一人ぼっちの神様
初めての童話です。ですます調はこの上なく辛く、童話調のストーリーも肌に合わない事が分かっりました、、、
本当はもっとダークな話しにする筈だったんですが、気付いたらこんな事に。何か大きな力の片鱗を感じました。
それでは、どうぞ……。
雲の上に浮かぶ、大きな神殿がありました。太陽の光を浴びてキラキラ輝く、神様の住んでいる神殿です。
神様は一人ではありません。色の神様、お金の神様、踊りの神様。その他にもたくさんの神様がいます。神様にはそれぞれきちんとした仕事がありますから、今日も神殿の中は大忙しです。ああでもないこうでもないと、あちらこちらを行き来する慌てん坊の神様や、あとでどの人間にどれくらいのお金をあげようか、なんて悩む神様もいます。
一番大変なのは、海の神様や山の神様です。やれお魚をたくさん取らせてくださいだの、やれ山の果物をたくさん実らせてくださいだの、地上に住んでいる人たちから毎日のように祈りを捧げられ、そのたびにどう返事をするべきか悩むのです。
神様は毎日が大変です。
それでも、それと同じくらい毎日が楽しいのです。
しかし、一人だけ、そうじゃない神様がいました。
物を壊すことしかできない、破壊の神様です。人を死なせてしまう死の神様と同じで、人々から嫌われている神様です。
死の神様は召使いがいるので、そんなに寂しくありません。でも、破壊の神様にはそんなものはいません。
にぎやかな神様の神殿の中で、ただ一人ぼっち。神殿の誰も来ない、一番暗い所に閉じこもっているばかりです。
破壊の神様のことが好きな神様はいませんでした。なぜなら、彼はとっても優しいからです。優しすぎて、物を壊すことができず、神様の中で一人だけ仕事をしていないからです。
「僕たちは一生懸命頑張っているのに、なんでおまえだけ何もしないんだ。」
そう言われたこともあります。悔しくなって、物を壊しました。けれど、大切なものを壊されて悲しんでいる人の顔を見たら、次の日からは何もできなくなってしまいました。
そんな破壊の神様の趣味は、地上にいる人々の様子を見ることです。破壊の神様が休んでいることで人々は常に嬉しそうで、その様子を見るのがたまらなく心地よいのです。
ある時、ふと地上に行ってみたくなりました。
「地上に行って、人々の幸せな様子をもっと近くで見てみたい。」
そう思ったら、さっさと神殿から抜け出していました。
そして降り立ったのは、シュパイションと言う名前の、小さな町。
小さいのにとても賑やかで、破壊の神様はさっそく嬉しくなりました。
「僕が仕事をしないだけで、人々はこんなにも幸せになれる。それはとってもいいことじゃないか」
そう言いながら、破壊の神様はにぎやかな町の中を歩いていきます。
町の人たちは、誰も彼が神様だとは気づきません。神様の姿は、人間と変わりないからです。でも、多くの神様はきらびやかな衣装をまとい、鮮やかな髪の色をもって、人々の目を引きます。普通はただのお金持ちだと思うのですが、教会にいる神父や尼さんは気づきます。気づいた神父は尼さんは、それでも騒ぎ立てず、すれ違いぎわに小さくお辞儀をするだけです。
ですが、破壊の神様はどうでしょう? 真っ黒な髪に不気味なローブを着て、とても神様には見えません。これにはさすがに神父さんや尼さんも気付く事が出来ず、すれちがってもお辞儀などはしません。
けれども、やっぱり破壊の神様はそれで良いと思うのです。
自分なんかに気付かれて、破壊の神様だと知られたらきっと町の人たちは怖がってしまいます。だから気付かれなくてもいいと、そう思うのです。
ふと、泣き声が聞こえてきました。子供の泣き声です。
破壊の神様が、どこから聞こえてくるのだろうと首を巡らせるとすぐに、泣いている子供が見つかりました。地面に座り込んだ女の子が、たくさんの大人に囲まれながら泣いています。
その子供はどうも転んでしまったらしく、右の足をケガしていました。痛さに泣くその子を、優しそうな女の人が必死になだめようとしています。ですが、泣きやむどころか一層大きく声を上げてしまうのです。
うーむ、どうしたものか。
町の人たちが頭を抱えるのを見て、破壊の神様はついといった様子でそちらへ歩いて行きます。
「ちょっといいかな?」
なだめようとしていた女の人の代わりに、今度は破壊の神様が泣きやまない女の子の前に座りました。破壊の神様を見慣れないヤツだと小声で話す大人たちをよそに、女の子に話しかけます。
「痛いの?」
大きな声で泣く女の子は、少しだけ声を小さくして、大粒の涙をぼろぼろとこぼしながら頷きました。「そう」と言った破壊の神様は、自分に何か出来ないかを考えます。モノを壊す事しか出来ない破壊の神様は、ちょっと考えると、すぐに何かを思いついたような顔になります。
女の子の、ケガをしている足に手をかざすと、そっと目をつむります。
するとどうでしょう、今まで泣いていた女の子の声がどんどん小さくなっていきます。ケガは消えていませんが、痛みが消えていっているようです。そのことに周りの大人たちは気付きませんが、女の子の声が小さくなっていっていることに関心しているようです。
「うん、うまくできた」
そう言って笑う破壊の神様の顔と、自分のケガを交互に見る女の子。不思議なそうな顔をしている女の子に、破壊の神様は人指しを立てながら言いました。
「いいかい? 家に帰ったら、そこを水で洗うんだよ? わかったね」
女の子が小さく頷くのを見て、破壊の神様は立ち上がります。そしてすぐに、その場から立ち去ってしまいました。周りの人たちはそんな破壊の神様のことを少しは気にしながらも、女の子の方へと駆けよって行きます。
大丈夫? もう痛くないの? さっきなにかされたの?
色々なことを女の子に言う声を遠くに聞きながら、破壊の神様はくすりと笑って自分の手を見ました。女の子の『痛いの』を壊した、自分の手です。こんな使い方をしたのは初めてですが、うまくいって良かったと、女の子を楽にできて良かったと、そう思いながら笑うのです。
きっと、雲の上の神殿に戻ったら一番偉い神様に怒られてしまうでしょう。破壊の神様が人を直すのは、本当はいけない事なのです。それでも、それが分かっていても、人を幸せに出来たのがうれしいのです。
今まで雲の上の神殿から、色々な人の幸せを見てきました。けれども、自分の手で救ってあげたその気分は、初めて知ったものです。少し恥ずかしい気がするのに、そんなのが気にならないくらい気持ちが良いのです。
またいつか、人を幸せにできたらいいな。
破壊の神様は、そんなことを想いながら雲の上の神殿へと戻って行きます。
足元の小さな町を見つめながら、やっぱりその顔はほころぶのです。
短編……ですが、もしかしたら……。