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第十一話
黒崎さんは今日も酔ってる。
看護師さんに注意されても笑ってごまかす。
それで許してもらえるのが彼のすごい所だ。
酔っていてもどこか風情がある。
男なのに色気があるというんだろうか。
堕ちている姿が良く似合うのだ。
彼を支えてあげたいという看護師すら何人かいる。
男前というのはスゴイ。
「黒崎さんは良いですね」
「何がだい?」
「存在が芸術みたいで」
彼は咳き込む。酒が喉にからまったみたいだ。
「ずいぶん詩的な表現だね。どういう意味?」
「無精髭生やして。酒飲んで。芸術語ってるだけで人に愛されるんだから」
「なんかさり気なく悪口入ってない?」
「生き方が美しいから愛されるんでしょうね」
僕がそう言うと黒崎さんは少し考えてから口を開いた。
「……俺の求める芸術には程遠いよ」
そう彼は独り言みたいに言った。




