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第二十一話
先生には反対されていたが僕とユキはよく会うようになった。
彼女と映画に行ったり喫茶店でお茶を飲むのは楽しかった。
その時だけは自分が病気であることを忘れられた。
「さて今度は何処にいこっか?」
そうユキがアイスコーヒーの氷を鳴らしながら訊く。
いつも彼女が行先を提案するのだ。
「品川にね。良い水族館があるんだって」
「そう」
「日の出駅の近くでね。船が出るんだって。意外と安い……」
彼女は困ったように笑う。
「悩みごと?」
「ちょっとね」
ユキは素っ気ない返事につまらなそうな顔をする。
そうしていると途中で電話がかかってきて彼女は席をたった。
残った僕は独り頭をかかえる。
誰かを愛するということは今の僕にはとてもつらい。
グラスの氷が溶け落ち澄んだ音が響いた。
僕は知らぬ間にユキを好きになっていた。




