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ターミナル駅

作者: 駄々

何かにつけて通った駅。幼い頃の私も、若い私も、そして今の私も、駅は見ています。立ち込める空気に私の記憶が染みついているかもね。

 自宅の最寄り駅を境にして、上りと下りでは景色が大きく異なっている。次第に家が疎らになり、ビルが低くなり、時折広い駐車場を備えた大型スーパーやホームセンターが見える下り沿線は、さらに進むと緑は深くなり、山々が近くなり、川が流れ、夏はキャンプ場が賑わうレジャーの中心地へと続く。上りはというと、あっという間にビルが立ち並ぶ都会の景色に変わる。線路ギリギリにまで建物が迫り、新しいビルの隙間にカビ臭そうで崩れそうな古家が挟まれつつ立っており、それでも洗濯物が干してある。今ではほとんどが高架になった。電車の窓から富士山が見えるスポットがいくつかある。春から夏はなかなか見えないが、冬は真っ白い富士山を見たくて、必ず進行方向右側の窓に向かって立つ。

 ターミナル駅までは急行だと20分程度だ。池袋。私の電車の記憶は「池袋駅」に始まる。私がまだひとりっ子だった頃、両親と三人で都心まで出掛けた帰り、読めるようになっていた平仮名を駅に着く度に大声で読んでいた。山手線だったのだろう。い・け・ぶ・く・ろ、という五つの平仮名は、不思議な感覚とともに私に入ってきた。いけ(池)と、ふくろ(袋)という関係なさそうな単語がふたつ組み合わさってひとつの単語となり、意味不明な駅名になっている。子供心に、多分、「大塚」は大きな塚であり、「巣鴨」は鴨の巣だったのだが、「池袋」は池の袋という、全く理解できない言葉だったのだ。

 「い・け・ぶ・く・ろ?」と叫んだ自分の声が今も聞こえる。「そうだよ。よく読めたね。」と答えてくれた父と母の声も聞こえる。遠い記憶の始点がこのターミナル駅なら、学生生活の始点も、今の生活の始点も、やはりそうなのである。



心はいつも 過去に戻りたがる

疲れた心は なおさらだ

ターミナル駅の地下道は

幾万もの私自身の足跡で塗りたくられた

床も見えないだろう

確かなことだ

この地下道を

何年も何年も歩いてきた

二十年

三十年戻っても

変わらず私はここを歩いている

特に語る程でもない日常も

人生を変えた程の特異な日も

足跡にしてしまえば

みな同じ大きさと強さで

立ち込める空気を汚してゆく

幾万もの私が重なりあうこの場所で

さらに重ねて塗ってしまおう

きっと時の流れは

そのようなものにすぎないのだ

繰返し塗り重ねて

色も消え

私自身の かそけき呼気も

大きな時の流れに吸い込まれる

そしてこの地は

不変のターミナル

それは

諦めにも似た安心感を誘って

多くの足跡を

受け止める


大学の四年間で熟知したはずの池袋は、あれから随分と変わりましたねー。

でも、ここに来ると、落ち着く私がいます。

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