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第十八話
僕は中庭で呆然としていた。
好きな小説も読めない。
手が震えるんだ。
つらさに耐えてまで生きる意味って何だ?
僕にはわからない。
小さな雨がポツポツと降ってきた。
赤い煉瓦が暗い紺色に染まっていく。
僕は其処から動かなかった。
そのうち本降りになってきた。
庭の葉が雨を弾いている。
僕の衣服も濡れてきた。
「風邪ひいちゃうよ」
僕の周りだけ雨が止んだ。
ユキが傘を差している。
僕は暫く口も開けなかった。
「中入ろうよ」
「良いんだ」
「何で?」
彼女が訊く。
「……涙をごまかせるから」
男のくせに泣いたって誰も共感なんてしてくれない。
弱いって責められるだけだ。
特に女の子から見れば情けない、頼りないって思われるだけ。
わかってるのに。
どうして僕はユキに本当を話してるんだろう。
僕に傘を差すユキは雨で濡れている。
長い髪から小さな滴が落ちていた。




