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イグネー  作者: しらら
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1/6

序

   


 草原の不思議。


 太古より変わらない不思議。



 二人の子供が歩いている。

 大きい子供は生まれて十年かそこら、

 小さい子供は足元がおぼつかない。

 簡素で最低限の服装。

 何も持たない。身ふたつで。

 風にたなびく萱草の中、手を繋いでひたすらザクザクと歩いている。


 晩秋の厚い雲から薄日が差す。

 小さい子供がしゃがみ込んだ。

 大きい子供が前に回って背負い上げる。

 細い背中に余る、はみ出した足。

 多分この子には背負いきれない。見るからに分かる。



 風が子供の首筋から頬へ抜ける。


「ウマハ?」


 子供は目をパチパチさせて振り向いた。声の主は見えない。


「うま?」


「キミラノ、ウマ」


「馬ってあの四つ足でパカパカ走る奴? 知らない、いない」


「…………」


 風がザッと舞い上がった。

 と、すぐにまた落ちて来て、子供の前髪を揺らせる。

 直後、目の前の草が一本、フサリと倒れた。


「なに?」


「アチラニ、オトナノ、ニンゲンガイル」


「ああ、そう」


 子供はくるりと踵を反して、反対方向へ歩き出した。


「……マイゴデハ ナカッタ?」


「うん」


「…………」


「お父さんお母さんが死んじゃってから、知らない大人が大勢来て、うちの物を勝手に持って行ったり、お母さんの桑折(こおり)をグチャグチャに掻き回したり。今日はいきなり遠くへ連れて行くって言われた」


「……トオクヘ、イキタクナイ?」


「妹と別々の場所に行かなきゃならないって言われた。だから逃げて来た」


「…………」


 後方の草が揺れて、幾人もの息遣いが聞こえる。

 子供は頑張って足を前に運ぼうとするが、そんな虫みたいな歩みでは逃げる事は叶わない。

 風には分かる。

 逃げのびたとて、見渡す限り何もない草原。

 何も持たない彼らは、その先どうなる物でもない。



 背の高い草原を抜けて来た数人の大人は、誰もいない空間に首を傾げた。

 今しがた子供の声を聞いたし、草を踏んだ跡も確かにあるのに。








表紙


挿絵(By みてみん)



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