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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

To be continued……

作者: ぼっち球

 目を覚ますと、学校の校門前だった。何を言っているか分からないと思うけど大丈夫。私も分かってないから。






 ……大丈夫なワケあるか!! ここはどこ!?

 たぶんどこかの学校だとは思うんだけど、目の前の学校は本当に“学校”なのかと疑いたくなる佇まい。建物は豪華絢爛だし、次々と停まるリムジンから金持ちっぽい学生が出てくるし、オマケに「御機嫌麗しゅう」とか挨拶しあってるし!


 さらに言えば、私が私じゃなくなってる。視界の端に金髪ロールが揺れてるし、回りの学生と同じ制服を着ているし、意味が分からん……

 カムバック、手入れをしていない黒髪ぼさぼさヘアー!



 思い出せ、私! 最後の記憶を思い出せ……!





 …………あ、思い出した。轢き逃げされて死んだんだったわ。


 いやぁ、思い出せて良か……良くねえ!!

 死んでるじゃん! 私死んでるじゃんか!


 でも、明らかに天国って感じじゃないよなぁ。

 てぇ事は、コレってアレか? 転生ってヤツ?

 輪廻転生? リインカーネーション? みんなニコニコ、ウヒャヒャヒャヒャ!



「御機嫌麗しゅう、九条院様」



 なんて考えてたら、見知らぬお嬢様に挨拶された。

 一目で高級と判るバッグに、キューティクル煌めく茶髪。その上、挨拶は“御機嫌麗しゅう”。

 間違いない。Theお嬢様だ。テンプレだ。



「えーと……ご、ごきげんうるわしゅう……?」



 ドギマギとした私に、挨拶してきたTheお嬢様が怪訝な顔をした。

 ……そもそも誰だよ“九条院”て。

 私に向けて挨拶してきたって事は、私が“九条院”なんだろうけどさ。前世は“田辺”だったのに、どんだけレベルアップしてんのよ私の苗字。



「……あ、そうだ!

 私の名前、知らない?」

「九条院、麗子様、です……」



 Theお嬢様の顔が怪訝な顔から不審者を見るような顔になった。

 ……そりゃそうか。


 いや、それにしても“九条院麗子”って……

 悪役令嬢みたいな名前じゃん。超平和主義の凡人には合わなすぎるよ。名前負けだよ。



 とか考えているうちに「失礼します」と去っていくTheお嬢様。全力ダッシュするお嬢様なんて初めて見た。優雅さゼロだ。

 どうやら私は、身の危険を感じさせる程に不審者オーラを放っていたらしい。


 それにしても、どうしたものか。

 自分の素性すら知らないってのに、このまま校内に入る?


 いやいやいやいや、無理でしょ。どう考えたって無理でしょ。

 かといって、回れ右して外へ出ても迷子になるだろうしなぁ……



「おはよう、麗子!」



 八方塞がりな現状に校門前で絶望してたら、肩を叩かれた。相手は超イケメンだった。

 イケメンじゃない。()イケメンだ。



「ご、ごきげんうるわしゅー……」

「ハハハ、何だよその挨拶!

 こんな所に突っ立って、どうしたんだよ?」

「本当にどうしたんでしょうね。私には分かりかねます」

「何でだよ!」



 超イケメンにツッコまれた。

 スゲー爽やかにツッコまれた。



「ほら、そんな事より早く教室行こうぜ!」



 そう言うや、流れるように私の手を握り、歩き出す超イケメン。

 ……誰だよあんた。でも何となく見覚えがある。


 最近(前世で)見たような気が…………あ。



「……朝倉、翔太?」

「ん? どうした?」



 正解だった。“朝倉翔太”ってのは、前世でやっていた乙女ゲームのキャラの名前だ。

 ということは、だ。ここは乙女ゲームの世界?


 あー、そう考えてみると、この学校にも見覚えがあるわ。

 じゃあ、“九条院麗子”は誰だよって話なんだけど、残念ながら、それについても思い出した。



 悪役令嬢に転生したんだ、私……




 ▼




 翔太と一緒に教室に向かいながら、ふと疑問に感じた事が一つ。悪役令嬢の麗子(私)って翔太と手を繋ぐような仲だったっけ?

 轢き逃げされた影響か、イマイチ乙女ゲームの設定を思い出せない。もどかしい。


 けど、まあ、超イケメンと手を繋ぎながら歩けるのだ。役得役得と満足しておこう。

 前世では彼氏どころか友達すらいなかったからね。設定を思い出せない事が些事に感じられるほど嬉しい。心臓ドッキドキだよ。




「それにしても、大変だったな麗子」

「……へ?」

「いや、気にしてないなら良いんだ。

 ……うん、そうだよな。俺達が――」


 ――キーンコーンカーンコーン


「やべっ! 走るぞ!」



 超重要っぽい会話の途中でチャイムが鳴った。

 なにこのベタな展開。




 ▼




 ないわー。

 超ひくわー。

 ドン引きだわー。


 遅刻ギリギリで教室に滑り込み、授業が始まったわけだけど……マジひくわー。


 私の席の斜め後ろ。そこには乙女ゲームの主人公が座っている。ここまでは予想の範囲内だからいい。

 ノートを書くフリをしながら後ろを盗み見ると、その主人公の机の上に菊の花が飾られていた。主人公は俯いてるし、周りは見て見ぬふり。本来注意するべき立場の先生すらも、主人公を無視。


 壮絶ないじめを見た。

 誰だよ主人公をいじめた奴は!

 …………転生する前の“九条院麗子”だろうなぁ……

 最悪じゃん私。いや、私じゃない私だけど。



「……ん?」



 何だか視線を感じると思ったら、お前かよ主人公!

 俯いていると思ってたけど、よく見たらメチャクチャ睨んでらっしゃる!

 私を憎むなんてお門違いも甚だしいわ。理不尽すぎるって……


 最初から主人公の好感度“憎悪”って何だよ。

 これじゃあ、前世で読んでた小説みたくモブキャラとして過ごす事も、主人公と仲良くなる事も出来ないじゃん。




 ▼




 さてさて、そんな訳で放課後です。

 授業は全て終わりました。放課後です。

 ちなみに保健室。


 一限目の授業を終えた私は主人公の視線から逃げるためトイレへ向かったんですけれども、何と言うか、まあ、その……コケて、頭を強打して、目が覚めたら保健室、みたいな?

 以上、説明終了、みたいな?


 ……頭痛ぇ。


 ドジっ娘キャラは狙ってないんだけどなぁ……

 言い訳させてもらえれば、前世よりもスタイルが良くなり過ぎていて転んだのです。身体のバランスをうまくとれない。


 朝は翔太に手を引かれながら走っていたから気付かなかったけど、身長が十センチくらい伸びてるし、胸も重いし、私が私じゃないみたい。私は私だけど私じゃないというか、何と言うか……ややこしいわ!

 嗚呼、何となく“田辺”時代の私に戻りたい。

 戻っても、轢き殺された身体だけどね……

 放送事故レベルの顔面が、放送禁止レベルに物理的進化を遂げているんだろうなぁ。


 いや、お岩さんも真っ青な、轢き殺された田辺フェイスは幽霊界に激震を走らせるんじゃないか?

 期待のルーキーとして、悪霊街道まっしぐら!




 …………アホなこと考えてないで帰ろ。外暗いし。



「って事で、帰りますねー………………返事がない」



 保健室無人なんだけど、勝手に帰ってもいいよね?

 九条院家がどこにあるか分からんけど、まあ何とかなるっしょ。


 保健室を出ると、人気の無い廊下。

 冷たい人工の光がリノリウムの床に反射して、不気味な静けさをつくりあげている。

 長々と続く廊下は異界の様で、ある種の夢幻的な雰囲気を放っていた。



「超怖いんですけどー……」



 一回死んでるからって舐めんじゃねえぞ!?

 私の恐怖耐性はゴミクズだぞゴラァ!?


 落ち着け私……!

 日が暮れてるとはいえ、普通に教員が居るはずだ。人が居るのに、幽霊なんかが出るはず無かろう!


 私はカバンを取りに行って、普通に帰る。たったそれだけ!

 って事で、教室へGO!




 ▼




「一日一歩、三日で三歩、三歩歩いて二歩下がる。人生は正に牛歩戦術!

 取引先に牛歩戦術! 宮本武蔵も牛歩戦術! 皆を怒らせ牛歩戦術!

 急がば回れ! レレレのレ!」



 馬鹿な事を喋ってないと、恐怖で涙が出ちゃう。女の子だもんっ!

 いや、マジで怖いわぁ……


 自分の足音が反響して、他人の足音に聞こえちゃうんだもの。

 かといって注意して歩かないと、またコケちゃいそうだし。

 ゆっくりのそのそ牛歩戦術!



「でも、牛も人間も歩く速さはほとんど同じっていうね。

 牛もとんだ風評被害だよ」



 窓の外は闇。鏡のようなガラス窓には、九条院麗子の顔。性格悪そうな顔してるわぁ。

 変顔とかしてみたり?



「出来るかボケぇ!」



 窓なんて見れねぇよチクショウ!

 窓に幽霊映ってたらどうすんだよ!

 私のビビりっぷりに刮目せよ!



「ビビる九条院……語呂悪いなぁ。

 ってぇことで到着でい! てやんでいバッキャロウ!」



 教室の前に到着。

 大丈夫、大丈夫、大丈夫、大丈夫、大丈夫、大丈夫だよねぇ……?

 突然笑い声とか聞こえたら、マジで泣くよ? 泣き叫ぶからね?



「でも、カバンを持って来ないと……」



 蜘蛛の糸に縋り付きたい気持ちに活を入れる。

 考え過ぎるから良くないんだ。怖くないさ。明けない夜は極夜! ダメじゃん!

 あ、でも、ここ日本だからノーカン! 明けない夜は無いさ!



「ヒアウィーゴー! 私一人ぼっちだけど!

 一人ぼっち。でも、太陽だって富士山だって、みんな一人ぼ――ひぃっ!?」



 教室に電気を付けながら入ると、人影があった。主人公だ。

 昼間と同じく菊の供えられた机に、俯きながら座っている。黒い簾の奥から、憎しみの籠められた眼を私に向けてる。



「……ごきげんうるわしゅー」

「……………………。」



 渾身の挨拶はスルーされた!

 ヤバいよヤバいよマジ怖い!


 こういう相手は刺激しちゃいけない。

 流れるようにカバンを持って、空気のように教室を出よう。


 ほーら、私は空気。私は空気。

 前世で培った能力を遺憾無く発揮しろ私!



「………………なんで?」

「ひぃっ!?」



 カバンに手をかけた時、突然主人公が呟いた。

 心臓が破裂するかと思った……



「……え、と、『なんで?』って?」

「………………。」



 無視。

 何なんだよ! 怖いよ!



「えーと、あの、私帰るね。さようなら~……」

「………………。」



 無視。

 俯いたままの主人公に別れを告げたし、帰ろう。早く帰ろう。

 主人公の陰鬱な雰囲気がホント怖い。


 カバンを持ち上げ、グッバイ教し、つ……ん?


 身体が、動かない!?

 え? なにこれ? 金縛り?


 ヤバいって! ホント怖い助けて怖い!



「………………なんで?」



 目の前の主人公が再び呟き、徐々に顔を私の方へ向ける。

 それに合わせたかのように、突然教室の電気が明滅し始めた。

 コマ送りみたいに、じわりじわりと顕になってゆく主人公の顔。



「――――っ!」



 動かない口から、声にならない悲鳴が飛び出た。

 主人公の顔が、血みどろだったのだ。表情の抜け落ちた顔で、眼だけが憎しみの色に染まっている。

 元は綺麗だったであろう黒髪も、どす黒い血液によって顔に貼りついていた。



「………………なんで?」



 知らないって! わからないよ!

 怖い! 怖い怖い! 怖い怖い怖いこわいこわいこわい……!


 私は何もしていないのに!

 なのに、なんで恨まれなきゃならないの!?



「………………許さない」



 主人公が立ち上がり、一歩一歩近づいてくる。

 私との間にある机をすり抜けて……



「――っ!」

「………………許さない」



 動けない私。目と鼻の先には主人公の霊。



「――ごめんなさい!」



 口が、動いた……?


 あれ?


 電気の明滅もおさまり、主人公も消えている……

 身体が、動く。


 その事に気づいた瞬間、私はカバンも放り出して逃げていた。

 一刻も早く教室から離れたい。




 ▼




「っは! は!」



 息が絶え絶えになっても、わき腹に鈍い痛みを感じても、走り続ける。

 廊下を掛け、生徒玄関から飛び出し、夜の道路を懸命に走る。

 そして、どこか分からない十字路で、漸く足が止まった。体力の限界だった。



「こ、ここ、まで……はぁはぁ……来れば……」



 主人公が幽霊って何なの……

 そりゃあ、菊の花も納得だよ。


 ようやく分かった。この世界は乙女ゲームの“BAD END”後の世界なんだ……

 前世のゲームで主人公が死んだのを見たじゃないか。


 ああ、そうだ。

 前世では、そのエンドを見た後、コンビニへ行く途中で轢き殺されたんだ。



 じゃあ、もしかしたら……



「逃げ、なきゃ……!」



 疲労で鉛のように重い身体を無理矢理起こす。


 逃げなければ……

 死にたくない……





   「………………まだ足りない。

    ………………絶対に、許さない!」





 フラフラと立ち上がり、一歩を踏み出した身体が、宙に浮いた。

 遅れて、激痛。視界の端には、車……


 また、はねられた……


 地面に身体が落ちる前に、私の命は儚く消えた――




 ▼




 目を覚ますと、学校の校門前だった。何を言っているか分からないと思うけど大丈夫。私も分かってないから。

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