宿。その後。
そして、彼女とボクは決まったシキタリ通りというか、世間の流れに沿って、一緒にお風呂に入ったり、テレビでいかがわしいビデオを観たり、ベッドで色々とあったりした。まあ、普通のことだ。このことについてボクは詳細に述べない。あまり覚えてないというか、あまり重要なことでなかった。そういう演技を続けている最中も心の中は遠くにつながっていた。何度も身体を重ねたのだが、何も感じなかった。何も感じないとはいっても、肉体的には終わりの合図を出したので、嘘にはなるが。
そうしてようやく、現在の場面に戻る。
今、隣では彼女がこちらを見つめながら横になっている。
ボクはこの表情を知っている。
以前にも見た気がする。
そうだ。以前にも似たようなことがあった。
その時、ボクは同じバイト先の年上の女性と親しくなり、食事に行った。
その後同じような展開となり、この場面を見たのだ。
その時、彼女が見せた顔とおなじなのだ。
何かを期待しているようで、何かを不安に思っているような、そんな顔。
ボクはこの顔が苦手だ。非常に不幸な気がしていやなのだ。
何かが起きれば、一瞬にして壊れそうでもあり、また、一瞬にして救われそうなこの表情。残念ながらボクはそれを救ってあげる気もないし、深く関わる気もない。
では、今日のことは何だったのであろうか。そう問われれば、何でもない。普通のことだったんだと伝えたい。ただ、そうなったに過ぎない。そういう結果になったに過ぎないと。
非常にずるいと思われるだろう。きっと、ろくでもない男に捕まってしまった。損をした。人生を一秒たりとも無駄にしたくなかったと思うだろう。
いや、仕方ないよねと諦めたり、悲しまれたりするのだろうか。
どちらにせよ、ボクは無関心を装うし、それ以上、何の感情もそこに持ち合わせないだろう。
ボクは、彼女の心を拒絶するように、反対方向に寝返りを打った。
裸になった背中で彼女の気配を感じながら。




