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第八話
「完全じゃないと美しくない。間違ってないさ」
黒崎さんは酒を飲みながら話す。
「正しい感性だよ」
彼は僕の肩を叩く。
「でも市松先生は極端さを避けろって」
「あの爺さんは善人だからな。お前に幸せになって欲しいんだよ」
僕は意味がわからなくて首を傾げた。
「普通になって欲しいってことさ」
彼はまた銀色のウィスキーボトルに口をつける。
「だけど俺はお前みたいな奴が嫌いじゃないよ」
そう僕の額に指を置く。
「人を傷つけたくない。素晴らしいことじゃないか」
誉められて少し恥ずかしい。
「だけどそれじゃ生きられないって……」
彼は酒を飲みながら頷いた。
「優しい人間がまっとうに生きられない世の中が間違ってるのさ」
彼はそうはっきりと言った。