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第二十六話
「診療中ユキはいつも君の話をしていたよ」
彼は淡々と話す。
「自分に似た人に初めて会ったって」
彼は少し苦しそうな顔をした。
「初め私は君とユキが接触するのを心良く思っていなかった」
先生はため息を吐く。
「必ず恋愛に似た感情になると思ったからだ。それはひどく人の心を不安定にさせる。だけどね」
彼は眼鏡を拭いた。
「君と会ってからユキの凍った心が溶けていくのがわかったんだ」
市松先生は微笑んだ。
「感情が豊かになってね。自分が綺麗に見えるかなんて容姿も気にするようになった。いつも嬉しそうに君のことを語っていたんだ」
先生は一息つき僕の方を見た。
「君ならユキの人生を変えられると思った」
心臓が高鳴った。重責を感じたせいか。
それとも初めて誰かの役に立てると思えたからだろうか。




