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2章。2


ドタンと、風呂場の扉の向こうより物音が聞こえた。


勢い良くガチャリと扉が開くと、彼女が現れボクに抱きついてきた。


「居なくなったのかと思った」


乱れた前髪の隙間からボクの顔を見上げ、苦しそうな声でそう呟く。


「ごめん。あまりに気持ちよさそうに寝ていたから、起こさないように気を遣って静かに出てきたんだよ」

と、彼女の頭をなにげなく、軽く撫でながらそう答えてしまった。


そのボクの反応に、安心したかのように彼女は体重をボクに預けるようもたれ掛かった状態で抱きつき直した。



ああ。やってしまった...。

これでは、まるで気のあるような。まるで、もう恋人同士になったようかのような返し方ではないか。

とりあえず、このままくっついていることはやめておこうと、歯を磨いていた手を止め、洗面台のガラスコップを使用し、口をゆすいだ。


よく見ると、コップには短い毛が付着していた。

ひどいもんだ。この宿には二度と来ないでおこう。



◇◇◇



昨晩、共に風呂に入ったのち彼女の顔をしっかりと見ていなかった為、初めて化粧を落とした後の顔を見た。

行為の最中には、部屋の明かりは落としていたので、顔を確認していなかった。

メイクの無い彼女の顔は、非常に幼い印象となり、正直なところバッチリとメイクを決めていた時よりも、好みであった。15ほど年が離れた女性相手に、そのような感想を抱くのもどうかとは思うが。



どうやらあまり素の顔を見られるのが好きでないらしく、うつむき加減で「ちょっと顔作ってくるね」と風呂場のほうへと、化粧道具の入っているらしいポーチを片手に小走りで行った。



「別にそのままでもいいのに」

なんて、ボクは口にしながら自分のスマートフォンに目をやる。

もう11時なのか。通りでお腹が減っているわけである。


何処か近くで朝食を取ったら、その足で大学へ行ってしまおうか。

まあ、今日は後期の授業を選択するためのガイダンスであるため、別に出席しなくとも問題は無い。今のところやる気は無くとも、単位は修得出来ているので、卒業にも差し支えは無い。


そういえば、彼女は今日はどうするつもりなのであろうか。

そもそも、彼女は働いているのか、何をしているのかすらよく知らない。

そう考えると、食事の席では一体、どんなことを話題に共に挙げていたのか。

本当に謎である。


「そのままでいいわけないでしょー。外歩けないよ!」

と、少し怒った風に言いながら、嬉しさを若干隠し切れない声が、風呂場から聞こえてきた。


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