2章。4
それよりも先ほどの彼女の口調の方になんとなくボクは驚いた。
15ほど年上の女性からまさか「ウケる」なんて単語が聞けるなんて思っていなかった。
軽くカルチャー・ショックである。ジェネレーションギャップである。
いや、なんだかおかしいか。
普通は、年上の者が、年下に感じることであるはずだ。
昨晩はどこか遠慮しているというか、もっと大人しい印象があった。
というかもっと情緒不安定な依存症体質な気配を感じた。
だが、今ここにいる彼女は、非常に明るく、健康そのものである。
やはり人は陽の光を浴びている時のほうが、心が安定するのだろうか。
そういえばセトロニンという体内物質は、陽の光を浴びることにより、分泌量がますときいたとこがる。このセトロニンは人間の心のバランスを保つのに、大切なものらしい。うつ病予防にもなるとか。
まあ、この調子の彼女ならば、このまま付き合う意志を示さずに別れたとしても、そう落ち込まないのではないだろうか。
いや、もうすでにその付き合う付き合わないの話題は彼女の中で解決しているのかもしれない。
現にこうやって、彼女はボクの腕を抱き寄せたような状態で歩いている。
ただのバカップルだ。
今朝、宿を後にする際に、ボクが代金の支払いを全て行ったことで安心したらしい。その支払によって、自分との関係をボクが認めたと感じたみたいだ。
「もし、割り勘でもいいなんて言われたらどうしようかと思ったよ」
と、彼女は、宿を出た後口にした。
その時は、その言葉の意味するところがあまり分からず、
前日の食事代などは全て彼女が持ったにも関わらず、宿代の支払いも割り勘を求めてくるケチくさい男だったらどうしようかという意味で言ったのかと思っていた。
「そんなこと言わないよ」
と答えながら、彼女の様子を見つつ改めて考えてみた。
その結果、昨夜過ごした彼女との時間は素晴らしく、意味のあるものであったとボクが考えたがゆえに、支払ったと捉えているようであった。
つまり、その意味するところは、これからの関係もよろしくお願い致しますと言ったも、同然であったようだ。
ボクとしては、立つ鳥跡を濁さずではないが、わだかまりを作ることなく、すっぱりと関係を断ち切ろうとしての支払いであった。まあ、そもそも宿代は出すつもりではあったが。
だが、どうやら、それにより、変に思わせてしまったようで、この後どうしようかと悩んでしまったのであった。




