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第二十三話
先生は無言で観葉植物に霧吹きをしていた。
彼に怒られると思った。
約束を破ってユキを好きになってしまったから。
それだけじゃなく彼女をひどく傷つけてしまった。
「コーヒー飲むかい」
「はい?」
「暖かい飲み物を口にすると落ち着くよ」
先生は僕の返事を訊く前にマグカップを渡す。
そしてもう一方の手を差し出す。
残った手で受け取るとキューブ形のチョコレートだった。
「そうか。ユキは泣いてたか」
先生は窓から中庭を眺めながら言う。
僕はばつの悪い思いをしながら頷いた。
「やっと誰かを信頼できたんだな」
そう感慨深い様に溜息を吐いた。
口角をあげた先生はどことなく嬉しそうに見えた。
僕は意味が解らなくて訝しげな顔をしてしまった。
「この時間は診療費はいらないよ」
彼は椅子に座り僕の方に向きかえった。
「今日は立場を替えよう。逆に私の話を聞いてくれないか」
先生は両手を合わせ三角形みたいにして額に当てた。
「ユキの過去について。私に懺悔させて欲しいんだ」
先生の奥にある珈琲メーカーは黒い液体を並々と満たしている。




