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第十二話
金魚は泳ぎながら夜空を眺める。
病院の中庭は提灯が照らすオレンジ色の光に包まれていた。
ボランティアの人が開いてくれた小さな夏祭り。
くじや金魚すくい輪投げに人だかりが集まっている。
楽しかった子供の頃を思い出す。
僕はいつもと同じ服装でユキは浴衣姿だった。
「治りそう?」
ベンチに座りながら首を振った。
「良かった。じゃあもうちょっと一緒にいられるね」
そう隣で彼女が嬉しそうに微笑む。
複雑な気持ちになる。
「どうしたの?」
「焦るんだ。このままで良いのかなって」
中庭から見た空は四角い空だった。
閉じられた世界にいるって感じさせられる夜空。
「きっと神様がくれたお休みなんだよ」
ユキが小さく呟く。
「今までずっと頑張ってきたから。ちょっと休んで良いよってくれたお休み」
僕は慌てて反論しようとした。
そんなに頑張ってない。それに甘えって言われることの方が多い。
そう話そうと思ったのに何故だか舌が上手く動かない。
「焦らなくても良いんじゃない。ゆっくり頑張っていこうよ」
そう彼女は僕の眼を見て笑った。
遠くで金魚が跳ねる音が聴こえた。




