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第二十二話
「聞いてる?」
「うん?」
「もしさ。もしだよ。病気が治ったらさ。一緒にさ……」
彼女は談話室で普段の僕に負けないくらいもじもじと物を言った。
「暮らせるかな……。二人だったら、きっと、」
彼女の頬は林檎みたいに赤くなった。
「やめてくれないかな」
自分でもよくこんな冷たい声が出ると思った。
「そんな空想。常識で考えたらわかるだろ」
彼女は予想外の言葉だったのか瞬きを何度もしていた。
「僕ら病気なんだよ。誰かに依存して生きてるんだよ」
何だか胸がむかむかしてきた。
「仮に治ったとしても僕らに何がある? 金も無い。社交性も無い」
僕は自嘲気味に笑ってしまった。
「貧しさと弱さしかないんだよ」
ユキは小さく呟いた。
「心があるよ」
その声は震えていた。
僕は少し言葉につまった後、髪を掻き足元をみながら言った。
「そんなんじゃ飯は食えないよ。そんなんじゃ……」
ユキが黙っていたので顔を上げ彼女を見た。
ユキの瞳からは涙が流れていた。
ああそうかと気付いてしまった。
僕は誰かに対して怒れたのだ。
感情を吐露できたのだ。
僕は呆然とそこに立っている。
ただ彼女の嗚咽だけが耳に残った。




