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第二十八話
「ユキは何処なの!?」
そう院内に女性の騒がしい声が響いた。
僕は小説を読む手を止めた。
受付の方を見ると四十代程の女性が、
声を荒らげている。
おそらくユキの叔母さんだと思った。
市松先生が病棟の方から歩いてきた。
「市松先生。もう治療なんて必要ないでしょう」
そう女性が食ってかかる。
「心を治療するのは時間がかかるものですから」
「確かにあの時は貴方におまかせしましたけど……」
「ここではなんです。向こうへどうぞ」
そう先生は僕がいる談話室を示した。
こちらへ靴音が近づいてくる。
僕は思わず眼を伏せた。
叔母さんはユキと会いたがっているのだ。
そしてそれは僕も同じだった。
最後にユキを怒鳴ってしまって以来僕はユキと会えていない。




