍は『ニヤリ』と笑い、答えた。
「姫様を戦場に送り出しておいて、自分は後方でぬくぬくと籠っているわけにはいきますまい」
彼は掌を天に向ける、そこに紅い紅い火球が灯った。




