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第十九話
彼女は濡れた前髪を指ではさみ滴を切る。
僕も頭を振って雨を落とす。
「そんなに濡れてたら中に入れないね」
そう僕の姿を見てユキは笑う。
「ちょっと待ってて」
そう彼女は小走りで院内に入っていった。
暫く待つと赤色のカップを二つ持って彼女が戻ってきた。
「はいコーヒー。おごってあげるよ」
掌に温かさが伝わってきた。
なんだか言葉につまる。
コーヒーから湯気が流れていく。
「……たまにね思うんだ。スー」
「うん?」
ユキがおもむろに口を開いた。
「自分が壊れてるんじゃなくてさ」
僕が続きを待っていると雨の音が響く。
「この世界が壊れてたら良いのにって」
彼女はそう寂しそうに呟く。
ふと視界に入った中庭は降り注いだ雨で銀色に見えた。




