ダイエット症候群の女 ~やせる裏技で男を奪う鮮血のメロンパン~
夏だというのに暖房を効かせた自室で、サウナスーツを着込んだ亜希は一心不乱に運動をしていた。
「まだまだ……まだよ。良一さんは痩せた人が好きなタイプなんだから。ウフフフフ」
足下には汗で大きな水たまりができている。ダイエットは明らかにオーバーワークで、亜希の頬はこけ、顔色からは生気すら失われていた。
亜希の過剰なダイエットには理由があった。片思いの相手だった良一を、聡美という他の女に奪われたのだ。
「ああ。メロンパン、メロンパン食べたいぃぃぃ」
その時に聞いた、良一は痩せた女がタイプだという噂。亜希は良一にとって意中の人となるため、過酷ともいえるダイエットに邁進することになった。
だから大好物のメロンパンも、もうしばらく食べていない。良一のことを考えれば、ダイエットも辛くはない。しかしメロンパンを断っていることに関しては、禁断症状の出る思いだった。
と、自室マンションの扉がいきなり開いた。誰かと驚いて見ると、そこにいたのは良一である。
「聞いたよ、亜希さん。実は俺が好きだったのは君のことだったんだ。聡美とは別れてきたよ。お願いだ、結婚してくれ!」
なんという急展開。しかと亜希の両手を握りしめる良一。夢でも幻でもない。はい喜んで……と答えようとした、その時。またバン! と激しく扉が開いて誰かが入ってきた。
聡美だ。
「待って、良一さん!」
「すまない、聡美さん。俺は真実の愛に目覚めたんだ。俺は亜希と結婚する。君とは別れさせてくれ」
良一は聡美と目を合わせようとすらしない。肩を落とす聡美だったが、キッと憎々しげな視線を亜希に向ける。
「この泥棒猫! 良一さんを返して、返してよ!」
「いやよ、私だって良一さんのことを愛しているの。そのために、ずっとダイエットだってしてきたわ」
「ダイエットだったら、コッチだってしてきたわよ! なのに……なのに……どうして、その女じゃないといけないのよォォォ!」
聡美はその場にうずくまり、泣き出した。
「聡美さん……」
流石に気の毒になってきたか。亜希は聡美へ手を差し伸べようとする。と、そこで聡美は自ら顔を上げた。
「良一さんの気持ちは分かったわ。でも、この女は本当に良一さんを愛してるのかしらね?」
「もちろん私も良一さんを愛してるわよ」
「じゃあ試させて頂戴……正直、この裏技だけは使いたくなかったんだけどね」
といって聡美が懐から取り出したのは、袋入りのメロンパンだった。亜希は思わず涎が出そうになる。
「このメロンパンと良一さん。今すぐ欲しいのはどちらかを選んでくれないかしら?」
この提案を聞いて、良一は軽く笑う。
「ははは。そんなの僕らの愛に比べたら……ねえ?」
と亜希の様子を見て、良一は仰天する。亜希は明らかに迷っていた。
瞬間、亜希は悟る。聡美はなぜ、こうも都合良いタイミングでメロンパンを用意できたのか。間違いない。聡美は私がメロンパン好きだと知っている、しかも考えてみれば、良一さんが痩せた女がタイプだと自分に教えたのは聡美だった。
これは……全て聡美の罠だったのだ。
だが、もう遅い。亜希の手はゆっくりとメロンパンへ向かう。良一の顔色がみるみる絶望に青ざめてゆく。亜希は慌てて弁解した。
「ちっ、違うのよ? 別に良一さんのことを愛してない、ってわけじゃないの。そうよ。緊急事態。これはダイエットで私の肉体が、今すぐ栄養を求めているせいなのよ。メロンパンを食べたら、後でちゃんと良一さんも選ぶから!」
「ダイエット症候群の女が、男を奪う裏技でメロンパンを先決した!?」
※ 番組の途中ですが局からのお知らせです。タイトルに誤植がありましたこと。視聴者の皆様に深くお詫び申し上げます。