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私の名は

そのときは、まさか異世界からきた少女とは夢にも思わなかった。


最初は、先ほどの落下の衝撃に対して落ちて来たものの、まぁなんと可愛らしいことだろうと思っていた。

肩に少しかかる青色の髪は春の陽射しを浴びながら、涼やかな春風が彼女の体を撫でると同時にふわりと静かに揺れた。服は動きやすそうではあるが、どこか品を感じるデザインだ。


だが俺は警戒を解くつもりはなかった。

そもそもこの少女、登場の仕方からしておかしい。突然、妙な音がして空が割れたと思えば、すごい勢いでこの少女が飛んできた。


少なくとも、普通の少女ではない。


彼女が何者かということを考えればキリがない。しかし、関わるとろくなことがないのは明確だ。

例えば、彼女が宇宙人であるとすれば俺は捕虜として捕らえられるだろう。うまく彼女から逃げたとしても、宇宙人に接触したという理由でエリア51の職員やCIAに追い回されるかもしれない。

仮にこの子が地球人であっても、この辺りの観光名所を案内させられることになるのだから面倒なことには変わりない。


これ以上何かが起こる前に、逃げるのが良いだろう。

踵を返した俺の背中に、呻くような声が語りかけてきた。

「ま、ちなさい、よ……」

日本語だ。俺の脳は逃げろという命令を出すよりも、彼女の発した言語が何語かということを判断した。我ながら暢気な脳だ。

すっかり機先を削がれた俺は、親切なことをすることに決めた。


俺は何も起きないのが一番、ということを信条にしてはいるが、起きてしまったことは仕方がない。その中でどれだけ穏便に事を納めることができるか、ということに問題を移すのだ。今回も、その例に漏れてはいない。


日本語が通じると判断した俺は、問題解決も楽勝、異常な事態のなかに、ようやく普通なところを見いだしたと思ったが、あとになって考えればこの時何がなんでも逃げるべきだったと後悔した。


「ここはどこなの?」

初めて彼女と目を合わせた。翠色の瞳は真っ直ぐにこちらを見つめている。その瞳の中には、強さとかそういったものが窺えた。


「ここは、日本です。」と答えた。

「っていうか、まずあなたは何者なんですか。いきなり空から降ってきて。日本人ですか?」

俺がそう捲し立てると、彼女はフッと笑い、

「よくぞ聞いてくれた!」と芝居がかった口調で叫んだ。

「私の名はフォルティア王国第三王女、アナスタシア・ディ・フォルティア! で、ニホンってどこなの?」


やはり、普通じゃなかった。


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